第13話(2) 豆不二子の無双
文字数 3,229文字
「連絡を取っておいたんですよ」
「いつの間に連絡先をー?」
「先日県予選の決勝を見に行ったら、会場でバッタリお会いしまして……」
「ちょっとお話ししたら、すっかり意気投合しちゃったのよ~」
「は、はあ……」
尚も戸惑っている私たちをよそに、キャプテンが話を進めます。
「では私と弥凪が下がって、豆さんと天ノ川さんに入ってもらいましょう。相手には私から言っておきます」
そう言って、キャプテンは再び相手チームのベンチへ向かいました。二、三言話した後、こちらに振り返って、両手で大きく丸のサインを出してきました。
「お許しも出たみたいね……という訳で改めてよろしくね~」
「お願いしまーす」
「は、はい……」
マイペースな二人ですが、その実力は疑いの余地がありません。しかし、後半20分で5点差をひっくり返すのはなかなか至難の業です。そんな私の心中を察したのか、豆さんが声を掛けてきました。
「じゃあ、ちょっと円陣でも組んじゃう~?」
私たち5人は円陣を組みました。
「さて……逆転への秘策だけど~」
「そんなのあんのかよ⁉」
「あったら苦労しないわよね~」
竜乃ちゃんと健さんがずっこけます。
「あの……お願いですから真面目にやって下さいます? 半分お遊びみたいなものとは言え、わたくし負けるのは大っ嫌いですの!」
「それよ!」
豆さんが健さんを指差します。健さんは思わずビクっとしました。
「その気持ちが大事! なんのかんの言ったって、スポーツっていうのは結局メンタルが最後に物を言うのよ~」
「おっしゃることは分かりますが……悔しいですけど、相手との実力差は如何ともしがたいものがありますわ。メンタルだけではどうにもならないですわ」
「実力差を生み出している最大の要因を摘み取れば良いのよ~」
「最大の要因……?」
私が聞き返すと、豆さんは小声で囁きました。私たちは耳を澄まします。
「それはね……」
「後半戦、開始します!」
審判がホイッスルを吹き、相手チームのキックオフで後半戦が始まりました。ボールが私たちの今日の標的?鈴森さんの所に向かいました。彼女がダイレクトでボールを捌こうとしたその瞬間、天ノ川さんと竜乃ちゃんが猛スピードで詰め寄ります。
「!」
鈴森さんは一瞬驚いた表情を浮かべましたが、一旦ボールをトラップして落ち着いて、二人の間にパスを通してきました。
「よし!」
そのコースを読んでいた私がパスカットに成功しました。狙い通りの形でボールを奪うことが出来ました。しかし、ほんの一瞬で私も相手チームの選手に囲まれます。
「お団子ちゃん~後ろに下げて~」
豆さんのやや気の抜けた声が後方からしたため、私はボールをすかさず後ろに下げました。ですが、相手もすぐさま反応し、豆さんに詰め寄ります。すると、豆さんは間髪入れずに前方に鋭いグラウンダーのパスを送りました。コートを縦に切り裂くような高速のボールにいち早く反応したのは天ノ川さんでした。鈴森さんもすぐに体を寄せに行きましたが、天ノ川さんが上手く抑え込んで、ゴールに背を向けて、鈴森さんを背負った状態で先にボールに触れました。しかし、ボールが彼女にとって右横、太腿辺りの高さへと浮いてしまいました。トラップミスかと誰もが思った次の瞬間……
「!」
天ノ川さんは素早く体を反転させて、強烈なボレーシュートを放ちました。ボールは一直線に飛んで、相手ゴールのネットを揺らしました。一瞬のことで、鈴森さんも、相手キーパーも全く反応することが出来ませんでした。
「ナイス~♪」
「イエーイ♪」
相変わらず気の抜けた声をあげ、拍手をしながら豆さんはゴールを讃え、天ノ川さんも左手の親指を立てて、軽い調子でそれに応えました。後半開始一分で、私たちは早くも一点を返すことが出来ました。
「さあ~この調子で行きましょう~」
「お、おう!」
豆さんの激?に竜乃ちゃんが困惑しながらも応えます。試合が再開されしばらく経つと、再びボールが鈴森さんの所へといきました。天ノ川さんと竜乃ちゃんがまたもや鋭い出足で詰め寄りました。
「もらった!」
「……っ!」
「な、何⁉」
鈴森さんはパスを出さずにドリブルで竜乃ちゃんをかわしにかかりました。ボールは虚を突かれた形となった竜乃ちゃんの股の間を抜けました。パスコースが限定されたのなら、マークを一枚剥がして、プレーの選択肢を増やす、的確な判断力です。左足を振りかぶった彼女を見て、私はパスのコースを予測し、その軌道上に入りました。
(奪った!)
と思った私ですが、鈴森さんは左足でボールを蹴らず、瞬時で蹴り足を切り替え、右足でボールを蹴りました。ボールは私の居るサイドとは逆方向に転がりました。
「しまっ……⁉」
「⁉」
「読み通り~♪」
なんとそこには豆さんが居ました。パスカットに成功した豆さんはその勢いのまま、ゴール前に進み、天ノ川さんに速いパスを送ります。相手チームの体格の良い選手が体を寄せに行きましたが、彼女はまたも相手を抑え込み、難なくトラップに成功します。そしてすぐに体を右に半回転させます。また振り向きざまにシュートかと思った相手選手が足を伸ばしてブロックを試みますが、彼女の選択は違いました。左足の足裏でボールを自分の左方向へと転がしました。逆を突かれた相手は反応できません。
「絶妙~」
そこに走り込んだ豆さんがシュートを放とうとします。相手のゴールキーパーも反応し、やや前に出て、シュートコースを狭めました。しかし、豆さんはその動きを冷静に見極めて、ボールをふわりと浮かせたシュートを放ちました。タイミングを外された形となった相手キーパーも手を伸ばしますが、防ぎきれずにボールはゴールへと吸い込まれて行きました。これでスコアは2対5。後半開始僅か5分程で、点差は3点となりました。
「ナイスパス~♪」
豆さんは天ノ川さんとハイタッチを交わしました。
「……」
その様子を鈴森さんはやや苦々しげに見つめていました。試合が再開され、少し変化が起きました。これまでほとんど後方に位置を取っていた鈴森さんが、やや前目にポジションを上げてきたのです。試合はそのまましばらく進みましたが、やがてコート中央で鈴森さんがボールを受けました。私は素早く体を寄せましたが、彼女はルーレットの様に体を反転させて、私を一瞬でかわしました。
「あっ……」
ここでフリーの相手にパスを通されたら不味いと私は思いましたが、彼女はパスを選択せず、そのままドリブルでボールを前に運びました。ゴール前には豆さんが居ましたが、そのまま突き進み、かわしにかかりました。素早くシザース(またぎ)フェイントを入れ、豆さんの脇をすり抜けようとします。しかし……
「甘い~♪」
豆さんがボールをあっさりと奪いました。鈴森さんはバランスを崩して倒れます。豆さんが私にパスを寄越しました。そして、
「リターン!」
ここにきて初めて、鋭い声色で私にリターンパスを要求してきました。私はダイレクトでコート中央まで上がってきた豆さんにパスを返します。鈴森さんがボールを奪われるとは思っていなかった相手チームは一瞬戸惑っているようでしたが、すぐに守備陣形を整えます。
「不二子さん!」
天ノ川さんがこれまた鋭い声色でボールを要求します。左手の人差し指を上に突き出しているなと思った次の瞬間、豆さんがパスを送りこみました。なんと緩やかな浮き球のパスでした。また速いグラウンダーのボールだと予想していた相手チームはほんの一瞬ですが、動きを止めました。いち早くボールの落下地点に入った天ノ川さんは相手のディフェンスを寄せ付けず、ヘディングシュートを放ちました。コースを上手く狙ったシュートがゴールネットに突き刺さりました。
「よし!」
「ナイスシュート♪」
ガッツポーズを取る天ノ川さんを豆さんが再び拍手で讃えました。これで2点差です。
「タイムアウト!」
相手チームが堪らずタイムアウトを取りました。
「いつの間に連絡先をー?」
「先日県予選の決勝を見に行ったら、会場でバッタリお会いしまして……」
「ちょっとお話ししたら、すっかり意気投合しちゃったのよ~」
「は、はあ……」
尚も戸惑っている私たちをよそに、キャプテンが話を進めます。
「では私と弥凪が下がって、豆さんと天ノ川さんに入ってもらいましょう。相手には私から言っておきます」
そう言って、キャプテンは再び相手チームのベンチへ向かいました。二、三言話した後、こちらに振り返って、両手で大きく丸のサインを出してきました。
「お許しも出たみたいね……という訳で改めてよろしくね~」
「お願いしまーす」
「は、はい……」
マイペースな二人ですが、その実力は疑いの余地がありません。しかし、後半20分で5点差をひっくり返すのはなかなか至難の業です。そんな私の心中を察したのか、豆さんが声を掛けてきました。
「じゃあ、ちょっと円陣でも組んじゃう~?」
私たち5人は円陣を組みました。
「さて……逆転への秘策だけど~」
「そんなのあんのかよ⁉」
「あったら苦労しないわよね~」
竜乃ちゃんと健さんがずっこけます。
「あの……お願いですから真面目にやって下さいます? 半分お遊びみたいなものとは言え、わたくし負けるのは大っ嫌いですの!」
「それよ!」
豆さんが健さんを指差します。健さんは思わずビクっとしました。
「その気持ちが大事! なんのかんの言ったって、スポーツっていうのは結局メンタルが最後に物を言うのよ~」
「おっしゃることは分かりますが……悔しいですけど、相手との実力差は如何ともしがたいものがありますわ。メンタルだけではどうにもならないですわ」
「実力差を生み出している最大の要因を摘み取れば良いのよ~」
「最大の要因……?」
私が聞き返すと、豆さんは小声で囁きました。私たちは耳を澄まします。
「それはね……」
「後半戦、開始します!」
審判がホイッスルを吹き、相手チームのキックオフで後半戦が始まりました。ボールが私たちの今日の標的?鈴森さんの所に向かいました。彼女がダイレクトでボールを捌こうとしたその瞬間、天ノ川さんと竜乃ちゃんが猛スピードで詰め寄ります。
「!」
鈴森さんは一瞬驚いた表情を浮かべましたが、一旦ボールをトラップして落ち着いて、二人の間にパスを通してきました。
「よし!」
そのコースを読んでいた私がパスカットに成功しました。狙い通りの形でボールを奪うことが出来ました。しかし、ほんの一瞬で私も相手チームの選手に囲まれます。
「お団子ちゃん~後ろに下げて~」
豆さんのやや気の抜けた声が後方からしたため、私はボールをすかさず後ろに下げました。ですが、相手もすぐさま反応し、豆さんに詰め寄ります。すると、豆さんは間髪入れずに前方に鋭いグラウンダーのパスを送りました。コートを縦に切り裂くような高速のボールにいち早く反応したのは天ノ川さんでした。鈴森さんもすぐに体を寄せに行きましたが、天ノ川さんが上手く抑え込んで、ゴールに背を向けて、鈴森さんを背負った状態で先にボールに触れました。しかし、ボールが彼女にとって右横、太腿辺りの高さへと浮いてしまいました。トラップミスかと誰もが思った次の瞬間……
「!」
天ノ川さんは素早く体を反転させて、強烈なボレーシュートを放ちました。ボールは一直線に飛んで、相手ゴールのネットを揺らしました。一瞬のことで、鈴森さんも、相手キーパーも全く反応することが出来ませんでした。
「ナイス~♪」
「イエーイ♪」
相変わらず気の抜けた声をあげ、拍手をしながら豆さんはゴールを讃え、天ノ川さんも左手の親指を立てて、軽い調子でそれに応えました。後半開始一分で、私たちは早くも一点を返すことが出来ました。
「さあ~この調子で行きましょう~」
「お、おう!」
豆さんの激?に竜乃ちゃんが困惑しながらも応えます。試合が再開されしばらく経つと、再びボールが鈴森さんの所へといきました。天ノ川さんと竜乃ちゃんがまたもや鋭い出足で詰め寄りました。
「もらった!」
「……っ!」
「な、何⁉」
鈴森さんはパスを出さずにドリブルで竜乃ちゃんをかわしにかかりました。ボールは虚を突かれた形となった竜乃ちゃんの股の間を抜けました。パスコースが限定されたのなら、マークを一枚剥がして、プレーの選択肢を増やす、的確な判断力です。左足を振りかぶった彼女を見て、私はパスのコースを予測し、その軌道上に入りました。
(奪った!)
と思った私ですが、鈴森さんは左足でボールを蹴らず、瞬時で蹴り足を切り替え、右足でボールを蹴りました。ボールは私の居るサイドとは逆方向に転がりました。
「しまっ……⁉」
「⁉」
「読み通り~♪」
なんとそこには豆さんが居ました。パスカットに成功した豆さんはその勢いのまま、ゴール前に進み、天ノ川さんに速いパスを送ります。相手チームの体格の良い選手が体を寄せに行きましたが、彼女はまたも相手を抑え込み、難なくトラップに成功します。そしてすぐに体を右に半回転させます。また振り向きざまにシュートかと思った相手選手が足を伸ばしてブロックを試みますが、彼女の選択は違いました。左足の足裏でボールを自分の左方向へと転がしました。逆を突かれた相手は反応できません。
「絶妙~」
そこに走り込んだ豆さんがシュートを放とうとします。相手のゴールキーパーも反応し、やや前に出て、シュートコースを狭めました。しかし、豆さんはその動きを冷静に見極めて、ボールをふわりと浮かせたシュートを放ちました。タイミングを外された形となった相手キーパーも手を伸ばしますが、防ぎきれずにボールはゴールへと吸い込まれて行きました。これでスコアは2対5。後半開始僅か5分程で、点差は3点となりました。
「ナイスパス~♪」
豆さんは天ノ川さんとハイタッチを交わしました。
「……」
その様子を鈴森さんはやや苦々しげに見つめていました。試合が再開され、少し変化が起きました。これまでほとんど後方に位置を取っていた鈴森さんが、やや前目にポジションを上げてきたのです。試合はそのまましばらく進みましたが、やがてコート中央で鈴森さんがボールを受けました。私は素早く体を寄せましたが、彼女はルーレットの様に体を反転させて、私を一瞬でかわしました。
「あっ……」
ここでフリーの相手にパスを通されたら不味いと私は思いましたが、彼女はパスを選択せず、そのままドリブルでボールを前に運びました。ゴール前には豆さんが居ましたが、そのまま突き進み、かわしにかかりました。素早くシザース(またぎ)フェイントを入れ、豆さんの脇をすり抜けようとします。しかし……
「甘い~♪」
豆さんがボールをあっさりと奪いました。鈴森さんはバランスを崩して倒れます。豆さんが私にパスを寄越しました。そして、
「リターン!」
ここにきて初めて、鋭い声色で私にリターンパスを要求してきました。私はダイレクトでコート中央まで上がってきた豆さんにパスを返します。鈴森さんがボールを奪われるとは思っていなかった相手チームは一瞬戸惑っているようでしたが、すぐに守備陣形を整えます。
「不二子さん!」
天ノ川さんがこれまた鋭い声色でボールを要求します。左手の人差し指を上に突き出しているなと思った次の瞬間、豆さんがパスを送りこみました。なんと緩やかな浮き球のパスでした。また速いグラウンダーのボールだと予想していた相手チームはほんの一瞬ですが、動きを止めました。いち早くボールの落下地点に入った天ノ川さんは相手のディフェンスを寄せ付けず、ヘディングシュートを放ちました。コースを上手く狙ったシュートがゴールネットに突き刺さりました。
「よし!」
「ナイスシュート♪」
ガッツポーズを取る天ノ川さんを豆さんが再び拍手で讃えました。これで2点差です。
「タイムアウト!」
相手チームが堪らずタイムアウトを取りました。