第8話(1) 新たな因縁
文字数 2,565文字
「うふふ~♪」
「何よ、薄気味悪い声出して」
「笑い声だ!」
「何か浮かれることでもあったかしら?」
聖良ちゃんの問いかけに竜乃ちゃんが得意満面の顔で答えます。
「へへっ、何を隠そう、この龍波竜乃、先ほどの試合で初ゴールを決めたぜ!」
「私も試合に出ていたから見ていたわよ……」
「見事なゴールだったろ?」
「ええ見事だったわ……桃ちゃんのラストパスがね」
「そっちかよ!」
4月末。私はもはや日常茶飯事となった、竜乃ちゃんと聖良ちゃんのじゃれ合いをにこやかに眺めていました。何故ならばこのゴールデンウィーク前半に行われた『20XX年度 宮城県高校総体 仙台地区予選Bブロック』を3戦全勝の首位で通過することが出来たからです。
簡単に振り返ってみると、まず初戦の仙台実業戦、じりじりとした展開が続きましたが、前半終了間際、“自称本番に強い女”成実さんのミドルシュートが決まって先制。これによって、初戦特有の緊張もほぐれた私たちは試合を優勢に進め、後半に更に2点を追加し、結果3対0で勝利することが出来ました。
次に翌日の青葉第一戦。試合序盤相手のハンドで得たラッキーなPKを輝さんがしっかりと決めて先制。その後も、前半と後半に聖良ちゃんが1得点ずつ挙げる大活躍。試合終盤にも追加点が決まって、合計4対0で勝利。1試合を残し、県予選進出を決めました。
最終戦の梅島戦。私たちは既に突破を決めていたこともあり、先発メンバーを大幅に入れ替えて試合に臨みました。松内さんが見事なFKを決めてリードを奪うと、桜庭さん、莉沙ちゃんが点を追加。前半だけで3点差をつけることが出来ました。後半更に1点が決まった後、私と共に投入された竜乃ちゃんに待望の初ゴールが生まれました。3列目の位置(大体ボランチの辺り)から前線に飛び出した私に聖良ちゃんから絶妙なスルーパスがきました。相手GKと1対1の体勢になりましたが、私はシュートを打たずに、中央にボールを送りました。そこに走りこんでいた竜乃ちゃんが落ち着いてゴールに流し込みました。これがとどめの1点になり、スコアは5対0。私たち仙台和泉高校は3試合全勝、ブロック首位で地区予選を突破し、県予選へ駒を進めることが出来ました。
「3試合で1点っていうのは、フォワードとしてはちょっとね……」
「何だよ、そーいう自分は……」
「3得点。チームトップよ」
「ちっ……」
「で、でも試合を重ねるごとに動きは良くなっていたよ、秋魚さんとも連動出来ていたよ」
「そ、そう思うか?」
「何か決め事はあったの?」
「交差する動きを意識したな、例えばクロスボールに対してアッキーナがニアサイドに走りこんだら、アタシはファーサイドに走る……みたいな感じかな」
「二人の動きが重ならないように心掛けていたんだね」
「基本的な動き方ね。まあ、確かに試合を経験する毎に良くなっていた様には思うけど」
「だろ? こりゃ県予選はアタシのゴールラッシュかな」
「調子に乗らないの」
三人で歩いていると、一人の女の子とすれ違いました。すると、
「おい!」
その赤茶色の短髪の女の子が私たちに向かって話し掛けてきました。
「な、なんでしょうか?」
私は恐る恐る問いかけます。彼女はこう言います。
「おんどれじゃねーわ、お団子。そっちの金髪じゃ、用事があんのは」
指を差された竜乃ちゃんがゆっくりと向き直ります。
「え、何? アタシ? 何かしたか?」
「おんどれじゃ、金髪、おんどれのそのブチデケェカバンがワシに当たったんじゃい、何か言うことあるじゃろうが、えぇ?」
「おおっそうか、悪りぃ、悪りぃ、じゃあな」
「待てや、待てぃ、悪りぃで済んだら警察要らんのじゃ!」
「あん? 何だよ、だから謝ったじゃねーか」
「あ?」
「あん?」
立ち込める不穏な雰囲気に私もどうしたものかとハラハラしていると、声が掛かりました。
「止めろ」
低く落ち着いた声の持ち主は、竜乃ちゃんよりも長身で黒髪オールバックの女性でした。
「ほじゃけえ、姉御。こいつが……」
「大方お前の言いがかりみたいなものだろう、下らん揉め事は止めろ、後、その姉御呼びも止めろ。とにかく皆がバスで待っている、さっさと行け」
「ちっ……」
そう言って、赤茶髪の子はその場から立ち去って行きました。
「不快な思いをさせて申し訳ない」
「い、いえ、こちらも、ほら、竜乃ちゃんも」
「ええっ? ……たくっ、サーセン」
「それでは失礼する」
黒髪の女性も踵を返し、先程の赤茶髪の方と同じ方向に歩いて行きました。
「……何だよ、アイツら」
「どこかで見たことあるわね……」
「それは当然でしょう」
「「うわあ⁉」」
私たちの背後にいつの間にかキャプテンが立っていました。
「その音もなく、後ろに回り込むの止めてくれよ、マジ心臓に悪いって……」
「あの二人は本場蘭 さんと栗東 マリアさん、女王常磐野学園のレギュラーCBコンビです」
「! 確かにあの肩に緑のラインが入った白ジャージは常磐野の……同会場だったんですね」
「ええ、3戦全勝で、Aブロック首位突破。全く危なげない戦いぶりでしたね」
「栗東マリアって、中学の時はFWで有名だったかと思っていたんですけど」
「高校に入ってからCBにコンバート(ポジション変更)されたようですね」
「私や聖良ちゃんと大して変わらない身長なのに……」
「それを補って余りある高い身体能力とセンスの良さを併せ持っていますね」
「なんで広島から宮城に? 西日本の強豪チームからも誘いがあったんじゃないですか?」
「さあ、私もそこまでは……。まあ、あそこは全国から選手が集まりますからね」
「何でも良い。ナメた態度取りやがって、アイツ見てろよ……」
「た、竜乃ちゃん! ケンカはダメだよ!」
私は慌てて竜乃ちゃんを制止します。
「わーってるよ、ただ試合となりゃ話は別だろ? アタシはFWでアイツはDF……ってことはどーしたってぶつかるよな?」
「だからって、わざとぶつかったりするのもナシよ」
「それも分かっているよ。ちゃんとサッカーでケリを付けるさ」
「それは頼もしいですね、まあ、今はとにかく皆さんと合流しましょうか」
キャプテンは私たち三人を、集合場所へと促しました。そして小声で何やら呟きました。
「出来れば対戦は準々決勝以降が望ましいですね、ここで言っても始まりませんが……」
「何よ、薄気味悪い声出して」
「笑い声だ!」
「何か浮かれることでもあったかしら?」
聖良ちゃんの問いかけに竜乃ちゃんが得意満面の顔で答えます。
「へへっ、何を隠そう、この龍波竜乃、先ほどの試合で初ゴールを決めたぜ!」
「私も試合に出ていたから見ていたわよ……」
「見事なゴールだったろ?」
「ええ見事だったわ……桃ちゃんのラストパスがね」
「そっちかよ!」
4月末。私はもはや日常茶飯事となった、竜乃ちゃんと聖良ちゃんのじゃれ合いをにこやかに眺めていました。何故ならばこのゴールデンウィーク前半に行われた『20XX年度 宮城県高校総体 仙台地区予選Bブロック』を3戦全勝の首位で通過することが出来たからです。
簡単に振り返ってみると、まず初戦の仙台実業戦、じりじりとした展開が続きましたが、前半終了間際、“自称本番に強い女”成実さんのミドルシュートが決まって先制。これによって、初戦特有の緊張もほぐれた私たちは試合を優勢に進め、後半に更に2点を追加し、結果3対0で勝利することが出来ました。
次に翌日の青葉第一戦。試合序盤相手のハンドで得たラッキーなPKを輝さんがしっかりと決めて先制。その後も、前半と後半に聖良ちゃんが1得点ずつ挙げる大活躍。試合終盤にも追加点が決まって、合計4対0で勝利。1試合を残し、県予選進出を決めました。
最終戦の梅島戦。私たちは既に突破を決めていたこともあり、先発メンバーを大幅に入れ替えて試合に臨みました。松内さんが見事なFKを決めてリードを奪うと、桜庭さん、莉沙ちゃんが点を追加。前半だけで3点差をつけることが出来ました。後半更に1点が決まった後、私と共に投入された竜乃ちゃんに待望の初ゴールが生まれました。3列目の位置(大体ボランチの辺り)から前線に飛び出した私に聖良ちゃんから絶妙なスルーパスがきました。相手GKと1対1の体勢になりましたが、私はシュートを打たずに、中央にボールを送りました。そこに走りこんでいた竜乃ちゃんが落ち着いてゴールに流し込みました。これがとどめの1点になり、スコアは5対0。私たち仙台和泉高校は3試合全勝、ブロック首位で地区予選を突破し、県予選へ駒を進めることが出来ました。
「3試合で1点っていうのは、フォワードとしてはちょっとね……」
「何だよ、そーいう自分は……」
「3得点。チームトップよ」
「ちっ……」
「で、でも試合を重ねるごとに動きは良くなっていたよ、秋魚さんとも連動出来ていたよ」
「そ、そう思うか?」
「何か決め事はあったの?」
「交差する動きを意識したな、例えばクロスボールに対してアッキーナがニアサイドに走りこんだら、アタシはファーサイドに走る……みたいな感じかな」
「二人の動きが重ならないように心掛けていたんだね」
「基本的な動き方ね。まあ、確かに試合を経験する毎に良くなっていた様には思うけど」
「だろ? こりゃ県予選はアタシのゴールラッシュかな」
「調子に乗らないの」
三人で歩いていると、一人の女の子とすれ違いました。すると、
「おい!」
その赤茶色の短髪の女の子が私たちに向かって話し掛けてきました。
「な、なんでしょうか?」
私は恐る恐る問いかけます。彼女はこう言います。
「おんどれじゃねーわ、お団子。そっちの金髪じゃ、用事があんのは」
指を差された竜乃ちゃんがゆっくりと向き直ります。
「え、何? アタシ? 何かしたか?」
「おんどれじゃ、金髪、おんどれのそのブチデケェカバンがワシに当たったんじゃい、何か言うことあるじゃろうが、えぇ?」
「おおっそうか、悪りぃ、悪りぃ、じゃあな」
「待てや、待てぃ、悪りぃで済んだら警察要らんのじゃ!」
「あん? 何だよ、だから謝ったじゃねーか」
「あ?」
「あん?」
立ち込める不穏な雰囲気に私もどうしたものかとハラハラしていると、声が掛かりました。
「止めろ」
低く落ち着いた声の持ち主は、竜乃ちゃんよりも長身で黒髪オールバックの女性でした。
「ほじゃけえ、姉御。こいつが……」
「大方お前の言いがかりみたいなものだろう、下らん揉め事は止めろ、後、その姉御呼びも止めろ。とにかく皆がバスで待っている、さっさと行け」
「ちっ……」
そう言って、赤茶髪の子はその場から立ち去って行きました。
「不快な思いをさせて申し訳ない」
「い、いえ、こちらも、ほら、竜乃ちゃんも」
「ええっ? ……たくっ、サーセン」
「それでは失礼する」
黒髪の女性も踵を返し、先程の赤茶髪の方と同じ方向に歩いて行きました。
「……何だよ、アイツら」
「どこかで見たことあるわね……」
「それは当然でしょう」
「「うわあ⁉」」
私たちの背後にいつの間にかキャプテンが立っていました。
「その音もなく、後ろに回り込むの止めてくれよ、マジ心臓に悪いって……」
「あの二人は
「! 確かにあの肩に緑のラインが入った白ジャージは常磐野の……同会場だったんですね」
「ええ、3戦全勝で、Aブロック首位突破。全く危なげない戦いぶりでしたね」
「栗東マリアって、中学の時はFWで有名だったかと思っていたんですけど」
「高校に入ってからCBにコンバート(ポジション変更)されたようですね」
「私や聖良ちゃんと大して変わらない身長なのに……」
「それを補って余りある高い身体能力とセンスの良さを併せ持っていますね」
「なんで広島から宮城に? 西日本の強豪チームからも誘いがあったんじゃないですか?」
「さあ、私もそこまでは……。まあ、あそこは全国から選手が集まりますからね」
「何でも良い。ナメた態度取りやがって、アイツ見てろよ……」
「た、竜乃ちゃん! ケンカはダメだよ!」
私は慌てて竜乃ちゃんを制止します。
「わーってるよ、ただ試合となりゃ話は別だろ? アタシはFWでアイツはDF……ってことはどーしたってぶつかるよな?」
「だからって、わざとぶつかったりするのもナシよ」
「それも分かっているよ。ちゃんとサッカーでケリを付けるさ」
「それは頼もしいですね、まあ、今はとにかく皆さんと合流しましょうか」
キャプテンは私たち三人を、集合場所へと促しました。そして小声で何やら呟きました。
「出来れば対戦は準々決勝以降が望ましいですね、ここで言っても始まりませんが……」