第18話(3) お祭りだ、ワッショイ
文字数 2,369文字
「さて、最後はおまえらだな」
春名寺は自分の前に体育座りで並ぶ五人の仙台和泉サッカー部部員たちに声を掛ける。
「おはようございます!」
最上級生の武に合わせて全員が立ち上がり、春名寺に挨拶をする。
「ああ、おはようさん、もう10時過ぎだけどな」
「こっちが遅れたわけじゃねえぞ……」
龍波が露骨に不満そうに呟く。
「落ち着け、責めているわけじゃない。お前らはこの時間帯集合で良いんだ」
「公園で特別練習……ですか?」
姫藤が周囲を見渡しながら尋ねる。春名寺が笑って答える。
「はははっ、ここは商店街近くで一番大きい公園だからな、それも悪くはないんだが……お前らには他の大事なことをやってもらう」
「大事な事?」
「ああ……これだ!」
春名寺が一枚のポスターを突き付ける。
「『毎夏恒例! 和泉商店街夏祭り‼ ……どういうことだ?」
龍波が首を傾げる。武が思い出したように頷く。
「ああ、せやな、もうそういう時期か~」
「それで?」
姫藤の問いに春名寺がニヤッと笑って告げる。
「お前らにはこの三日間夏祭りの会場設営・撤去に運営の手伝いなど諸々働いてもらう!」
「「「「「ええっ⁉」」」」」
龍波たちは驚く。
「なんでそんなことをしなきゃならねえんだ⁉」
「い、意味が分かりません!」
「地元の盛り上がりに貢献出来るなんて素敵なことだろう?」
「そ、そんな……」
「まあ、結構な肉体労働だ。小まめに水分補給をして頑張れ。まずはテントの設営からだな、スタッフさんの指示をよく聞けよ。ほら、散った散った!」
春名寺がポンポンと両手を叩く。皆は首を傾げながらも、手伝いに向かう。
「さて……どうなるかね?」
春名寺は顎に手をやりながら微笑む。
「じゃあ、先にテントの骨組みの部分を全部運んだ方が良いっすね! 了解っす!」
白雲が元気よく返事をして、テントを積んだ車の荷台に向かう。春名寺は頷く。
「そう、常に頭を回転させて、先を読む行動が必要だ。チャンスはいつどんな時に転がってくるか分からないからな……」
「あの……監督?」
春名寺が振り向くと、小嶋とサッカー部顧問の九十九知子が立っている。
「おう、先生にマネージャーか、ご苦労さん」
「ええっと、ジャージで来いというお話でしたけど……」
「人手は多い方がそれだけ早く終わるからな……今日はアタシだけじゃなく二人にも手伝ってもらおうと思ってな」
「ああ、分かりました。では参りましょう」
軍手をはめて颯爽と手伝いに向かう九十九の姿に春名寺が逆に戸惑う。
「ず、随分話が早いな」
「先生は色々と鍛えられていますから……」
小嶋が苦笑いを浮かべる。初日の準備は滞りなく終わり、二日目の祭り当日を迎える。
「さあさあ、いらっしゃい、いらっしゃい、焼きそばめっちゃ美味しいで~」
「わたあめ、チョコバナナなどはこちらでーす」
武と趙が手慣れた様子でお客を呼び込み、各々の屋台にスムーズに案内する。それを見て九十九が感心する。
「流石に二人とも手慣れているわね」
「武さんはおうちがお寿司屋さん、趙さんは中華料理屋さんですから」
「お客の導線を用意することはコースやスペースを作り出すことに似ているからな」
「そ、そうでしょうか?」
「そうだよ」
「そ、そういうことにしておきましょうか」
小嶋は空気を呼んで頷く。
「聖良ちゃん、これを3番テーブルの方にお願いするっす!」
「こっちは5番テーブルに頼む」
「分かったわ!」
姫藤が白雲と趙から皿を受け取ると、沢山の客の間を巧みなステップですり抜けていく。
「おお、流石は姫藤さん!」
「テーブルという目的地から逆算して最短ルートを選べているな……問題はアイツか」
春名寺は公園中央に設置されたステージの周辺でうろうろとしている龍波の後頭部に軽く手刀を入れる。
「痛っ! なにすんだよ!」
「なにをうろついてんだお前は……」
「いや、やることが一杯あってよ、正直しっちゃかめっちゃかっていうか……」
「まあ、気持ちは分からんでもないが、無駄な動きは極力減らすようにしろ。効率を高めることを重視するんだ」
「!」
「お前は見かけによらず勉強がなかなか出来るらしいからアタシの言わんとしていることは大体分かるだろう?」
「見かけによらずは余計だ……でも、なんとなく分かったぜ!」
龍波は笑顔を浮かべて、再び動き出す。春名寺は腕を組んで頷く。約二日間に渡って開催された夏祭りも盛況の内に幕を閉じ、撤収作業に入る。
「ピカ子、リサっち、丸テーブルはある程度まとめて置いといてくれ。アタシが何度かに分けて持っていくようにするからよ」
「分かったわ」
「了解」
「アッキーナ、ナッガーレ、テント類をまとめるなら、荷台の近くでやった方が良いぜ。運ぶ力も距離も省けるからよ」
「な、成程な……」
「分かったっす!」
指示を飛ばす龍波を見て、春名寺はこくこくと頷く。
「そうだ、効率よく動き、限られたスペースを有効に活用するように努めろ。ただ闇雲に動き回れば良いってもんじゃない……」
「守備陣はスーパーマーケット、中盤は幼稚園、そして攻撃陣はお祭りの手伝い、一見競技に関係ないように見えて、全てサッカーに繋がる三日間の特別訓練でしたね」
「ほ、本当に関係あるの? 素人には分かりにくかったけど」
九十九の言葉に春名寺はニヤッと笑う。
「普通にグラウンドで走り回ったり、ボールを使った練習をするのも勿論大事だが、こういうのもわりと有意義だったんじゃねえかな?」
「そ、そうなんですか?」
「有意義なものだったと言えるかどうかは結局アイツら次第だ……お疲れさん」
春名寺は片手を挙げてその場を去る。小嶋たちその背中に声を掛ける。
「お疲れ様でした!」
「お、お疲れ様でした!」
「……少なくともアタシにとっては有意義な三日間だったな」
お金の入った封筒をヒラヒラとさせながら、春名寺は悪い笑顔で呟く。
春名寺は自分の前に体育座りで並ぶ五人の仙台和泉サッカー部部員たちに声を掛ける。
「おはようございます!」
最上級生の武に合わせて全員が立ち上がり、春名寺に挨拶をする。
「ああ、おはようさん、もう10時過ぎだけどな」
「こっちが遅れたわけじゃねえぞ……」
龍波が露骨に不満そうに呟く。
「落ち着け、責めているわけじゃない。お前らはこの時間帯集合で良いんだ」
「公園で特別練習……ですか?」
姫藤が周囲を見渡しながら尋ねる。春名寺が笑って答える。
「はははっ、ここは商店街近くで一番大きい公園だからな、それも悪くはないんだが……お前らには他の大事なことをやってもらう」
「大事な事?」
「ああ……これだ!」
春名寺が一枚のポスターを突き付ける。
「『毎夏恒例! 和泉商店街夏祭り‼ ……どういうことだ?」
龍波が首を傾げる。武が思い出したように頷く。
「ああ、せやな、もうそういう時期か~」
「それで?」
姫藤の問いに春名寺がニヤッと笑って告げる。
「お前らにはこの三日間夏祭りの会場設営・撤去に運営の手伝いなど諸々働いてもらう!」
「「「「「ええっ⁉」」」」」
龍波たちは驚く。
「なんでそんなことをしなきゃならねえんだ⁉」
「い、意味が分かりません!」
「地元の盛り上がりに貢献出来るなんて素敵なことだろう?」
「そ、そんな……」
「まあ、結構な肉体労働だ。小まめに水分補給をして頑張れ。まずはテントの設営からだな、スタッフさんの指示をよく聞けよ。ほら、散った散った!」
春名寺がポンポンと両手を叩く。皆は首を傾げながらも、手伝いに向かう。
「さて……どうなるかね?」
春名寺は顎に手をやりながら微笑む。
「じゃあ、先にテントの骨組みの部分を全部運んだ方が良いっすね! 了解っす!」
白雲が元気よく返事をして、テントを積んだ車の荷台に向かう。春名寺は頷く。
「そう、常に頭を回転させて、先を読む行動が必要だ。チャンスはいつどんな時に転がってくるか分からないからな……」
「あの……監督?」
春名寺が振り向くと、小嶋とサッカー部顧問の九十九知子が立っている。
「おう、先生にマネージャーか、ご苦労さん」
「ええっと、ジャージで来いというお話でしたけど……」
「人手は多い方がそれだけ早く終わるからな……今日はアタシだけじゃなく二人にも手伝ってもらおうと思ってな」
「ああ、分かりました。では参りましょう」
軍手をはめて颯爽と手伝いに向かう九十九の姿に春名寺が逆に戸惑う。
「ず、随分話が早いな」
「先生は色々と鍛えられていますから……」
小嶋が苦笑いを浮かべる。初日の準備は滞りなく終わり、二日目の祭り当日を迎える。
「さあさあ、いらっしゃい、いらっしゃい、焼きそばめっちゃ美味しいで~」
「わたあめ、チョコバナナなどはこちらでーす」
武と趙が手慣れた様子でお客を呼び込み、各々の屋台にスムーズに案内する。それを見て九十九が感心する。
「流石に二人とも手慣れているわね」
「武さんはおうちがお寿司屋さん、趙さんは中華料理屋さんですから」
「お客の導線を用意することはコースやスペースを作り出すことに似ているからな」
「そ、そうでしょうか?」
「そうだよ」
「そ、そういうことにしておきましょうか」
小嶋は空気を呼んで頷く。
「聖良ちゃん、これを3番テーブルの方にお願いするっす!」
「こっちは5番テーブルに頼む」
「分かったわ!」
姫藤が白雲と趙から皿を受け取ると、沢山の客の間を巧みなステップですり抜けていく。
「おお、流石は姫藤さん!」
「テーブルという目的地から逆算して最短ルートを選べているな……問題はアイツか」
春名寺は公園中央に設置されたステージの周辺でうろうろとしている龍波の後頭部に軽く手刀を入れる。
「痛っ! なにすんだよ!」
「なにをうろついてんだお前は……」
「いや、やることが一杯あってよ、正直しっちゃかめっちゃかっていうか……」
「まあ、気持ちは分からんでもないが、無駄な動きは極力減らすようにしろ。効率を高めることを重視するんだ」
「!」
「お前は見かけによらず勉強がなかなか出来るらしいからアタシの言わんとしていることは大体分かるだろう?」
「見かけによらずは余計だ……でも、なんとなく分かったぜ!」
龍波は笑顔を浮かべて、再び動き出す。春名寺は腕を組んで頷く。約二日間に渡って開催された夏祭りも盛況の内に幕を閉じ、撤収作業に入る。
「ピカ子、リサっち、丸テーブルはある程度まとめて置いといてくれ。アタシが何度かに分けて持っていくようにするからよ」
「分かったわ」
「了解」
「アッキーナ、ナッガーレ、テント類をまとめるなら、荷台の近くでやった方が良いぜ。運ぶ力も距離も省けるからよ」
「な、成程な……」
「分かったっす!」
指示を飛ばす龍波を見て、春名寺はこくこくと頷く。
「そうだ、効率よく動き、限られたスペースを有効に活用するように努めろ。ただ闇雲に動き回れば良いってもんじゃない……」
「守備陣はスーパーマーケット、中盤は幼稚園、そして攻撃陣はお祭りの手伝い、一見競技に関係ないように見えて、全てサッカーに繋がる三日間の特別訓練でしたね」
「ほ、本当に関係あるの? 素人には分かりにくかったけど」
九十九の言葉に春名寺はニヤッと笑う。
「普通にグラウンドで走り回ったり、ボールを使った練習をするのも勿論大事だが、こういうのもわりと有意義だったんじゃねえかな?」
「そ、そうなんですか?」
「有意義なものだったと言えるかどうかは結局アイツら次第だ……お疲れさん」
春名寺は片手を挙げてその場を去る。小嶋たちその背中に声を掛ける。
「お疲れ様でした!」
「お、お疲れ様でした!」
「……少なくともアタシにとっては有意義な三日間だったな」
お金の入った封筒をヒラヒラとさせながら、春名寺は悪い笑顔で呟く。