第17話(3) デュエルを制した結果
文字数 2,836文字
「そろそろ三本目を開始します!」
美花さんが皆に声を掛けます。このOG戦は20分×4本という変則的な試合形式を取っています。実際の試合に置き換えれば、前半戦が既に終了したことになり、これから後半戦に入ることになります。休憩を終えた両チームの皆さんが続々とグラウンドに入っていきます。
「丸井さん」
私が振り返ると、そこにはキャプテンがいました。
「前半戦は『伝説のレジェンド』さんに良い様にやられてしまいました」
「ええ……」
「皆にも言いましたが、後半戦は丸井さんにボールをもっと集めるようにします」
キャプテンの言葉に俯いていた私は顔を上げます。
「それは……」
「恐らく伝レジェさん……春名寺さんは激しく潰しに掛かってくることでしょう。多少、いやかなり無責任な言い方になってしまいますが、そのデュエル、絶対に勝って下さい。チーム全体の士気に関わってくることなので……」
「……」
「貴方が勝てば、反撃の糸口も掴めるはずです」
「……」
「チームスポーツに於いて個人に頼るということは決して褒められたことではありません。しかし、現状我々は力不足であることは否めません……」
キャプテンはそう言って俯きます。黙って話を聞いていた私は口を開きます。
「分かりました。私があの人との一対一を制して、試合の流れを引き戻してみせます」
私の言葉にキャプテンは驚いた反応を見せます。私も自分で自分の発言に少々驚きました。キャプテンは笑顔を浮かべます。
「頼もしい言葉です。期待させてもらいます」
私とキャプテンはそれぞれのポジションにつきました。
「ボール、行ったぞ!」
フィールド中央付近で私はボールを受けて前を向きます。
「さて、お手並み拝見といこうか!」
春名寺さんが距離を詰めてきます。キャプテンの予想通り、私のマークにつく様です。ここで私は考えます。試合であれば、普通は十中八九、パスを選択する場面です。しかし、このOG戦、ここまで私たちは春名寺さんたった一人に良い様にやられてしまいました。チーム自体が自信を失いかねない状況です。私は自らに問い掛けます。
(ここは勝負を仕掛けるところではないか?)
その答えを出すよりも早く、私の体は動き出していました。ドリブルで春名寺さんに向かっていったのです。
「ほう、仕掛けてくるか! そうこなくちゃな!」
春名寺さんが私からボールを奪おうと身構えます。私は再び考えを巡らせます。
(私のスピードでは振り切れないか? いや、その逆をつく!)
私はスピードを上げ、春名寺さんの正面に突っ込んでいきます。ドリブルしながら、私は視線を下に落としていました。春名寺さんの足の動きに注目していたのです。するとほんの少しではありますが、春名寺さんの左足が後ろに動きました。
(ここだ!)
私はわずかにドリブルのコースを向かって左側、春名寺さんにとっては右側に変えました。左足でバックステップを踏んでおり、重心が左足の方に掛かっている為、そこから右足を伸ばしてカットするのは難しいだろうという判断です。
(よし、かわせる!)
「なんてな!」
「⁉」
春名寺さんの右足が伸びてきてボールに触れました。私の左斜め後方にボールがこぼれます。私は慌てて振り向きボールをキープします。背中越しに春名寺さんの声がします。
「ちっ、カットしきれなかったか」
(狙っていた⁉ フェイントをかけられていたのは私の方⁉)
私はボールを誰かに預けようと考えますが、すぐにその考えを打ち消します。ここで退いてしまってはチームを勢いに乗せることは出来ないと思ったからです。この1対1を制するにはどうすればいいか。私は素早く前を向き直し、春名寺さんと対峙します。
「へっ! 勝負にこだわるか!」
再び私は春名寺さんに向かって突っ込み、その手前で後ろを向きます。転がるボールと相手の間に体を入れます。これでボールは春名寺さんから見えなくなります。私は体を右側に僅かに傾けます。春名寺さんがそれに反応したのを背中に感じ、すぐさま左側に体をターンさせます。春名寺さんもそれについてきて足を伸ばしてきます。
「右に抜けるとみて、左だろう⁉ 読めているぜ! ⁉」
春名寺さんが驚きました。私の足下にあるはずのボールが無かったからです。
「置き去りに⁉ いや、違う⁉」
言葉から判断するに春名寺さんは私が体だけを大袈裟に動かして、ボールを元の位置に置き去りにしたと判断し、視線をそちらに向けたようです。しかし、そこにもボールはありません。春名寺さんが混乱したことが分かりました。
「どこだ! ! 上か!」
そうです。私は背中を向けると同時にボールを上に軽く蹴り出していました。スピードの緩急、左右の揺さぶりだけではかわせないと判断し、上に浮かせることを選択しました。
「ちぃ!」
春名寺さんもなんとか反応しようとしましたが、足がもつれてしまったようで、尻餅を突いてしまいました。私はその脇をすり抜け、落ちてくるボールを収め、前を向きます。
「凄え! ビィちゃんがかわしたぜ!」
竜乃ちゃんの声が一番に聞こえてきましたが、他のチームメイトからの称賛も耳に入ってきました。試合の流れを掴むことが出来たと思いました。
「桃ちゃん!」
「桃!」
前方を走る、聖良ちゃんや輝さんの声がします。当然、私も耳だけでなく、視界に二人の姿を捉えています。しかし、チームを勢い付けるにはもっとビッグプレーが欲しい、そう考えた私の眼にある光景が飛び込んできました。その瞬間に私は、味方へパスを送る、ドリブルでもう少しボールを前に運ぶ、以外の選択肢を咄嗟に選びました。
「! シュート⁉」
私の後ろから春名寺さんの驚く声がしました。そう、私はまだゴールまで距離があるにも関わらず、シュートを選択したのです。相手のゴールキーパーが前に出ていたのを目にした為です。相手キーパーも慌てて、後ろに下がりながら懸命に手を伸ばしますが、ボールには届かず、私の放ったシュートはゴールネットを揺らしました。ベンチを含め、チームが大いに沸き立ちました。このプレーで本来のリズムを取り戻すことが出来た私たちは勢いに乗り、リードされていたスコアを逆転し、試合を制しました。
「ナイスシュート、それに良いドリブルだったぜ」
試合後、春名寺さんが私に声を掛けてきました。
「あ、ありがとうございます……」
「本来あの位置でボールを失うと、ピンチに繋がりかねないから、正直あまり褒められた判断ではないが、練習試合ということを差し引けば、エースの責務を果たしたと言えるな」
「は、はあ……」
春名寺さんの分析に私は少し戸惑います。そこにキャプテンが近づいてきました。
「お疲れさまでした。それで……どの様なご判断を下されるでしょうか?」
「粗削りではあるが、なかなか面白い奴が揃っているな……いいぜ、アタシがお前らの監督になってやる」
「「「え、ええ~⁉」」」
春名寺さんの言葉を聞いた私たちは驚きの声を上げます。
美花さんが皆に声を掛けます。このOG戦は20分×4本という変則的な試合形式を取っています。実際の試合に置き換えれば、前半戦が既に終了したことになり、これから後半戦に入ることになります。休憩を終えた両チームの皆さんが続々とグラウンドに入っていきます。
「丸井さん」
私が振り返ると、そこにはキャプテンがいました。
「前半戦は『伝説のレジェンド』さんに良い様にやられてしまいました」
「ええ……」
「皆にも言いましたが、後半戦は丸井さんにボールをもっと集めるようにします」
キャプテンの言葉に俯いていた私は顔を上げます。
「それは……」
「恐らく伝レジェさん……春名寺さんは激しく潰しに掛かってくることでしょう。多少、いやかなり無責任な言い方になってしまいますが、そのデュエル、絶対に勝って下さい。チーム全体の士気に関わってくることなので……」
「……」
「貴方が勝てば、反撃の糸口も掴めるはずです」
「……」
「チームスポーツに於いて個人に頼るということは決して褒められたことではありません。しかし、現状我々は力不足であることは否めません……」
キャプテンはそう言って俯きます。黙って話を聞いていた私は口を開きます。
「分かりました。私があの人との一対一を制して、試合の流れを引き戻してみせます」
私の言葉にキャプテンは驚いた反応を見せます。私も自分で自分の発言に少々驚きました。キャプテンは笑顔を浮かべます。
「頼もしい言葉です。期待させてもらいます」
私とキャプテンはそれぞれのポジションにつきました。
「ボール、行ったぞ!」
フィールド中央付近で私はボールを受けて前を向きます。
「さて、お手並み拝見といこうか!」
春名寺さんが距離を詰めてきます。キャプテンの予想通り、私のマークにつく様です。ここで私は考えます。試合であれば、普通は十中八九、パスを選択する場面です。しかし、このOG戦、ここまで私たちは春名寺さんたった一人に良い様にやられてしまいました。チーム自体が自信を失いかねない状況です。私は自らに問い掛けます。
(ここは勝負を仕掛けるところではないか?)
その答えを出すよりも早く、私の体は動き出していました。ドリブルで春名寺さんに向かっていったのです。
「ほう、仕掛けてくるか! そうこなくちゃな!」
春名寺さんが私からボールを奪おうと身構えます。私は再び考えを巡らせます。
(私のスピードでは振り切れないか? いや、その逆をつく!)
私はスピードを上げ、春名寺さんの正面に突っ込んでいきます。ドリブルしながら、私は視線を下に落としていました。春名寺さんの足の動きに注目していたのです。するとほんの少しではありますが、春名寺さんの左足が後ろに動きました。
(ここだ!)
私はわずかにドリブルのコースを向かって左側、春名寺さんにとっては右側に変えました。左足でバックステップを踏んでおり、重心が左足の方に掛かっている為、そこから右足を伸ばしてカットするのは難しいだろうという判断です。
(よし、かわせる!)
「なんてな!」
「⁉」
春名寺さんの右足が伸びてきてボールに触れました。私の左斜め後方にボールがこぼれます。私は慌てて振り向きボールをキープします。背中越しに春名寺さんの声がします。
「ちっ、カットしきれなかったか」
(狙っていた⁉ フェイントをかけられていたのは私の方⁉)
私はボールを誰かに預けようと考えますが、すぐにその考えを打ち消します。ここで退いてしまってはチームを勢いに乗せることは出来ないと思ったからです。この1対1を制するにはどうすればいいか。私は素早く前を向き直し、春名寺さんと対峙します。
「へっ! 勝負にこだわるか!」
再び私は春名寺さんに向かって突っ込み、その手前で後ろを向きます。転がるボールと相手の間に体を入れます。これでボールは春名寺さんから見えなくなります。私は体を右側に僅かに傾けます。春名寺さんがそれに反応したのを背中に感じ、すぐさま左側に体をターンさせます。春名寺さんもそれについてきて足を伸ばしてきます。
「右に抜けるとみて、左だろう⁉ 読めているぜ! ⁉」
春名寺さんが驚きました。私の足下にあるはずのボールが無かったからです。
「置き去りに⁉ いや、違う⁉」
言葉から判断するに春名寺さんは私が体だけを大袈裟に動かして、ボールを元の位置に置き去りにしたと判断し、視線をそちらに向けたようです。しかし、そこにもボールはありません。春名寺さんが混乱したことが分かりました。
「どこだ! ! 上か!」
そうです。私は背中を向けると同時にボールを上に軽く蹴り出していました。スピードの緩急、左右の揺さぶりだけではかわせないと判断し、上に浮かせることを選択しました。
「ちぃ!」
春名寺さんもなんとか反応しようとしましたが、足がもつれてしまったようで、尻餅を突いてしまいました。私はその脇をすり抜け、落ちてくるボールを収め、前を向きます。
「凄え! ビィちゃんがかわしたぜ!」
竜乃ちゃんの声が一番に聞こえてきましたが、他のチームメイトからの称賛も耳に入ってきました。試合の流れを掴むことが出来たと思いました。
「桃ちゃん!」
「桃!」
前方を走る、聖良ちゃんや輝さんの声がします。当然、私も耳だけでなく、視界に二人の姿を捉えています。しかし、チームを勢い付けるにはもっとビッグプレーが欲しい、そう考えた私の眼にある光景が飛び込んできました。その瞬間に私は、味方へパスを送る、ドリブルでもう少しボールを前に運ぶ、以外の選択肢を咄嗟に選びました。
「! シュート⁉」
私の後ろから春名寺さんの驚く声がしました。そう、私はまだゴールまで距離があるにも関わらず、シュートを選択したのです。相手のゴールキーパーが前に出ていたのを目にした為です。相手キーパーも慌てて、後ろに下がりながら懸命に手を伸ばしますが、ボールには届かず、私の放ったシュートはゴールネットを揺らしました。ベンチを含め、チームが大いに沸き立ちました。このプレーで本来のリズムを取り戻すことが出来た私たちは勢いに乗り、リードされていたスコアを逆転し、試合を制しました。
「ナイスシュート、それに良いドリブルだったぜ」
試合後、春名寺さんが私に声を掛けてきました。
「あ、ありがとうございます……」
「本来あの位置でボールを失うと、ピンチに繋がりかねないから、正直あまり褒められた判断ではないが、練習試合ということを差し引けば、エースの責務を果たしたと言えるな」
「は、はあ……」
春名寺さんの分析に私は少し戸惑います。そこにキャプテンが近づいてきました。
「お疲れさまでした。それで……どの様なご判断を下されるでしょうか?」
「粗削りではあるが、なかなか面白い奴が揃っているな……いいぜ、アタシがお前らの監督になってやる」
「「「え、ええ~⁉」」」
春名寺さんの言葉を聞いた私たちは驚きの声を上げます。