第18話(2) ドタバタ大騒ぎ
文字数 2,474文字
「集まっているな」
春名寺が部屋に入り声を掛ける。そこには仙台和泉サッカー部の面々の内六名が体育座りをして並んでいる。
「おはようございます!」
皆が立ち上がり、春名寺に挨拶する。春名寺は軽く手を挙げて応える。
「着替えは済んでいるみてえだな」
「着替えっていうか、身に着けただけっていうか……」
桜庭が苦笑する。菊沢が尋ねる。
「何これ?」
「エプロンだよ」
「それは分かるわよ、ウチが聞きたいのはどうしてこの恰好をする必要があるのかってこと」
「気になるか?」
「当たり前でしょ」
「まあ、短刀直入に言うとだな……お前らにはこの三日間、この『杜の都キンダーガーデン』での仕事の手伝いをしてもらう」
「「「ええっ⁉」」」
「……なんで子供のお守りをしなきゃいけないのよ」
「特別訓練って聞いてたし!」
菊沢と石野が不満そうな声を上げる。春名寺は頷く。
「まあ、お前らが文句を言うのは想定内だ……とはいえ、こちらも無理を言って、手伝いをお願いしている。とりあえず働いてみろ、色々な気付きがあるかもしれんぞ」
「本当に?」
「無いかもしれん……」
「どっちだし!」
「要はお前ら次第ってやつだな。とにかく、そろそろ子供たちが登園し始めるぞ。ほれ、先生の言うことを聞いてキビキビ動け」
春名寺がポンポンと両手を叩いて、皆に動くよう促す。
「さ~て、中盤6人はどうかな?」
春名寺は笑みを浮かべる。担当の先生から説明を受けた6人は続々と登園してきた園児たちを迎え入れる。園児全員が揃うまでは自由時間であるため、部員たちは園児の相手をする。
「はっ⁉ お馬さんになれ⁉ な、なんでそんなことを……仕方がないわね、特別よ」
菊沢が四つん這いになって園児を背中に乗せる。石野がそれを見て笑う。
「はははっ、ヒカルの姿勢超ウケる!」
「超ウケない……」
不愉快そうな菊沢の表情をスマホで撮影する石野。
「良いの撮れた♪ ヴァネに送っちゃおうかな」
「やめて……」
「ん? なに? えっ、私も馬になれって⁉ い、いや、ちょっと、無理矢理乗るなし!」
石野も園児たちにせがまれて、お馬さんとなり、二人でレースをする羽目となる。
「ちょっと、背中をバンバン叩かないでよ!」
「髪の毛引っ張るなし!」
抗議する菊沢たちだったが、園児たちはお構いなしで、二人、もとい二頭の反応を見て、キャッキャッと騒いでいる。
「お~どうだ、今の心境は?」
春名寺がしゃがみ込んで、二人に尋ねる。二人はため息交じりに答える。
「正直ブチキレそうよ……」
「以下同文だし……」
「……悪い流れってのは必ずあるもんだ、その辺りをどう乗り切って良い流れを引き戻すか、心を上手くコントロールすることが大事だぜ」
「「!」」
春名寺の言葉に石野が微笑み、声を上げる。
「ヒヒ~ン! ナルミンスキーが良いスタートを切ったぞ!」
「!」
石野が園児を乗せ、勢い良く走り出す。周りの園児たちも大喜びである。
「ヒ、ヒヒ~ン、トキノヒカルが負けじと追い上げる!」
菊沢も半ばやけくそになって走り出す。二頭のマッチレースに園児たちは大興奮である。
「案外ノリが良いねえ。これは余計な心配だったか? さて、他の連中はどうかな……?」
春名寺は立ち上がり、周囲を見回す。
「じゃあ、皆でお歌を歌おうか。お姉さんがピアノを弾いてあげるよ! なにか、リクエストあるかな? はい、君! えっ、『大地讃頌』⁉ 皆歌えるの? し、渋いところいくね……まあ、いいや、さんはい!」
桜庭の伴奏でピアノの周りの園児たちが歌い出す。桜庭はピアノを弾きながら、離れた位置に恥ずかしそうに立っている何名かの園児を見つける。
「お嬢さん方、せっかくだから、もうちょっと近くに行こうか」
松内が髪を軽くかき上げながら、園児たちの手を引いて、ピアノの近くへとさりげなく誘導する。桜庭が笑顔を浮かべる。
「気が利くじゃないの、マッチ!」
「はて、何のことやら……」
松内はウィンクしながら口笛を吹く。その様子を見て、春名寺は満足そうに頷く。
「そうだ……相手の考えていることを理解し、常にフォローしあうことが大切だ」
春名寺は園庭の方に目を向ける。
「さて、あの2人は……?」
「よ~し! お姉さんたちからボールさ取った子の勝ちだよ!」
鈴森が手を挙げて、園児たちに呼び掛ける。園児たちも元気よく答える。
「それじゃあ、行ぐよ~♪ はい、桃ちゃん!」
「ナイスパス!」
鈴森が蹴ったボールを丸井が胸で柔らかくトラップする。園児たちが丸井に群がる。
「おおっと! はい、エマちゃん!」
「ナイス!」
十数人の園児が群がる混戦の中においても、丸井と鈴森はボールコントロールをミスすることなく、終始落ち着いて、絶妙なパス交換を見せる。それを見て、春名寺が声を掛ける。
「二人とも! ダイレクトかもしくはワンタッチ以内で相手にボールを返してみろ!」
「ええっ⁉ わ、分かりました!」
春名寺の指示に丸井たちは一瞬戸惑ったものの、それでも即座に順応し、殺到する園児たちにボールを奪われることなく、巧みなパス交換を続けてみせる。
「ポニテはまだチームに合流して間もないと聞いていたが、大したものだな、もうお団子と息が合っていやがる……やはり中核を担うのはアイツらになるか……」
春名寺は顎に手をやって静かに呟く。
「はあ、はあ……よし、お姉さんたちの勝ち~♪ え、つ、続き? ま、また後でね……少し休ませてけさいん……」
しゃがみ込む鈴森の隣に丸井が座る。
「エマちゃん、楽しそうだね」
「ああ、小せえ子は好きだから……」
「そうなんだ……って、お団子引っ張らないで! それはボールじゃないよ~」
困り顔の丸井を見て、園児たちが大いに笑う。そこに春名寺が話しかける。
「なかなか楽しんでいるようだな」
「あ、監督……楽しんでいるというか、振り回されているというか……」
「子供たちの予想も付かない行動はこちらの対応力が試される……ましてやこの人数だ、一人での対応は難しい……精々味方同士の連携を高めてくれよ」
「は、はい……」
丸井の答えに頷き、春名寺は園を後にする。
春名寺が部屋に入り声を掛ける。そこには仙台和泉サッカー部の面々の内六名が体育座りをして並んでいる。
「おはようございます!」
皆が立ち上がり、春名寺に挨拶する。春名寺は軽く手を挙げて応える。
「着替えは済んでいるみてえだな」
「着替えっていうか、身に着けただけっていうか……」
桜庭が苦笑する。菊沢が尋ねる。
「何これ?」
「エプロンだよ」
「それは分かるわよ、ウチが聞きたいのはどうしてこの恰好をする必要があるのかってこと」
「気になるか?」
「当たり前でしょ」
「まあ、短刀直入に言うとだな……お前らにはこの三日間、この『杜の都キンダーガーデン』での仕事の手伝いをしてもらう」
「「「ええっ⁉」」」
「……なんで子供のお守りをしなきゃいけないのよ」
「特別訓練って聞いてたし!」
菊沢と石野が不満そうな声を上げる。春名寺は頷く。
「まあ、お前らが文句を言うのは想定内だ……とはいえ、こちらも無理を言って、手伝いをお願いしている。とりあえず働いてみろ、色々な気付きがあるかもしれんぞ」
「本当に?」
「無いかもしれん……」
「どっちだし!」
「要はお前ら次第ってやつだな。とにかく、そろそろ子供たちが登園し始めるぞ。ほれ、先生の言うことを聞いてキビキビ動け」
春名寺がポンポンと両手を叩いて、皆に動くよう促す。
「さ~て、中盤6人はどうかな?」
春名寺は笑みを浮かべる。担当の先生から説明を受けた6人は続々と登園してきた園児たちを迎え入れる。園児全員が揃うまでは自由時間であるため、部員たちは園児の相手をする。
「はっ⁉ お馬さんになれ⁉ な、なんでそんなことを……仕方がないわね、特別よ」
菊沢が四つん這いになって園児を背中に乗せる。石野がそれを見て笑う。
「はははっ、ヒカルの姿勢超ウケる!」
「超ウケない……」
不愉快そうな菊沢の表情をスマホで撮影する石野。
「良いの撮れた♪ ヴァネに送っちゃおうかな」
「やめて……」
「ん? なに? えっ、私も馬になれって⁉ い、いや、ちょっと、無理矢理乗るなし!」
石野も園児たちにせがまれて、お馬さんとなり、二人でレースをする羽目となる。
「ちょっと、背中をバンバン叩かないでよ!」
「髪の毛引っ張るなし!」
抗議する菊沢たちだったが、園児たちはお構いなしで、二人、もとい二頭の反応を見て、キャッキャッと騒いでいる。
「お~どうだ、今の心境は?」
春名寺がしゃがみ込んで、二人に尋ねる。二人はため息交じりに答える。
「正直ブチキレそうよ……」
「以下同文だし……」
「……悪い流れってのは必ずあるもんだ、その辺りをどう乗り切って良い流れを引き戻すか、心を上手くコントロールすることが大事だぜ」
「「!」」
春名寺の言葉に石野が微笑み、声を上げる。
「ヒヒ~ン! ナルミンスキーが良いスタートを切ったぞ!」
「!」
石野が園児を乗せ、勢い良く走り出す。周りの園児たちも大喜びである。
「ヒ、ヒヒ~ン、トキノヒカルが負けじと追い上げる!」
菊沢も半ばやけくそになって走り出す。二頭のマッチレースに園児たちは大興奮である。
「案外ノリが良いねえ。これは余計な心配だったか? さて、他の連中はどうかな……?」
春名寺は立ち上がり、周囲を見回す。
「じゃあ、皆でお歌を歌おうか。お姉さんがピアノを弾いてあげるよ! なにか、リクエストあるかな? はい、君! えっ、『大地讃頌』⁉ 皆歌えるの? し、渋いところいくね……まあ、いいや、さんはい!」
桜庭の伴奏でピアノの周りの園児たちが歌い出す。桜庭はピアノを弾きながら、離れた位置に恥ずかしそうに立っている何名かの園児を見つける。
「お嬢さん方、せっかくだから、もうちょっと近くに行こうか」
松内が髪を軽くかき上げながら、園児たちの手を引いて、ピアノの近くへとさりげなく誘導する。桜庭が笑顔を浮かべる。
「気が利くじゃないの、マッチ!」
「はて、何のことやら……」
松内はウィンクしながら口笛を吹く。その様子を見て、春名寺は満足そうに頷く。
「そうだ……相手の考えていることを理解し、常にフォローしあうことが大切だ」
春名寺は園庭の方に目を向ける。
「さて、あの2人は……?」
「よ~し! お姉さんたちからボールさ取った子の勝ちだよ!」
鈴森が手を挙げて、園児たちに呼び掛ける。園児たちも元気よく答える。
「それじゃあ、行ぐよ~♪ はい、桃ちゃん!」
「ナイスパス!」
鈴森が蹴ったボールを丸井が胸で柔らかくトラップする。園児たちが丸井に群がる。
「おおっと! はい、エマちゃん!」
「ナイス!」
十数人の園児が群がる混戦の中においても、丸井と鈴森はボールコントロールをミスすることなく、終始落ち着いて、絶妙なパス交換を見せる。それを見て、春名寺が声を掛ける。
「二人とも! ダイレクトかもしくはワンタッチ以内で相手にボールを返してみろ!」
「ええっ⁉ わ、分かりました!」
春名寺の指示に丸井たちは一瞬戸惑ったものの、それでも即座に順応し、殺到する園児たちにボールを奪われることなく、巧みなパス交換を続けてみせる。
「ポニテはまだチームに合流して間もないと聞いていたが、大したものだな、もうお団子と息が合っていやがる……やはり中核を担うのはアイツらになるか……」
春名寺は顎に手をやって静かに呟く。
「はあ、はあ……よし、お姉さんたちの勝ち~♪ え、つ、続き? ま、また後でね……少し休ませてけさいん……」
しゃがみ込む鈴森の隣に丸井が座る。
「エマちゃん、楽しそうだね」
「ああ、小せえ子は好きだから……」
「そうなんだ……って、お団子引っ張らないで! それはボールじゃないよ~」
困り顔の丸井を見て、園児たちが大いに笑う。そこに春名寺が話しかける。
「なかなか楽しんでいるようだな」
「あ、監督……楽しんでいるというか、振り回されているというか……」
「子供たちの予想も付かない行動はこちらの対応力が試される……ましてやこの人数だ、一人での対応は難しい……精々味方同士の連携を高めてくれよ」
「は、はい……」
丸井の答えに頷き、春名寺は園を後にする。