第89話 オンエア部、復活の方法
文字数 3,019文字
二人が向かったのは生徒指導室。
こえだ先生は真雪を連れ込み、廊下に誰もいないことを確認してから教室のドアを閉めた。
真雪はまだ状況がよくわかっていなかった。
「真雪さん、そこに座って。さっきの話はここで聞きましょう」
こえだ先生はテーブル越しの向かいの席に真雪を座らせてから自分も座る。
「で、真雪さんはどうして私の過去を知ってるの? どこでその情報を?」
こえだ先生はいぶかしそうな目をしていた。
真雪は鞄から地下部室で見つけたノートを取り出す。
「このノートに先生の名前が書いてありました。だからもしかしたら本人なのかと思って」
「ちょっと見せてみ」
こえだ先生は真雪からノートを受け取ると、中に書かれていることを確認した。こえだ先生の手がわなわなと震え始める。
「……真雪さん。どこでこのノートを?」
「地下部室にある机の引き出しに入っていました。あの、やっぱりこれって」
「じゃあ間違いない。これは昔、私が学生だった頃に書いたやつだよ。よりによって後輩の生徒に見られるなんて。あーこんなことになるなら卒業するときに思い切って捨てておけばよかった~!」
こえだ先生はひどく落ち込んでいた。
「あの、こえだ先生ってオンエア部だったんですね。すごいです……私の先輩だったんだ」
「先輩……ってわけでもないのよね。あんたたちが所属してたオンエア部は、私のいたオンエア部じゃなくて、ミニFM同好会の変わった姿なんだから」
「やっぱりそうだったんですか……」
真雪は気になっていたことの真実を聞き、残念そうな顔をした。
「どうして落ち込んでるの? ミニFM同好会じゃ不満なわけ?」
「そういうわけじゃないんですけど……私、昔のオンエア部に憧れていたんです。去年、偶然昔のビデオテープを見つけて……すっごく面白そうでわくわくすることをやってたみたいだから、その」
真雪の言葉に、こえだ先生は嬉しそうに声のトーンを上げて言った。
「本当にそう思う!? 昔のオンエア部に憧れているなんて、真雪さん、あなた見る目があるね。てっきり地味なミニFM同好会のことが好きなのかと思ってたよ」
「やっぱり私って地味に見えるんですね……」
よく言われることだが、真雪は少し落ち込んだ。
「そうさ。真のオンエア部は私が高校生の時に廃部になった。あのいまいましい理事長のおかげでね」
「?」
話が見えてこなかったが、こえだ先生は続きを話してくれた。
「真雪さん知らない? この学校の部活動は、すべて理事長の思うままに存在しているんだよ。オンエア部を廃部にしろと言われたら廃部になるし、新しい部活をつくれといったらつくられる。今回の部活対抗戦だって、理事長の思惑があってのことだよ。部活が多すぎるから減らせってね。数年前は逆に増やせって言ってたみたいだし、本当に自分勝手にやってるよ」
こえだ先生は心の中にたまっていたものを一気にはき出すように言った。真雪は黙ってこえだ先生の話を聞いていた。
「……ごめん。真雪さんにぐちなんか言ってもどうにもならないか」
「あの……もしかして、今回部活対抗戦が免除になっていたオンエア部が急に部活対抗戦に出るようになったことも……」
「おそらく理事長の差し金だと思うね。今度はアイドルオンエア部をつくるとか言ってね。私たちの頃のオンエア部がなくなったときとまったく同じだ。利用価値のなくなった部は廃部にして、代わりの部を新しくつくるってね」
「そんな……」
真雪はショックだった。オンエア部は理事長に必要のない部活だと思われていたことに。
いつもの真雪ならここであきらめていたかもしれないが、今の真雪は違っていた。
「私、また部活がやりたいです! オンエア部をまた、復活させたいんです!」
「……」
こえだ先生は黙っていた。それからしばらくして、ようやく口を開く。
「気持ちはわかるけどあきらめたほうがいい。昔、私も部活再興のために頑張ってみたけど、結局は理事長に阻まれてできなかった。地下でひっそりと部活ごっこをするのが精一杯だったよ」
「そうですか……」
真雪はがっかりした顔になる。
もう無理なのかと思われたが、こえだ先生はちゃんと奥の手を考えていた。
「いきなりオンエア部を復活させるのは無理だ。でも、少し違う方法で復活させることならできるかもしれない」
まだ希望の道は残されていたらしい。
「お願いします! 教えてください!」
真雪はけんめいにお願いした。こえだ先生はぐっと親指を立てて言った。
「新しく部活をつくるのさ。もちろんオンエア部の名前は使えないけど、似たような部活をね。そして、もう一度アイドルオンエア部に挑戦するんだ。勝てばオンエア室も取り戻せるし、部活もできるようになる」
新しい部活の提案は、以前佐与にも言われていたことだった。そのときはオンエア部が廃部になったショックでまともに聞いてなかった。
だが前向きになって考えてみると、これはいいアイデアかもしれない。
「こえだ先生、すごいです! 今の短い時間にそんなアイデアが思い浮かぶなんて」
「これは私が卒業してから思いついたことだよ。ま、卒業してたから実行には移せなかったけどね。どうして早く思いつかなかったのかって、そのときは後悔したよ」
「新しい部活でもう一度挑戦か。いいかもしれない」
新しい部をつくってもう一度アイドルオンエア部に挑戦する。
想像しただけでわくわくしてくる。
真雪はがぜんやる気が出てきた。
「こえだ先生。部活をつくるにはどうすればいいですか?」
「ほお、本当にやる気なんだ。真雪さん、ますます見応えがあるわね。部活をつくるにはとりあえず、二人以上の部員と顧問の先生が必要よ」
「部員はたぶん大丈夫だけど、問題は顧問の先生かあ。先生……先生……」
真雪はじーっとこえだ先生のことを見つめる。
「……えっ、なに? 私は顧問やらないわよ。すっごく面倒だし。ほら、今までオンエア部の顧問をやってた先生に頼んでみるとかどう?」
「オンエア部の先生は、そのままアイドルオンエア部の先生になりました! お願いします。他によさそうな先生がいないんです!」
「で、でもー」
「お願いします!」
真雪にまっすぐに見つめられて、こえだ先生はあきらめたようにため息をついた。
「……わかったよ。新しい部活って言い出したのは私だし、まあ面倒見てあげるよ。そのかわり」
こえだ先生は大きくこぶしをあげた。
「絶対にアイドルオンエア部から部室を取り戻すよ! そして、ミニFM同好会のオンエア部ではなく、真のオンエア部として復活すること! 打倒、アイドルオンエア部だ!」
「はいっ! こえだ先生、ありがとうございます! さっそくいまから、部員の勧誘に行ってきます!」
真雪はこえだ先生に敬礼をして、生徒指導室を出ていった。
「まったく、とんでもないことに巻き込まれたもんだよ。でも」
こえだ先生は窓から外を眺めた。
外では活発に、運動部の部活動が行われていた。
「高校生の頃の忘れてた気持ちを思い出したな。私もあの子のように、オンエア部のためにがむしゃらに走り回ってたっけ。夢だったオンエア部の復活、か。……なんだか私までわくわくしてきたよ」
こえだ先生は、真雪が置いていったノートを手に取った。
「昔の私。あんたの願い、かなえてくれるいい後輩が現れたかもしれないよ」
こえだ先生は、過去の自分が書いたノートの内容を思い出すように見返していた。
こえだ先生は真雪を連れ込み、廊下に誰もいないことを確認してから教室のドアを閉めた。
真雪はまだ状況がよくわかっていなかった。
「真雪さん、そこに座って。さっきの話はここで聞きましょう」
こえだ先生はテーブル越しの向かいの席に真雪を座らせてから自分も座る。
「で、真雪さんはどうして私の過去を知ってるの? どこでその情報を?」
こえだ先生はいぶかしそうな目をしていた。
真雪は鞄から地下部室で見つけたノートを取り出す。
「このノートに先生の名前が書いてありました。だからもしかしたら本人なのかと思って」
「ちょっと見せてみ」
こえだ先生は真雪からノートを受け取ると、中に書かれていることを確認した。こえだ先生の手がわなわなと震え始める。
「……真雪さん。どこでこのノートを?」
「地下部室にある机の引き出しに入っていました。あの、やっぱりこれって」
「じゃあ間違いない。これは昔、私が学生だった頃に書いたやつだよ。よりによって後輩の生徒に見られるなんて。あーこんなことになるなら卒業するときに思い切って捨てておけばよかった~!」
こえだ先生はひどく落ち込んでいた。
「あの、こえだ先生ってオンエア部だったんですね。すごいです……私の先輩だったんだ」
「先輩……ってわけでもないのよね。あんたたちが所属してたオンエア部は、私のいたオンエア部じゃなくて、ミニFM同好会の変わった姿なんだから」
「やっぱりそうだったんですか……」
真雪は気になっていたことの真実を聞き、残念そうな顔をした。
「どうして落ち込んでるの? ミニFM同好会じゃ不満なわけ?」
「そういうわけじゃないんですけど……私、昔のオンエア部に憧れていたんです。去年、偶然昔のビデオテープを見つけて……すっごく面白そうでわくわくすることをやってたみたいだから、その」
真雪の言葉に、こえだ先生は嬉しそうに声のトーンを上げて言った。
「本当にそう思う!? 昔のオンエア部に憧れているなんて、真雪さん、あなた見る目があるね。てっきり地味なミニFM同好会のことが好きなのかと思ってたよ」
「やっぱり私って地味に見えるんですね……」
よく言われることだが、真雪は少し落ち込んだ。
「そうさ。真のオンエア部は私が高校生の時に廃部になった。あのいまいましい理事長のおかげでね」
「?」
話が見えてこなかったが、こえだ先生は続きを話してくれた。
「真雪さん知らない? この学校の部活動は、すべて理事長の思うままに存在しているんだよ。オンエア部を廃部にしろと言われたら廃部になるし、新しい部活をつくれといったらつくられる。今回の部活対抗戦だって、理事長の思惑があってのことだよ。部活が多すぎるから減らせってね。数年前は逆に増やせって言ってたみたいだし、本当に自分勝手にやってるよ」
こえだ先生は心の中にたまっていたものを一気にはき出すように言った。真雪は黙ってこえだ先生の話を聞いていた。
「……ごめん。真雪さんにぐちなんか言ってもどうにもならないか」
「あの……もしかして、今回部活対抗戦が免除になっていたオンエア部が急に部活対抗戦に出るようになったことも……」
「おそらく理事長の差し金だと思うね。今度はアイドルオンエア部をつくるとか言ってね。私たちの頃のオンエア部がなくなったときとまったく同じだ。利用価値のなくなった部は廃部にして、代わりの部を新しくつくるってね」
「そんな……」
真雪はショックだった。オンエア部は理事長に必要のない部活だと思われていたことに。
いつもの真雪ならここであきらめていたかもしれないが、今の真雪は違っていた。
「私、また部活がやりたいです! オンエア部をまた、復活させたいんです!」
「……」
こえだ先生は黙っていた。それからしばらくして、ようやく口を開く。
「気持ちはわかるけどあきらめたほうがいい。昔、私も部活再興のために頑張ってみたけど、結局は理事長に阻まれてできなかった。地下でひっそりと部活ごっこをするのが精一杯だったよ」
「そうですか……」
真雪はがっかりした顔になる。
もう無理なのかと思われたが、こえだ先生はちゃんと奥の手を考えていた。
「いきなりオンエア部を復活させるのは無理だ。でも、少し違う方法で復活させることならできるかもしれない」
まだ希望の道は残されていたらしい。
「お願いします! 教えてください!」
真雪はけんめいにお願いした。こえだ先生はぐっと親指を立てて言った。
「新しく部活をつくるのさ。もちろんオンエア部の名前は使えないけど、似たような部活をね。そして、もう一度アイドルオンエア部に挑戦するんだ。勝てばオンエア室も取り戻せるし、部活もできるようになる」
新しい部活の提案は、以前佐与にも言われていたことだった。そのときはオンエア部が廃部になったショックでまともに聞いてなかった。
だが前向きになって考えてみると、これはいいアイデアかもしれない。
「こえだ先生、すごいです! 今の短い時間にそんなアイデアが思い浮かぶなんて」
「これは私が卒業してから思いついたことだよ。ま、卒業してたから実行には移せなかったけどね。どうして早く思いつかなかったのかって、そのときは後悔したよ」
「新しい部活でもう一度挑戦か。いいかもしれない」
新しい部をつくってもう一度アイドルオンエア部に挑戦する。
想像しただけでわくわくしてくる。
真雪はがぜんやる気が出てきた。
「こえだ先生。部活をつくるにはどうすればいいですか?」
「ほお、本当にやる気なんだ。真雪さん、ますます見応えがあるわね。部活をつくるにはとりあえず、二人以上の部員と顧問の先生が必要よ」
「部員はたぶん大丈夫だけど、問題は顧問の先生かあ。先生……先生……」
真雪はじーっとこえだ先生のことを見つめる。
「……えっ、なに? 私は顧問やらないわよ。すっごく面倒だし。ほら、今までオンエア部の顧問をやってた先生に頼んでみるとかどう?」
「オンエア部の先生は、そのままアイドルオンエア部の先生になりました! お願いします。他によさそうな先生がいないんです!」
「で、でもー」
「お願いします!」
真雪にまっすぐに見つめられて、こえだ先生はあきらめたようにため息をついた。
「……わかったよ。新しい部活って言い出したのは私だし、まあ面倒見てあげるよ。そのかわり」
こえだ先生は大きくこぶしをあげた。
「絶対にアイドルオンエア部から部室を取り戻すよ! そして、ミニFM同好会のオンエア部ではなく、真のオンエア部として復活すること! 打倒、アイドルオンエア部だ!」
「はいっ! こえだ先生、ありがとうございます! さっそくいまから、部員の勧誘に行ってきます!」
真雪はこえだ先生に敬礼をして、生徒指導室を出ていった。
「まったく、とんでもないことに巻き込まれたもんだよ。でも」
こえだ先生は窓から外を眺めた。
外では活発に、運動部の部活動が行われていた。
「高校生の頃の忘れてた気持ちを思い出したな。私もあの子のように、オンエア部のためにがむしゃらに走り回ってたっけ。夢だったオンエア部の復活、か。……なんだか私までわくわくしてきたよ」
こえだ先生は、真雪が置いていったノートを手に取った。
「昔の私。あんたの願い、かなえてくれるいい後輩が現れたかもしれないよ」
こえだ先生は、過去の自分が書いたノートの内容を思い出すように見返していた。