第53話 富士山 後編

文字数 4,064文字

【ここまでのあらすじ】
 2024年7月12日(金)。天気大荒れの中、富士登山ツアー(吉田ルート・ガイド付き)に参加したワイは、21時30分、宿泊する山小屋である白雲荘へと辿り着いた。そして少しの休憩をとったあと、次の登山が始まるのです!(某吹奏楽アニメを観ながら書いてます)

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 白雲荘に到着後、カレーを食べている時にガイドさんが。

「起床時間をお伝えすると皆さん意識してしまって眠れないと思いますので、山頂に行くメンバーはこちらが起こします。山頂に行かない皆さんはご来光を観てから各自下山してください」

 と。前回は朝の悪天候で3時30分くらいから出発して、登ってる間に日が昇り始めてしまったけれど、今回はどうなるのかドキドキ。念のため訊いてみる。

「山頂でご来光観られそうですか?」
「天気が良ければ。山中湖の方角の天気は悪くないみたいなので、山頂で観られるように出る予定です。お鉢巡りは予定していません」

 ご来光は確か4時30分ごろで、ここから山頂までは2時間ちょっとかかるはず。ということは、午前2時ごろには出発していそうだ。起こされるのはその30分前? 今22時だから、およそ3時間くらいしか休憩できないな。

 食事の後は自分の宿泊スペースへ。まず汗で濡れた下着や服を全とっ替えして、次にザックの中身を整理する。登山途中で着たウルトラライトダウンも、レインウェアの上もかなりグショグショに濡れたままだ。棚はあるけど服を吊るす場所は無い。タオルである程度の水気を取っておき、乾かなければそのまま着直すしかないだろう。

 ザックの整理が終わったころには23時。トイレは白雲荘を出て左に歩くとすぐあり、初回に200円払うことで何回でも使用可能とのこと。百円玉を2枚持ち、小屋を出て……。

 寒ッム!! 寒い!

 シャツ1枚で気温3~4度の世界に飛び出してしまい後悔するももう遅い。ブルブルガクブルしながらトイレへ小走り、百円玉2枚を料金箱へ投入し、震えながらトイレを済まして戻ったのは楽しい思い出。

 すぐに自分のスペースで毛布にくるまり、一気に奪われてしまった体温が戻ってくるのを待つ。ああ~寒かった……。出発する頃にはもっと寒くなるだろうし、山頂はさらに寒く。風が吹けば桶屋が、じゃなくて風が吹けば体感気温はもっと下がる。やはり、たとえライトダウンが乾かなくても着るしかない。でないと低体温症になってしまう。

 眠ったら高山病の餌食になるかもと思い、スマホの画面をぼんやり眺めていたら、寝ていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 予想通り1時30分頃に起床、2時前には山頂へ歩き始める。もちろん配給された朝食を取る時間は無し。知ってた。帰りのバスの中ででも食べよう。山小屋の外に出た瞬間ブルブルッ、ライトダウンの上にレインウェアの構成でも震えるほど寒い。もしかしてホッカイロ売ってないかなとスタッフさんに尋ねてみる。すると宿泊者には無料で1枚進呈できるとのこと(サービスは変更される可能性があります注意)。ありがたく貼るカイロをいただき、シャツのお腹部分に貼り付けた。……メッチャあったかいやん素敵ィ……。これでなんとかなりそうです、ありがとうございます。



 白雲荘からはしばらくなだらかな砂利道が続く。本八合目の終点にあるトモエ館を過ぎるまではそれほどキツくないけど、九合目がまた岩登りになると知っているから気を抜くことなく歩く。最後の1時間、結構しんどいんだよな。そういえば仮眠から起きた時にずーんと頭が重くなっていたけど、深めの呼吸を続けたら治った。高山病には罹らなかったみたいだ。



 夜闇の中、見上げればくねくねとヘッドライトでできた道が山頂へ続いている。上がれば上がるほど風が冷たく、鋭くなってくる。疲れるって分かっていても、やっぱり疲れる。道は山頂を目指す登山客で渋滞していて、少し進んで停まり、また数歩進んで停まる。この度々発生する休憩タイムのせいで足の疲れがさらに増す。足を上げるための力が入らなくなる。



 山中湖の方を眺めると、そろそろ陽が昇ってくる時間。間に合うだろうか。間に合ったとして、綺麗なご来光は観られるのだろうか。空は明るくなったり、暗くなったりを繰り返す。前の人に続いて岩を乗り上がり登っていく。

 ……ようやく。



 山頂へと登りつめた。ガイドさんの狙い通り午前4時に到達できた。これなら山小屋で山頂価格のカップラーメンを食べてからゆっくりご来光を撮影できる。やったね。




 3年前は800円だった気がするカップラーメン、今は1,000円……。こんな高い場所にもインフレの波が押し寄せているわけですナ。でもここで疲れた身体に摂り込むカップラーメンがとっても美味いのだ。コレを食べると山頂に来たんだなって。

 で、食べて山小屋を出て、ようやくデジカメの出番。






 エンドロールでも流れてきそうな、綺麗なご来光。大満足です。カメラを持つ手が強風で煽られ、全然オートフォーカスが定まらない。何枚か撮ったあと、諦めて動画撮影に切り替えた。これならどっかのコマでまともな画が撮れてるでしょって。

 ……さて、目的は果たした。あとは下山だ。の前に少し歩いてパシャリ。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 午前5時から下山を始める。帰りのバスは11時30分に出発する予定。ガイドさんによれば、サクサク歩けば3時間くらいとのこと。ガイドさんは一番遅い客について歩くので、マイペースで下りて行って良いという。僕は下りが苦手だ。膝に負担がかかるので、どうしても休憩時間を多くする必要があり、休憩を多く取ることで足の動きは鈍くなり時間かかって余計に疲れるという悲劇のスパイラル。







 壮大な空景色を望み、最初は「うわぁ、やっぱすんげぇぇぇ」とか「あの雲、乗れそうじゃないか」とか思いながら歩く。しかしそれも最初だけで、30分ほど過ぎればいつまでも変わり映えしない溶岩石の砂利坂にうんざりすることとなる。おおそういえば、下山時はブーツカバー必須なのであります。コレですコレ。



 太いアーチの所を靴底に引っ掛け、パンツウェアと靴の間の隙間を無くし、砂や小石が靴へ入らないようにする便利アイテムである。前回「要らんやろ」と購入せず、下山時に靴インしてきた小さな溶岩石やらスコリア(火山噴出物の一種)により大変痛い思いをしていた。これらは尖ってて痛いんス。



 しっかりブーツカバーを着けて、ひたすら斜面を下り続ける。前日とは打って変わって雨粒一つ落ちてこない晴天。ギラギラ太陽が眩しくてサングラスをかけた。

 下山については、ただただ荒れた砂利道を滑るように下りていくそれだけなので、それほど語ることも無い。高度が下がるにつれ気温は反比例して上がっていくため、途中で防寒着を脱ぐことと、喉が渇く前にしっかり水分補給しておくこと。休憩を取って時間をかければかけるほど足が動かなくなって辛いこと。それくらいだったような。



 荷物運搬用のブルドーザーは朝7時に五合目を出発して登り始める、そうガイドさんから聞いていた。そのブルドーザーが僕の横を通り過ぎたのは7時30分あたり。ここからまだ1時間強は歩く。



 落石止めシェルターを通り抜けたのが8時頃。急に喉が渇き始めたのでOS-1ゼリータイプをザックから取り出して飲む。めっちゃウンマーイ。OS-1が美味いということは脱水症状を起こしてましたなぁ。どうりで足が前に出なくなっていたわけだ。



 まるで「もうちょっとでゴールやで~」的な看板がある。しかしこっからまだ30分くらい歩くのだ。ここら辺りで既に体力が底をついていて、「もう五合目に着けないのかもな」と諦めかける。もう景色の変化を楽しむとか、写真を撮ろうとか一切思わなくなる。ただちょっとずつ足を前に出し、いつかきっと見えるはずの入山ゲートを目指す。

 ……。

 ……、えっと、9時か。着いたぁぁ~。疲れたぁ~。(写真撮り忘れた)



 その足でレストハウスとかいう食事処へ行き、チャーシューメンを注文。麺もチャーシューもメンマもネギも、下山で消耗し枯渇したエネルギーを補充するためにすごい勢いで食べてしまった。そして塩分をたっぷり含んだラーメンスープをゴクゴク飲み干して。

 お疲れさまでしたッ!

 お土産を買って、ちょいと早めにバスに乗って、寝た。帰りにまずバスは銭湯に寄る。ここで汗を流し、服を着替え、昼飯代わりに朝食用として貰っていた袋の中身を全部食べ、ペットボトルのブラックコーヒーを1分で飲み干し、また寝た。

 起きたらそこは名古屋駅だった。いつも旅の帰り道は感傷的な気分になるものだけど、ただ寝ているうちに終わっていた。前回も思ったことで、富士山を登頂したからといって自分の何かが変わるわけじゃない。日本一高い場所へ歩いて行き、日の出を撮って戻ってきただけだ。

 それでもこの2日間、世界は美しいって思ってた。普段の生活で考えることのない言葉。ずぶ濡れになってヘトヘトになって、腹が減って足は痛くて、なんで好んでこんなことやってんだろうと思いながらも、ふと目に映る景色は全部、素敵だった。それで良しとしよう。



 2021年と2024年、同じお店で買った金剛杖だけど、最新の杖は10センチくらい短くなっている様子。短い方が持ちやすかったし使いやすかったんだけど。3年後に買うと、もっと短くなってるのかな?

 以上、「富士山」でした。

【1泊2日の出費】
富士山登頂ツアー(吉田ルート・ガイド付、白雲荘宿泊)保険有り 26,300円
マクドナルド マックグリドルベーコンエッグ アイスコーヒーS 500円
家族庵 穴子重セット 1,750円
雲上閣 金剛杖 100円引き券使用で 1,100円
五合目以降トイレ使用料(1回100円~300円) 合計1,200円
山頂久須志神社 焼き印(スタンプ) 300円
五合目レストハウス チャーシューメン 1,800円
その他 ペットボトル等のドリンク類 800円

計33,750円
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み