第12話(2) 反省会

文字数 2,578文字

 翌日視聴覚室にて、ミーティングが開かれました。

「全員揃いましたね。それでは改めて……大会お疲れさまでした。あまり気乗りはしないとは思いますが、敗因分析を行いましょうか、それではマネージャー、お願いします」

 キャプテンに促され、マネージャーの小嶋美花(こじまみか)さんが皆の前に進み出てきました。

「それでは……試合の映像を見ながら、私なりに分析した敗因について説明させて頂きます」

 プロジェクターに映像が映し出されて、美花さんが話を始めました。

「スコアで見ると完敗でしたが……内容的に見ると、そこまで悲観するほどのことでは無いかとは思います。特に個人技術に関しては大きく見劣りするものではありませんでした。例えば、菊沢さんのキック精度の高さは十分相手に脅威を与えていたと思いますし、姫藤さんの鋭いドリブルへの対応には少々手を焼いていました」

「それでも少々でしょ……まだまだ余裕のある感じだったわ……」

 私の右隣に座る聖良ちゃんが頬杖をつきながら小さく呟いた。

「……また、守備面でも神不知火さんは相手に単独での突破を許しませんでした。谷尾さんもフィジカル面で相手のFW陣に決して競り負けていませんでした」

「まあ、アタシがそこで負けてたらナ、話にならないヨ」

 ヴァネさんが腕を組んで大きく頷きました。その隣に座る、サイドテールが特徴的な石野成実(いしのなるみ)さんが悪戯っぽく呟きます。

「でも何度か裏を取られていたよね~ありゃマズいんじゃないの?」

「ぬっ……」

「……相手のコンビネーションを上手く使った攻撃に対応出来ていなかったわね。オンミョウとの連携をもっと高めないと」

 二人の後ろに座る、輝さんが皆と少し離れた所に席を取った神不知火真理(かみしらぬいまこと)さんにも聞こえるように話します。

「……令正さんの攻撃パターンは実に多彩でした。流石は強豪校、己の力不足を痛感しました」

 輝さんからオンミョウと呼ばれた現代まで続く陰陽師の家系、真理さんが静かに反省の言葉を口にしました。

「でも、シラヌイちゃん凄いよー1対1の局面ならほぼ負けなしだったんじゃないのー?」

「ああ、試合を追うごとに安定感を増していたな、後ろから見ていて頼もしかったぞ」

「いえ、まだまだ未熟です、より精進します……」

 池田さんと永江さんの賞賛に真理さんは軽く頭を下げました。

「……個人戦術では然程劣っていなかったとしても、結果は敗戦……つまり組織として相手を下回っていたことになりますわね」

 私たちの前に座る、国内有数のコンツェルン、伊達仁グループの御令嬢、伊達仁健(だてにすこやか)さんの指摘に、美花さんが頷きます。

「そうですね、チーム戦術の成熟度合が違いました。その辺りが勝敗を分けましたね」

「最近良いこと言うようになったじゃねーか、スコッパ。何か悪いもんでも食ったか?」

「だ・か・ら! わたくしは良いことしか言いませんわ!」

 健さんが振り向いて、私の左隣に座る竜乃ちゃんのからかいの言葉に反応します。竜乃ちゃんは人に対して時折妙なあだ名を付ける癖があります。

「それとやはり決定力の差……お互いが作った決定機、チャンスの数は実はそれ程差がありません。しかし付いた得点差は3点……相手は好機を確実に決めきる力を持っていました」

「フォワードのウチが不甲斐ないからや……申し訳ない」

 美花さんの言葉に、秋魚さんが項を垂れます。赤い大きなアフロヘアーが揺れます。

「私も終盤のチャンスを決めていれば……」

「僕もシュートを打てる場面で一瞬躊躇してしまった、反省すべきところだね」

「自分はもっと考えて走るべきでした……」

 揃って試合終盤で投入された、趙莉沙(ちょうりさ)ちゃんと松内千尋(まつうちちひろ)さん、流ちゃんもそれぞれ悔しそうに呟きます。

「いや……一番悪いのはアタシだ……」

「竜乃ちゃん、今は誰が一番とかそういう話じゃなくて……」

「いいや、悪い! だってまともにシュートすら撃てなかったんだぜ! ただの一本も!」

 私の宥める言葉に対し、竜乃ちゃんが声を荒げます。

「少し落ち着きなさい……アンタの出来は想定内よ」

「想定内? どういうこったよ、カルっち⁉」

 輝さんの言葉に竜乃ちゃんが反応しました。

「……サッカーを始めて約二か月半のアンタに強豪校がそれなりの対応をとってきたら簡単に封じ込められるってことよ」

「確かにしっかり対策をとってきたように思えた……」

「なんだかんだで3試合連続ゴールだからね、そりゃ警戒されるよね~」

 脇中史代(わきなかふみよ)さんと桜庭さんが輝さんの言葉に同調した。

「……っ! それでもよ! やっぱり情けないぜ!」

「別に卑下することは無いわ。むしろ強豪校にそこまでさせたことを誇りに思いなさい」

「おっ、今ひょっとして竜乃のこと褒めたんじゃネ?」

「アメとムチってやつ~?」

「……ちょっと黙ってなさい」

 輝さんが茶々を入れてきたヴァネさんと成実さんを睨みました。睨まれた二人は苦笑しながら首をすぼめました。

「……でもよ~」

「輝さんの言う通りですよ、龍波さん。その悔しさを次に生かして下さい」

 キャプテンが優しく竜乃ちゃんに話しかけます。竜乃ちゃんは首を強く横に振ります。

「次って言ってもよ……もうこのチームでサッカーは出来ないんだろ⁉ キャプテンやアッキーナは辞めちまうんだろ⁉」

 竜乃ちゃんの叫びに一瞬キョトンとした顔をしたキャプテンはこう答えました。

「え? 辞めませんよ?」

「え?」

「秋魚、辞めるんですか?」

「いやいや辞めへんで」

「三人は?」

「辞めるつもりはないが」

「左に同じー」

「辞めないよ」

「……ということですが?」

 キャプテンが再び視線を竜乃ちゃんに戻します。

「い、いやだってよ、夏の大会が終わったら引退するもんじゃねえのか?」

 戸惑う竜乃ちゃんの様子を見て、キャプテンがフッと笑います。

「まあ、人によっては、あるいは競技によってはそういう人もいますが……サッカーの場合はなんといっても冬の選手権があるじゃないですか!」

「ふ、冬の?」

「……それとも私たちが引退した方が良いですか?」

 キャプテンが悲しそうに皆に語りかけます。私たちは首を横に振ります。キャプテンはその反応を見て、満足そうに頷き、話を続けます。

「では、気が滅入る敗因分析はこの辺にして……未来のある話をしましょうか?」

「未来のある話……?」

「そうです。まず戦力を……増強しちゃいましょう♪」

「「「え、えええええ⁉」」」
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