第24話(1) 守備のポジションに関して

文字数 2,283文字

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「はい!」

「こっち!」

 ミーティングの翌日、練習にも一層熱がこもるのを、春名寺は笑顔を浮かべて見つめる。

「ふふっ、皆、どうしてなかなか気合入っているじゃねえか……」

「フォーメーションを変更するということは先発メンバーの変更もあり得るわけですから」

「え? そうなの?」

 小嶋の言葉に九十九が目を丸くする。春名寺は苦笑する。

「いやいや、ジャーマネ、アタシは取り入れるって言っただけだせ? イメージとしてはオプションを増やす感じだ」

「それでもアピールの良いチャンスにはなると思います」

「まあ、それはそうだな……」

「実際、3‐5‐2ならば、誰が先発ですか? やはり令正戦がベースに?」

「ま、現状あれがベストに近いだろうな」

「ならば……」

 小嶋が手に持っていたボードのマグネットを動かす。九十九が覗き込む。

「どうなるの?」

「ヴァネちゃん……谷尾さんを右のセンターバックに、神不知火さんを左のセンターバックに、鈴森さんを中央に置く布陣です」

「身長も高い3人だ。スピードも水準以上。なにより全員、足元の技術を備えている……」

「攻撃のビルドアップ……組み立てを考える上でも極めて理想的な並びですね」

「そうだろ?」

「攻撃の際は、鈴森さんに少し高い位置を取らせることも可能ですね」

「ああ、低い位置からフィードを蹴らせるのも良いし、少し高い位置でボールを散らせるのも面白い。相手にとっては、ボールの取りどころが絞りづらくなるだろう」

「その前のダブルボランチが成実ちゃん……石野さんと丸井さんですね」

「そうだな。運動量のある石野と展開力のある丸井、補完性があるコンビだ」

「両者とも守備のスペシャリストというわけではありませんが……」

「その辺はセンスで補ってくれるだろうと思っているぜ」

「確かにどちらもポジショニングの良さを守備面でも上手く活かせています」

 春名寺の言葉に小嶋が頷く。

「不安要素がないわけではないが……」

「不安要素?」

 小嶋が首を傾げる。

「どっちも体格的に小柄な部類に入るんだよな……」

「そういうときには桜庭先輩が必要になってくるんじゃないですか?」

 小嶋が外ハネのショートボブと一重まぶたが印象的な長身の選手を指し示す。

「ああ、桜庭美来(さくらばみらい)、これまで守備固め的に起用していることが多いが、三年生がこのままベンチ要員で良しってわけじゃないよな……」

 春名寺が桜庭に視線を向ける。小嶋が話題を変える。

「3‐5‐2ならば両アウトサイド……ウィングバックも重要になってきます」

「まあ、よほどのことがなければあの二人だ。右はダーイケ……池田弥凪(いけだやなぎ)

 春名寺が短髪を逆立てて、大きめのヘアバンドを付けている選手に視線を向ける。

「左は緑川キャプテンと……」

「ああ、緑川美智(みどりかわみさと)だ」

 春名寺がショートボブで、出したおでこが印象的な選手に向けて顎をしゃくる。

「この二人がファーストチョイスですね」

「ジャーマネはどう思うよ?」

「ええ、守備力はもちろんのこと、攻撃力も水準以上なお二人なので……異論はありません」

「ふむ……」

「ただ……」

「ただ?」

「正直、バックアップに不安が残ります」

「それなんだよな……」

 春名寺が苦笑する。小嶋が問う。

「どのようにお考えですか?」

「右は石野だな。運動量ももちろんのこと、ポジショニングセンスも良いから、案外問題なくこなしてくれそうだ」

「空いたボランチに桜庭先輩を起用すると……」

「そういうことになるな」

「では、左サイドは?」

「4‐4‐2ならオンミョウ……左利きの神不知火に任せるんだが……」

「確かに神不知火さんは昨年も左サイドバックでプレーしていました」

「ウィングバックとなると未知数の部分が多いな」

「攻撃のタスクもある程度担ってもらうわけですからね」

「まあ、オンミョウならすんなりこなせそうではあるがな……」

 春名寺が笑う。小嶋が眼鏡の蔓を触りながら呟く。

「……やはり両サイドの強化は急務ですね」

「まあ、その辺は焦っても仕方がねえ……いや、時間はないんだが」

「これからの練習試合などの中で、最適解を見つけていくしかありませんね」

「そうなるな」

「ゴールキーパーなんですが……」

「ファーストチョイスは副キャプだ。永江奈和(ながえなわ)

 春名寺が短髪で細目で長身の選手に向けて顎をしゃくる。

「……やはりそうなりますよね」

「経験がものを言うポジションだからな」

「永江先輩は県選抜候補にも名を連ねていますからね、実力的にも申し分ありません」

「真面目だしね、永江ちゃん」

 九十九が口を挟む。小嶋が笑って頷く。

「ええ、それに周囲からの信頼も厚いです」

「……キャプテンが腹黒い分、ああいう人格者がいるのは助かる」

「腹黒い……確かに……」

 春名寺の言葉に九十九が頷く。小嶋が慌てる。

「へ、変なこと言わないで下さい!」

「冗談だよ」

「脇中さんにもキーパー練習を命じていましたね?」

「ああ、ワッキー……脇中史代(わきなかふみよ)、中学まではキーパーもやっていたって言うからな」

 春名寺はマッシュルームカットが特徴的なチーム最長身の選手に視線を向ける。

「基本はディフェンダーでの起用がメインなんですよね?」

「それは本人にも伝えてある。一応の保険だ……」

「保険……」

「副キャプに万が一があった時、あいつだけでは正直不安だからな……」

「お~ほっほっほ! どんどんシュートを撃たせてきなさい!」

 ゴール前で伊達仁が威勢の良い声を上げる。小嶋は苦笑する。

「セ、センスの良さは感じますが……」

「やる気はあるのは結構なんだが、お嬢様はやや気まぐれなところがあるからな……」

 春名寺が肩をすくめる。
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