第1話 二年生最初の朝

文字数 1,882文字

「いってきまーす」

 4月。
 学年が変わった、新学期はじまりの朝。
 真雪はいつもよりもかなり余裕を持って家を出た。

 いつも遅刻ぎりぎりの時間に登校していた真雪。
 新しい学年がはじまる最初の日は、誰よりも早く一番に登校したかった。

 二年生になってからは、余裕を持って登校できるようにするんだ。

 真雪は新たな気持ちで、学校に向かって歩き始めた。

 時間はまだ朝の7時をすこしすぎたところ。
 ゆっくりと寄り道をしながら歩いても、じゅうぶん始業時間に間に合う時間だった。
 まだ登校中の学生はおらず、早朝ランニングをしている人とたまにすれ違うくらいだった。

「そうだ! せっかくだからしりとりでもしながら行こう! パイナップル……ルビー……イルカ……カエル……」

 独りしりとりをしながらしばらくは順調に歩いていた。
 だが、学校に近づいても同じ学校の生徒の姿は見えず、ちょっと早すぎるんじゃないかと思い始めた。

「むぅ、誰も居ない……。こんな早い時間に登校して、学校の門って開いてるのかな? いつも遅刻すれすれの登校だったからよくわかんない……」

 学校近くにある、大きな川のところまでやってきた。
 まだだいぶ余裕があるので、河川敷に降りて少しだけ時間を潰すことにした。

 川の水面近くまで来て、川の中をのぞき込む。

 あ~、なんか魚が泳いでる。
 名前なんていうんだろう?
 フナかな? コイかな?
 あっ、あっちには小さい魚がたくさんいる!

 なぜか面白くなって魚が泳ぐのをずっと見ていた。
 と、そのとき。

「わわっ、すごい! 魚が空を飛んだ!」

 一匹が空に向かってジャンプしたかとおもうと、あとからたくさんの魚が真似をするようにジャンプをした。
 魚たちはそのまま空高くまで飛んでいった。

 すごい。魚って空を飛べるんだ。……ん?

 ちょっと変だと思いつつ、時間が経つのを忘れて、魚が泳ぐのを見続けた。
 こんどは魚が陸に上がってきた。
 魚にはちゃんと足が生えていて、真雪のほうに歩いてくる。

「やあ、こんにちは」
「え? わっ、魚がしゃべった!?

 魚から話しかけられた。びっくりしながらも、真雪は魚をじっと見続けた。

「君はここで何をしているんだい?」
「学校に行く途中だよ。まだ早いからちょっと寄り道してるの」
「ふーん。人間にも学校があるんだ。面白いことを聞いた」
「人間にもって……魚にも学校があるの?」
「ああ、あるよ。川の中にね」
「すっごーい!」

 今度は魚のことオンエアの題材にしてお話してみようかな。
 春休みでしばらく部活がなかったから、オンエア部の活動も楽しみ!

「では、さようならだ」
「え? 私、もうちょっと話がしたいよ」
「あまり長く話すと、君が学校に遅れてしまうからね。早く起きないと、いつものように遅刻ぎりぎりになってしまうよ」
「えー。もう学校のすぐ近くだから、さすがに遅刻はしないよ」
「ふふっ。本当の君は、まだ布団の中に……」

 ………………。

 ……………………。


 じりりりり……。

 部屋の中に、目覚まし時計のベルの音が鳴り響く。
 ベッドで眠っている真雪(まゆき)は、ベルの音で目が覚めた。

「あれ? 魚さんとお話してたはずなのに。いつの間にか布団の中にいる……眠い……」

 布団の中からぬっと手が出て、目覚まし時計に向かって一直線に伸びていく。

 カチッ。

 真雪は目覚まし時計の音を止めて、もう一度眠りについた。
 それから数十分後。

「真雪ちゃーん、今日から学校! 早く起きないと遅刻するわよー」

 部屋の外から母の声が聞こえてきた。
 真雪は再び目を覚ました。

「んー? どうしてママが河川敷に……って、あれ?」

 むくっと上半身が起き上がる。
 ぼーっとしたまま、時計の時間を確認する。

 7時50分。
 そしてなぜかベッドの中。
 ……。

 ようやく大変な事実に気がつく。
 始業時間に間に合うためには、ぎりぎりの時間だ。

「ちっ、遅刻するぅ!」

「昨日の夜、早い時間に目覚まし時計をセットしてたのにどうして!? 登校が早すぎたから、河川敷に寄ってお魚さんと話をしてたのに!」

 ここで、重大な事実に気がつく。

「……もしかして、夢だったの? ……ということは、やっぱり遅刻ぎりぎりだー!」

 あわてて飛び起きて、制服に着替える。
 朝ご飯を食べてる時間はない。
 いそいで洗面所で顔を洗い、歯磨きや着替えなどの身支度をした。

「いってきまーす!」
「真雪ちゃん、これ!」
「パン! ありがとう!」

 もらったパンをくわえたまま、真雪は走って家を出た。

 新しく始まる高校二年生の朝。
 真雪はいつもと変わらない感じでスタートしたのだった。
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登場人物紹介

真雪(まゆき)


主人公。

二年生になっても、たまに人見知りする。

明夏(めいか)


真雪の幼なじみで親友。

活発でレトロゲームが好き。

日菜(ひな)


真雪の元クラスメイトで、真雪のことが大好き。

ちょっと変な性格で語尾が変。特技は自己流の落語。

樹々(じゅじゅ)


オンエア部の部長。

相変わらずいつも冷静でクールな先輩。

西瓜(すいか)


真雪のことを面白い人だと思っている先輩。

自由気ままな人。

もなえ


真雪のいとこで元気な女の子。

中学生になり、真雪の家から学校に通うことになった。

佐与(さよ)


一年生。

真面目な性格で、背がもなえと同じくらいちっちゃな子。

あみ


人気アイドルグループ「みみみローリング」に所属する清純派アイドル

ゆうたと一緒に真雪の高校に転校してきた


学年は一年生で、真雪の後輩。佐与と同じクラス

こえだ先生


数学の先生で、一年生のクラス担任

授業中は真面目だが、それ以外のところではけっこう雑な性格

ガラケー四天王


真雪と同じ二年生の寿(ことぶき)、とも、姫(ひめ)、ライカの四人で、元ガラケー使い

持っていたガラケーを、スマホを普及させようとする謎の忍者軍団に壊されてしまった


真雪と仲良くなったいきさつなどは、別作品「真雪まだガラ女子」のほうでわかるらしい

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