第19話(1) 夏、海、水着
文字数 2,382文字
「イエーイ! 海だ~!」
黒の競泳用水着に身を包んだ竜乃ちゃんが、勢い良く海に走って行きます。
「ちょっと、竜乃! 準備運動ちゃんとしなさいよ!」
ピンクのビキニを着た聖良ちゃんが声を掛けます。竜乃ちゃんが唇を尖らせます。
「んだよ、うるせえなあ、ピカ子は……」
「足が攣ったりしたら危ないでしょ!」
「それより感電する方が恐ろしいぜ……」
「放電なんかしないわよ! ってか、出来ないわよ!」
私は竜乃ちゃんと聖良ちゃんの微笑ましいやり取りを見つめます。
「桃ちゃん、めんこい水着だね」
「あ、ありがとう、エマちゃん」
エマちゃんは私のチェック柄のビキニを誉めてくれました。
「というか、エマちゃん、スタイル良いね! 良く似合っているよ!」
「そ、そうかな……海さ来るのはほとんど初めてだから、どんな水着さ着たら良いのか迷ったんだけども……」
「とっても素敵だと思う!」
「あ、ありがとう……」
エマちゃんは白いワンピースの水着を着ています。シンプルですが、それがかえって彼女のスラリとした長い手足が良く引き立たせていると思います。
「竜乃ちゃんもそうだけど……出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる……なんとも羨ましい限り……」
「! いんやだ、もう! 桃ちゃん、どこさ見てんの⁉」
エマちゃんが私の舐めまわすような視線から逃れるように体を捻ります。どうも心の声が出てしまっていたようです。
「いやいや、これは失敬」
「もう!」
「よっしゃ! 突撃だ~!」
「ちょっと、アタシの浮き輪持っていかないでよ!」
海に飛び込もうとする竜乃ちゃんを聖良ちゃんが追っかけていきます。
「欲しけりゃ取り返してみな!」
「子供か!」
「子供になったもん勝ちだぜ~ひゃっほう!」
「ふふっ、楽しそうだね、あの二人」
「浮き輪は返してあげた方が良いと思うけんども……」
「ちょっと、そこのお二人さん!」
私たちが振り返ると、そこには黒のビキニを着て、まるでリゾートホテルの一室と見まごう程の豪華絢爛なビーチマットにうつ伏せに寝そべる健さんの姿がありました。
「す、すご……」
「ど、どうやってここまで持って来たんだべ、あれ……?」
「どちらか、背中にオイルを塗って下さらないかしら?」
オイルの瓶を片手でヒラヒラとさせながら、健さんが私たちに問います。
「あれ? いつものお付きの黒子さんたちはどうしたの?」
「皆夏季休業中ですわ」
「へえ、休みがあるなんて、意外とホワイト企業体質なんだね」
「……桃さん、わたくしのことをなんだと思っていましたの?」
「オ、オイル塗ってあげるよ」
私はオイルの瓶を受け取って、健さんの側にしゃがみ込みました。
「それじゃあ、お願いしますわ……」
健さんは水着のトップスを外し、背中を露わにしました。そのあまりにも綺麗な背中に私は思わず息を呑みます。
「し、失礼します……」
私はオイルをたっぷりと掌に垂らして、それを両手で擦り合わせてオイルを掌一杯に行き渡らせてから、健さんの背中に塗っていきます。
「うっ、うん……」
健さんの吐息が漏れます。正直言って、人の背中に塗ったことは初めての経験だったのですが、とりあえずやり方は間違ってはいないようです。それにしても綺麗かつ触り心地の良い肌です。塗っている私の方が、気持ちよくなってきます。私はこの感触をしっかりと噛み締めようと目を閉じます。
「きゃあ⁉」
「⁉」
健さんが急に悲鳴を上げます。私は目を開けます。
「ど、どうしたの⁉」
「そ、それはこっちの台詞ですわ! ど、どこを触っていますの⁉」
「どこって……」
私が目をやると、驚きました。私の手が健さんの脇から続く膨らみの部分をガッシリと掴んでいたのです。なんということでしょう。
「う、うわぁ!」
私は両手を離します。
「驚くのはこっちですわ!」
「ど、どうしてこんなことに……」
「どうしてもなにもあなたのさじ加減でしょう!」
「ご、ごめん、あまりに気持ち良くて……気を付けるね」
私は両手をわしゃわしゃとしながら謝ります。
「その手つきがもうなんというかアレですわ! エムスさんと代わって下さる⁉」
「えっ?」
「エマちゃん、頼むね……」
「ええっ⁉」
私はエマちゃんにオイルの瓶を渡して、その場を離れます。すると、近くのビーチパラソルの下で派手な金色のビキニを着て、チェアーに優雅に寝そべる春名寺恋監督の姿がありました。そこにTシャツに短パン姿のキャプテンが近づいて、話しかけています。私は思わず聞き耳を立ててしまいました。
「監督、よろしいのですか?」
「ん? 何が?」
監督が掛けていたサングラスをずらしてキャプテンの方に目をやります。
「合宿前日だというのに、こうして遊んでいるということです」
「せっかく海が近くにある場所での合宿なんだ、遊ばない方が罰が当たるんじゃねえか? どうせ、合宿後はへとへとに疲れ切って、早く家に帰りたくなるはずだぜ?」
「……この合宿は常磐野学園が毎年地元の方に招待されている合宿です。常磐野と県内四強の内の一校、そして関東、関西から一校ずつ強豪校を呼んで行っています」
「だが、今回は関西の強豪校の都合がつかず、代わりに仙台和泉が呼ばれたと……」
「そうです。ハイレベルな合宿になるはずです。このように気を抜いていては……」
「レベル差なんてものは明日になったら嫌でも実感するだろうさ。わざわざ言って聞かせてテンションを下げたり、変に緊張させることはない。今日は長い人生で三年しかない高校生の夏を素直に楽しめよ。何事もメリハリって奴だ、分かるか?」
「はあ……分かりました」
キャプテンはその場を離れます。監督はまたサングラスを掛けます。
「きゃあ! どこを触っていますの⁉」
「ご、ごめん! 可愛いお尻だなと思ってつい……」
「素直!」
健さんとエマちゃんのやり取りが聞こえてきます。楽しんでいるようです。
黒の競泳用水着に身を包んだ竜乃ちゃんが、勢い良く海に走って行きます。
「ちょっと、竜乃! 準備運動ちゃんとしなさいよ!」
ピンクのビキニを着た聖良ちゃんが声を掛けます。竜乃ちゃんが唇を尖らせます。
「んだよ、うるせえなあ、ピカ子は……」
「足が攣ったりしたら危ないでしょ!」
「それより感電する方が恐ろしいぜ……」
「放電なんかしないわよ! ってか、出来ないわよ!」
私は竜乃ちゃんと聖良ちゃんの微笑ましいやり取りを見つめます。
「桃ちゃん、めんこい水着だね」
「あ、ありがとう、エマちゃん」
エマちゃんは私のチェック柄のビキニを誉めてくれました。
「というか、エマちゃん、スタイル良いね! 良く似合っているよ!」
「そ、そうかな……海さ来るのはほとんど初めてだから、どんな水着さ着たら良いのか迷ったんだけども……」
「とっても素敵だと思う!」
「あ、ありがとう……」
エマちゃんは白いワンピースの水着を着ています。シンプルですが、それがかえって彼女のスラリとした長い手足が良く引き立たせていると思います。
「竜乃ちゃんもそうだけど……出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる……なんとも羨ましい限り……」
「! いんやだ、もう! 桃ちゃん、どこさ見てんの⁉」
エマちゃんが私の舐めまわすような視線から逃れるように体を捻ります。どうも心の声が出てしまっていたようです。
「いやいや、これは失敬」
「もう!」
「よっしゃ! 突撃だ~!」
「ちょっと、アタシの浮き輪持っていかないでよ!」
海に飛び込もうとする竜乃ちゃんを聖良ちゃんが追っかけていきます。
「欲しけりゃ取り返してみな!」
「子供か!」
「子供になったもん勝ちだぜ~ひゃっほう!」
「ふふっ、楽しそうだね、あの二人」
「浮き輪は返してあげた方が良いと思うけんども……」
「ちょっと、そこのお二人さん!」
私たちが振り返ると、そこには黒のビキニを着て、まるでリゾートホテルの一室と見まごう程の豪華絢爛なビーチマットにうつ伏せに寝そべる健さんの姿がありました。
「す、すご……」
「ど、どうやってここまで持って来たんだべ、あれ……?」
「どちらか、背中にオイルを塗って下さらないかしら?」
オイルの瓶を片手でヒラヒラとさせながら、健さんが私たちに問います。
「あれ? いつものお付きの黒子さんたちはどうしたの?」
「皆夏季休業中ですわ」
「へえ、休みがあるなんて、意外とホワイト企業体質なんだね」
「……桃さん、わたくしのことをなんだと思っていましたの?」
「オ、オイル塗ってあげるよ」
私はオイルの瓶を受け取って、健さんの側にしゃがみ込みました。
「それじゃあ、お願いしますわ……」
健さんは水着のトップスを外し、背中を露わにしました。そのあまりにも綺麗な背中に私は思わず息を呑みます。
「し、失礼します……」
私はオイルをたっぷりと掌に垂らして、それを両手で擦り合わせてオイルを掌一杯に行き渡らせてから、健さんの背中に塗っていきます。
「うっ、うん……」
健さんの吐息が漏れます。正直言って、人の背中に塗ったことは初めての経験だったのですが、とりあえずやり方は間違ってはいないようです。それにしても綺麗かつ触り心地の良い肌です。塗っている私の方が、気持ちよくなってきます。私はこの感触をしっかりと噛み締めようと目を閉じます。
「きゃあ⁉」
「⁉」
健さんが急に悲鳴を上げます。私は目を開けます。
「ど、どうしたの⁉」
「そ、それはこっちの台詞ですわ! ど、どこを触っていますの⁉」
「どこって……」
私が目をやると、驚きました。私の手が健さんの脇から続く膨らみの部分をガッシリと掴んでいたのです。なんということでしょう。
「う、うわぁ!」
私は両手を離します。
「驚くのはこっちですわ!」
「ど、どうしてこんなことに……」
「どうしてもなにもあなたのさじ加減でしょう!」
「ご、ごめん、あまりに気持ち良くて……気を付けるね」
私は両手をわしゃわしゃとしながら謝ります。
「その手つきがもうなんというかアレですわ! エムスさんと代わって下さる⁉」
「えっ?」
「エマちゃん、頼むね……」
「ええっ⁉」
私はエマちゃんにオイルの瓶を渡して、その場を離れます。すると、近くのビーチパラソルの下で派手な金色のビキニを着て、チェアーに優雅に寝そべる春名寺恋監督の姿がありました。そこにTシャツに短パン姿のキャプテンが近づいて、話しかけています。私は思わず聞き耳を立ててしまいました。
「監督、よろしいのですか?」
「ん? 何が?」
監督が掛けていたサングラスをずらしてキャプテンの方に目をやります。
「合宿前日だというのに、こうして遊んでいるということです」
「せっかく海が近くにある場所での合宿なんだ、遊ばない方が罰が当たるんじゃねえか? どうせ、合宿後はへとへとに疲れ切って、早く家に帰りたくなるはずだぜ?」
「……この合宿は常磐野学園が毎年地元の方に招待されている合宿です。常磐野と県内四強の内の一校、そして関東、関西から一校ずつ強豪校を呼んで行っています」
「だが、今回は関西の強豪校の都合がつかず、代わりに仙台和泉が呼ばれたと……」
「そうです。ハイレベルな合宿になるはずです。このように気を抜いていては……」
「レベル差なんてものは明日になったら嫌でも実感するだろうさ。わざわざ言って聞かせてテンションを下げたり、変に緊張させることはない。今日は長い人生で三年しかない高校生の夏を素直に楽しめよ。何事もメリハリって奴だ、分かるか?」
「はあ……分かりました」
キャプテンはその場を離れます。監督はまたサングラスを掛けます。
「きゃあ! どこを触っていますの⁉」
「ご、ごめん! 可愛いお尻だなと思ってつい……」
「素直!」
健さんとエマちゃんのやり取りが聞こえてきます。楽しんでいるようです。