第57話 部活対抗戦の方法
文字数 2,049文字
昼休みも終わりに近づいたころ、真雪と明夏はようやく教室に戻ってきた。
二人の机は真雪が前で、明夏は後ろ。真雪が後ろを向けば、席に座ったままでもおしゃべりができる状態だった。
「真雪、次の時間なんだっけ?」
「英語だよ。長文を読むほうの」
「うげー。たしか今日は順番的に私が当てられるんだったよ。真雪、和訳の予習とかしてきた?」
「ぜんぜん。やってもたぶんわからないから」
「あ~どうしよう。ぜんぜんわかる気がしない。困ったな」
「……二人とも相変わらず、低レベルな悩みを抱えているようね」
二人のところに壱与がやってきた。
壱与は腕を組んだまま、二人を見下ろすような感じで横に立っている。
「壱与ちゃん。どうしたの?」
「今日うわさのアイドル転校生が来たでしょう? だから少し気になることがあって。あなたたち、彼になにか言われなかった? ほら、オンエア室のこととか」
「うん。それが……」
真雪は昼休みにゆうたが部室にやってきて、オンエア室を乗っ取ると言ったことなどを話した。壱与は話を聞いているとき、やっぱりといった感じで体が脱力していた。
「やっぱりそうだったのね。まだオンエア室が自分だけ使えると決まったわけではないのに。ほんと、気が早いこと」
「だいたいあいつはなんなの? いきなり部室にやって来て、ここは自分の物だなんて。あー、思い出しただけでも頭にくる!」
「め、明夏ちゃん落ち着いて」
ヒートアップしそうになる明夏を真雪がおさえる。壱与は続けて言った。
「部活対抗戦の対戦方法だけど、先にあなたたちに教えておいたほうがいいみたいね」
壱与は近くの空いていた椅子に座って、ノートになにかを書き始めた。横長の長方形を真ん中で分ける線を引いて、できた二つの四角形の中にそれぞれ丸を描いている。
「この外枠の長方形を講堂だと思って。当日は講堂を真ん中で仕切って、講堂の前と後ろで、同時に公開生オンエアをやってもらうわ」
「同時に!? お互いのオンエアの様子が筒抜けになるんじゃ……」
「それがねらいらしいのよ。生徒たちはより面白そうなほうを選んで公開生オンエアを見ることができる。隣のほうが盛り上がっていたら、そっちのほうに移動してしまうかもしれないわね。そして、オンエアが終了するまでに多くの人が見物に来た方が、この勝負で勝ちになるというわけよ」
真雪と明夏は言葉を失う。
ラジオオンエア対決は、録音してそれを生徒たちに聴いてもらうものだと思っていた。だが目に見える観客を前にすることで、それよりも何倍もプレッシャーがかかることだった。
「で、でも。みんな一緒に力を合わせてオンエアできれば、いくらアイドルが相手だって負けないくらい面白いものになるよねっ!」
「真雪さん、残念ながらそれはできないわ。公平性を保つために、各部それぞれ代表の一名がこの対決に参加することになっているの」
「一人だけ!? じゃあ、他の部員は!?」
真雪の言葉に、壱与は首を振る。
「残念ながら裏方に回るしかないわね。だから、一番上手な人を選んで、その人に命運をたくすしかないわ」
「そんな……」
たった一人で部の存続をかけて公開生オンエアをする。
すぐに緊張してしまう真雪にとっては絶対にやりたくない役目だった。
「……これは理事長が考えついた方法よ。会議で私は反対したんだけど、残念ながらくつがえすことはできなかったわ。ごめんなさい」
壱与は会議を思い出してにがい顔をしていたが、真雪は壱与のことを見ている余裕はなかった。
「一人……一人で?」
もしかしたら自分がやらなければいけないかもしれない。
どきどきしてきた真雪に、後ろから明夏がぽんと肩をたたく。
「……真雪。本番はまかせたよ」
「ええーっ!? なんで、どうして私なの!?」
「だって真雪はオンエア部の部長だから。それに二年生三人の中では、真雪がいちばん上手じゃない」
「でっでも、私よりも樹々先輩のほうがオンエア上手だし、西瓜先輩も後輩から人気ありそうだからたくさん人が来るはずだよ!」
「樹々先輩は受験勉強で大変だし、西瓜先輩はそもそもどこにいるのかわからなくて捕まらないから。となると、ここはやっぱり真雪しかいないよ」
「ええ~。やだなぁ……」
「大丈夫! 私たち裏方が全力でサポートするから。ね?」
真雪の顔色がどんどんとわるくなってくる。
「アイドルのゆうたは女子生徒の人気はあるみたいだけど、男子生徒からはあまりよく思われていないみたい。うちの高校の男女比は同じくらいだから、もし男子生徒を味方につけることができたら、勝ち目はじゅうぶんにあるわ。あきらめないで」
ちゃらら~。
昼休み終了のチャイムがなった。
壱与は真雪に、激励の言葉をかけて、自分の席へと戻っていった。
「やばっ。もうすぐ授業が始まる! 英語の和訳どうしようかな……」
真雪には明夏の声も耳には届かなかった。
「私が一人で部活対抗戦……どうしようどうしようどうしよう」
部活対抗戦まであと十日。
早くも真雪はプレッシャーを感じていた。
二人の机は真雪が前で、明夏は後ろ。真雪が後ろを向けば、席に座ったままでもおしゃべりができる状態だった。
「真雪、次の時間なんだっけ?」
「英語だよ。長文を読むほうの」
「うげー。たしか今日は順番的に私が当てられるんだったよ。真雪、和訳の予習とかしてきた?」
「ぜんぜん。やってもたぶんわからないから」
「あ~どうしよう。ぜんぜんわかる気がしない。困ったな」
「……二人とも相変わらず、低レベルな悩みを抱えているようね」
二人のところに壱与がやってきた。
壱与は腕を組んだまま、二人を見下ろすような感じで横に立っている。
「壱与ちゃん。どうしたの?」
「今日うわさのアイドル転校生が来たでしょう? だから少し気になることがあって。あなたたち、彼になにか言われなかった? ほら、オンエア室のこととか」
「うん。それが……」
真雪は昼休みにゆうたが部室にやってきて、オンエア室を乗っ取ると言ったことなどを話した。壱与は話を聞いているとき、やっぱりといった感じで体が脱力していた。
「やっぱりそうだったのね。まだオンエア室が自分だけ使えると決まったわけではないのに。ほんと、気が早いこと」
「だいたいあいつはなんなの? いきなり部室にやって来て、ここは自分の物だなんて。あー、思い出しただけでも頭にくる!」
「め、明夏ちゃん落ち着いて」
ヒートアップしそうになる明夏を真雪がおさえる。壱与は続けて言った。
「部活対抗戦の対戦方法だけど、先にあなたたちに教えておいたほうがいいみたいね」
壱与は近くの空いていた椅子に座って、ノートになにかを書き始めた。横長の長方形を真ん中で分ける線を引いて、できた二つの四角形の中にそれぞれ丸を描いている。
「この外枠の長方形を講堂だと思って。当日は講堂を真ん中で仕切って、講堂の前と後ろで、同時に公開生オンエアをやってもらうわ」
「同時に!? お互いのオンエアの様子が筒抜けになるんじゃ……」
「それがねらいらしいのよ。生徒たちはより面白そうなほうを選んで公開生オンエアを見ることができる。隣のほうが盛り上がっていたら、そっちのほうに移動してしまうかもしれないわね。そして、オンエアが終了するまでに多くの人が見物に来た方が、この勝負で勝ちになるというわけよ」
真雪と明夏は言葉を失う。
ラジオオンエア対決は、録音してそれを生徒たちに聴いてもらうものだと思っていた。だが目に見える観客を前にすることで、それよりも何倍もプレッシャーがかかることだった。
「で、でも。みんな一緒に力を合わせてオンエアできれば、いくらアイドルが相手だって負けないくらい面白いものになるよねっ!」
「真雪さん、残念ながらそれはできないわ。公平性を保つために、各部それぞれ代表の一名がこの対決に参加することになっているの」
「一人だけ!? じゃあ、他の部員は!?」
真雪の言葉に、壱与は首を振る。
「残念ながら裏方に回るしかないわね。だから、一番上手な人を選んで、その人に命運をたくすしかないわ」
「そんな……」
たった一人で部の存続をかけて公開生オンエアをする。
すぐに緊張してしまう真雪にとっては絶対にやりたくない役目だった。
「……これは理事長が考えついた方法よ。会議で私は反対したんだけど、残念ながらくつがえすことはできなかったわ。ごめんなさい」
壱与は会議を思い出してにがい顔をしていたが、真雪は壱与のことを見ている余裕はなかった。
「一人……一人で?」
もしかしたら自分がやらなければいけないかもしれない。
どきどきしてきた真雪に、後ろから明夏がぽんと肩をたたく。
「……真雪。本番はまかせたよ」
「ええーっ!? なんで、どうして私なの!?」
「だって真雪はオンエア部の部長だから。それに二年生三人の中では、真雪がいちばん上手じゃない」
「でっでも、私よりも樹々先輩のほうがオンエア上手だし、西瓜先輩も後輩から人気ありそうだからたくさん人が来るはずだよ!」
「樹々先輩は受験勉強で大変だし、西瓜先輩はそもそもどこにいるのかわからなくて捕まらないから。となると、ここはやっぱり真雪しかいないよ」
「ええ~。やだなぁ……」
「大丈夫! 私たち裏方が全力でサポートするから。ね?」
真雪の顔色がどんどんとわるくなってくる。
「アイドルのゆうたは女子生徒の人気はあるみたいだけど、男子生徒からはあまりよく思われていないみたい。うちの高校の男女比は同じくらいだから、もし男子生徒を味方につけることができたら、勝ち目はじゅうぶんにあるわ。あきらめないで」
ちゃらら~。
昼休み終了のチャイムがなった。
壱与は真雪に、激励の言葉をかけて、自分の席へと戻っていった。
「やばっ。もうすぐ授業が始まる! 英語の和訳どうしようかな……」
真雪には明夏の声も耳には届かなかった。
「私が一人で部活対抗戦……どうしようどうしようどうしよう」
部活対抗戦まであと十日。
早くも真雪はプレッシャーを感じていた。