第25話(2) 猫カフェにて

文字数 2,071文字

「ここが噂のその店か……」

 龍波が店の前で身構える。丸井が苦笑する。

「竜乃ちゃん、そんなに構えなくても……」

「あ、ああ……」

「さっさと入るわよ」

 菊沢がドアを開けて店に入る。

「!」

 店内で多くの猫が菊沢たちを出迎える。

「おお、猫ちゃんが一杯……」

「桃ちゃん、驚いているわね」

「う、うん。こういうお店……猫カフェは初めてだから……」

 丸井が姫藤に答える。石野が笑う。

「ピカ子的には猫に囲まれるとマズいんじゃない?」

「誰が電気ネズミですか! 石野先輩まで〇カチュウ扱いは止めてください」

「そんなに怒るなし、じゃあ座ろう」

 店員に促され、皆が席につく。脇中が説明する。

「この店はフリータイム制だから、猫といくらでも触れ合って良いというシステムだよ」

「料金は?」

「後払い制だね。あ、ドリンク代は別だから、各自で注文してね」

 姫藤の問いに脇中が答える。石野が頷く。

「さすが、ワッキーはよく知っているし」

「私自身は犬派だけど、知り合いに動物好きが多いし」

「桃ちゃん、猫ちゃん触りに行きましょうよ」

「う、うん……あれ? 竜乃ちゃん?」

「ヒカル?」

 龍波と菊沢が無言で俯き、プルプルと震えている。

「ど、どうかしたの、竜乃?」

「ヒカルもどうしたし?」

 姫藤と石野が心配そうに二人の顔を覗き込む。

「カ……」

「カ?」

「「カワイイ!」」

 龍波と菊沢が揃って喚声を上げる。

「……」

「「はっ⁉ ご、ごほん……」」

「いや、ごまかし方まで一緒!」

 姫藤が声を上げる。石野がニヤニヤと二人を見つめる。

「ほ~お二人さん、揃ってそういう感性をお持ちだとは、意外だったし……」

「こ、こんな獰猛なケモノと一緒にしないでよ……」

「おいおい、カルっち、ケモノ扱いすんな!」

「竜乃ちゃん、大声出すと、猫ちゃんたちが驚いちゃうから……」

「あ、わ、悪い……」

 丸井の指摘に龍波が後頭部を掻く。

「まあ、それよりも猫を愛でようし」

 石野の提案に皆が店内に散り散りになる。

「どの子もカワイイですね」

「本当だね、犬も良いけど、猫も飼いたくなっちゃうよ」

 丸井の言葉に脇中が頷く。二人とも『ミックス』と呼ばれる猫種を抱きかかえている。ミックスとはその名の通り、2種類以上の猫同士から生まれた純血種以外の猫のことを指し、日本で飼われている猫の多数を占めているとされている種類である。

「妹も連れてきたかったな~」

「あれ、丸井ちゃん、妹さんいるの?」

「はい、今はポルトガルにいるんですけど」

「ポ、ポルトガル?」

「ええ。ポルトガルには猫カフェってありますかね?」

「う~ん、ポルトガルの動物事情まではちょっと分からないな……」

 丸井の問いに脇中が困ったように首を傾げる。

「そうですか……あれ?」

 丸井が視線を向けると、石野たち四人が猫を抱きかかえて、円になっている。

「やっぱり『ベンガル』だし! このヒョウ柄、ワイルドさの象徴だし!」

 石野がベンガルを持ち上げる。ベンガルが鳴き声を上げながら、石野にすりつく。

「ニャ~」

「ほら、ワイルドに見えて、こんなにも人懐っこいし! これは優勝だし!」

「それは猫カフェだからだろう? 特別にそう躾けられてんだよ」

「竜乃の言う通りだわ」

 龍波の言葉に菊沢がうんうんと頷く。

「そ、そこで意見を一致させるなし!」

「どうせならヒョウと触れあいたいぜ」

「……別にそこまでは思わないけど」

「三人とも、この『ロシアンブルー』を見て! このクールな感じ、たまらないでしょう?」

 姫藤がロシアンブルーを持ち上げる。

「ニャ~~」

「このほっそりとしなやかな体つきも良いでしょ?」

「……笑っているように見えるのが気に食わねえな」

「なんかこっちが舐められているような気がするし……」

「そ、そういう顔立ちなのよ!」

「ふっ、私は『スコティッシュフォールド』よ」

 菊沢がスコティッシュフォールドを持ち上げる。

「ニャ~~~」

「この折れ耳がカワイイでしょ? 耳が折れる確率は30%位だそうだから、この子は結構レアな猫ちゃんということね」

「はあ~これだから、トーシロは……」

「なによ竜乃、その言い方は……」

「レア度を競うなんて、本質を見誤っていねえか?」

「む……」

 龍波の言葉に菊沢が顔をしかめ、石野が感心する。

「おお、なんかまともそうなことを言っているし……」

「なんだか偉そうなことを言っているけど、アンタの推しは?」

「よくぞ聞いてくれたな、ピカ子。これだよ、『ブリティッシュショートヘアー』!」

 龍波がブリティッシュショートヘアーを持ち上げる。

「ニャ~~~~」

「この絵本の中から飛び出してきたかのような愛らしい猫を知っているか?」

「知っているかって……『不思議の国のアリス』で有名でしょう」

「ドのつくメジャーな猫だし……」

「人のことをトーシロだと言っておいて、自分が一番ベタじゃないの……」

「と、とにかく、アタシの推しが一番だ!」

「ロシアンブルーよ!」

「ベンガルだし!」

「スコティッシュフォールドよ」

「……ああいうのが将来的にママ友カーストに繋がっていくのかな……」

「ははっ……」

 脇中の呟きに丸井が苦笑する。
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