第21話(2) 対令正高校戦前半戦~中盤~

文字数 3,356文字

「やっと来た♪」

 三角がボールをキープして、すぐに前を向く。対面の池田がすぐに体を寄せる。

「!」

「ほいっと♪」

 三角が池田をワンステップであっさりと躱し、縦に抜け出す。池田が驚きながら追いかける。三角はその前にボールを中央に送る。鋭く速いボールが蹴り込まれるが、神不知火が足を伸ばしてクリアする。

「……思ったより速いなー」

 池田が驚き混じりで三角の背中を見つめる。



13分…令正、こぼれ球を合田が米原に繋ぎ、米原が低いパスを左サイドに送る。パスを受けた三角が縦に抜けると見せて、斜め前を走る椎名にパスする。椎名がダイレクトで落とす。内側に切れ込んだ三角が右足でミドルシュートを狙うも谷尾にブロックされる。

14分…令正、相手のクリアボールを寒竹が跳ね返す。合田が米原に繋ぐと、米原が大和とワンツーパスで中央に上がると、すぐさま左サイドにボールを展開。三度、三角がボールを受ける。縦に抜けるのを池田が警戒。内に切れ込むと見せかけて、ボールをふんわりと浮かせ、ペナルティーエリア内に送る。走り込んだ武蔵野がボレーシュートを放つが、永江が弾いてコーナーキックに逃れる。

15分…令正、左サイドからコーナーキック。キッカーをつとめる椎名がショートコーナーを選択。パスを受けた三角がボールを巧みに転がし、体を寄せに来た池田の股を抜いてかわす。左足でクロスを上げると見せかけて、切りかえし、右足でカーブをかけたシュートを狙うが、やや蹴り方が甘く、ゴロとなったシュートはキーパー永江の正面を突く。



「くっ、右足じゃなきゃな~」

 三角は軽く天を仰ぐ。ベンチから春名寺が飛び出して指示を送る。

「姫藤、18番につけ! 二人で見ろ!」

「は、はい!」

 姫藤が戸惑いながらもポジションをやや下げる。小嶋が声をかける。

「か、監督……」

「ダーイケの対応は決して悪くはない……ただ、あの三角って一年は思った以上だ……」

「姫藤さんを守備にまわすと、こちらの攻撃力が削がれます……」

「やむを得ない。まずは流れを食い止めることが重要だ」

「成実ちゃ……石野さんに対応させた方が良いのでは?」

「それも考えたが、ナルーミには中央で椎名を任せている。サイドに釣り出されると、中が空いてしまう……そこを椎名だけじゃなく米原に使われるとマズい……」

 春名寺は渋い表情を浮かべる。

                  ⚽

「はあ……はあ……買ってきましたよ!」

 簡易的に設置されたスタンドの一角に座るのは、先に試合を終わらせた、東京の三獅子高校の面々である。一年の馬駆が買ってきたペットボトルを先輩の伊東に手渡す。

「ありがとう」

「だいぶかかったな」

「宿舎に帰ったのかと思ったぞ」

 甘粕と城が笑いながら、馬駆から飲み物をもらう。

「この近くの自販機に紅茶全然売ってないんだからしょうがないっしょ! ヴィッキーパイセン、無難にスポドリとかにして下さいよ!」

「私、試合後は紅茶と決めていますの」

「なんすか、その謎のこだわりは⁉ 結構走ったっすよ!」

 優雅に紅茶を飲む伊東に馬駆が抗議する。

「……良いクールダウンになったでしょう?」

「ったく! 試合は?」

「今のところ0対0だな」

「予想を覆し、仙台和泉が健闘しているな」

 馬駆の問いに、甘粕と城が答える。伊東が紅茶を脇に置いて呟く。

「先程、二人には言ったけど……このみ、令正の18番、よく見ておいた方が良いわよ」

「え? なんでです?」

「貴女たちと同学年だからよ。なかなか面白い選手だわ」

「へえ……令正は……エンジ色の方か」

 馬駆はピッチを眺める。

                  ⚽

「悪いねー不甲斐なくてー」

「いえ……」

 すまなそうにする池田に対し、姫藤は気にするなという風に手を振る。

「見ての通り、迂闊には飛び込めないんだ。何か同じドリブラータイプとして気づいたところあるかなー?」

「今のところはまだ……ただ、かなり良いリズムでプレーさせてしまっているので、球際をもっと厳しく行っても良いと思います」

 池田の問いに姫藤は冷静に答える。

「厳しくかー」

「先輩は基本縦への抜け出しを警戒して下さい。そこまでのスピードではないので、完全に振り切られなければ、十分追い付けると思います」

「中にカットインしてきたらー?」

「私と先輩で挟み込むようにしましょう。理想を言えば前を向かせないことですが……」

「容易じゃないねー」

「とにかく、すぐにあの子のボールタッチの癖を見抜きます。そうすればボールの奪い所も分かってくるはずです」

「了解―」

 そしてまた、サイドライン際に位置する三角の方にボールが転がってきた。池田がすぐに体を当てると、三角はバランスを崩し、ボールを失いかけるが、なんとかキープする。

「うおっ!」

 三角はやや驚きながら、ゴールの方に背を向けた形でボールを保持する。同じサイドの長沢が寄ってくる。バックパスを考えた三角だが、そのコースを姫藤が遮断する。

(縦の選択肢は消えたー)

(中にカットインするはず! そこを奪う!)

 池田と姫藤の読み通り、バックパスを諦めた三角は中に切れ込む姿勢を見せる。

(よし、取るー)

(ここで止めれば、また試合の流れを引き戻せる!)

 池田と姫藤が挟み込み、三角は体勢を崩す。

「くっ!」

(よし! 奪える……⁉)

 姫藤が驚く。三角の足元にボールが無かったからである。ボールはライン際に残ったままである。三角がニヤリと笑う。

「かかった♪」

 三角がすぐにターンし、ボールを前方に蹴り出す。池田がスライディングのように足を伸ばすが、それも計算に入れていたのか、ボールを絶妙に浮かせており、池田のボールカットはならなかった。逆に体勢を崩した池田を振り切って、三角はサイドライン際を抜け出す。

「ぐー」

「よしっ! おっと?」

 ゴール前に切れ込もうとした三角に姫藤が追い付く。1対1の形である。

(同じ一年だけど、間違いなく全国クラスの選手! 常磐野の朝日奈さんとはまた違ったタイプのドリブラーだけど……どうくるか? 私より小柄だけど、ドリブルの体勢は低いわけではない……足元に注意すれば!)

「……」

 三角は姫藤と対面し、ひと呼吸置く。体勢を立て直した池田が戻ってきたことを姫藤は視界の中に確認する。

(これでバックパスや、やや後方にボールを持ち出すという選択肢は無くなった! より縦に持って行ってクロスか、私をかわしにくるか! さあ、どちらか!)

「!」

「なっ⁉」

 姫藤は驚いた。三角が池田と自分の間を割って入ろうとしたからである。

(流石にちょっと強引―)

(奪える! ⁉)

 三角はボールを両足に挟んで、軽く飛んでみせた。池田と姫藤の伸ばした足をすり抜け、中に切れ込むことに成功した。三角は小さくバウンドしたボールを右足で蹴ってシュートした。これも利き足では無いためか、コントロールに欠け、ゴールから大きく外れた。

「う~ん、右足、もっと練習しないとな~」

 再度天を仰ぐ三角を見ながら、池田と姫藤は唖然としていた。

「これは手を焼くねー」

「ぐっ……」

「監督!」

 丸井がすぐさまベンチの方に駆け寄り、春名寺と二言三言、言葉を交わす。春名寺は驚いた様子を見せたが頷く。丸井がすぐさま、姫藤のところに走り寄ってくる。

「聖良ちゃん! あのね……」

「ええっ⁉」

「とりあえずの応急処置みたいなものだよ」

「わ、分かったわ!」

                  ⚽

 スタンドで見ていた三獅子高校の面々が驚く。

「10番、丸井が右サイドに⁉ 三角に対応させるのか……」

「照美、あの二人は確か……」

「え、ええ、同じ中学出身です」

「それは興味深いマッチアップね……桃色の悪魔さんのお手並み拝見といきましょうか……」

 城の答えに伊東が笑みを浮かべながら、紅茶を口に運ぶ。

「なあ花音、あんなに紅茶がぶがぶ飲んでいたら、絶対良い所でトイレ行きたくならねえかな?」

 馬駆が小声で甘粕に囁く。

「お、お前は試合に集中しろ!」

「……聞こえているわよ、二人とも」

「うおっ⁉」

「わ、私は何も⁉」

                  ⚽

「ふ~ん、桃ちゃんがカタリナのマークか……言っておくけど中学の時とは違うよ?」

「……それは分かっているよ」

 カタリナちゃんの言葉に私は静かに頷きました。
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