第11話 インドカレー
文字数 2,231文字
今週は世界のメシをテーマに攻めていこうと思っていて、最初は分かりやすいヤツにしたかった。だから今日はインドカレーを食べることにした。
店の前に置かれた立看板をじぃっと見つめ、少し視線を上げたら店内にて外を眺める店員さんと目が合ってしまった。なんだかばつが悪くてついつい逃げ出しそうになる。違う、僕はカレーを食べに来た客だぞ。堂々としていればいいはず。
堂々とドアの前に仁王立ち。自動ドアが一向に開かない。
……引き戸だったぁ!
ずっとこちらを見つめている店員さんの視線がザクザク突き刺さる。溜息を吐いて、引き戸をカラカラ開けて店内へ入った。
通路の左側にカウンター6席、その真ん中2席が空いているという状況。この空き方はとっても苦手だ。どちらに座るにせよなんだか申し訳ない気持ちになり落ち着かない。やっぱり席は一番フチに限る。もしくは2人掛けのテーブルにひとりで座りたい。
空いている席に座り、カウンターの奥からメニューを取る。ランチセットの種類は幾つかあるものの、パッと見で違いがよく分からない。斜め後ろにずっと店員さんの気配。ジッと注文を待っている様子だ。
ちょ、ちょっと待ってくださいな。えーっと、一番安い900円のランチセットは1種類のカレーのみ。1,100円のセットでは2種類、1,300円出すと3種類のカレーがつくと。ほうほう。なぜか1,100円セットのソフトドリンク画像が明らかにビールなの、ちょっと笑ってしまう。
あとは1,200円でマトンカレーセット、まかないセットなんてのもある。おすすめランチ1,500円はカレー1種類のみだけど、その量がかなり多いみたい。
「この、Cセット……これね。これでお願いします」
「シィね。ナンでイイ?」
「あ、はい」
「辛さは?
「ふ、普通?」
「ドリンクは?」
「えっと、コーヒーで」
「アイス? ホット?」
「うーん、……アイスで」
店員さんは頷くと、厨房へ引っ込んだ。随分とあっさりな接客が嬉しい。かしこまった接客はあまり好きでなくて、このくらいが僕にはちょうど良い。
爆速でアイスコーヒーが出てきた。コーヒーを飲みつつ店内を見廻す。
壁一面にメニューや料理の写真。飲み放題の値段を記したポップ等々が貼られている。インドっぽいポスターやタベストリ的なものは無くて、店内におけるインドらしさといえばカレーの匂いが充満していることくらい。あと、ちょいポップ気味なインドの歌謡曲っぽいサウンドが流れている。店員同士の会話はちょっと訛った英語、いやヒンディー語なのかな。会話に耳を傾けてみたけど上手く聴き取りできなかった。
1,600円でネパール薬膳定食なんてのがある。ビリヤニ、って何だ。1,300円のダルバートマス、って何なんだ。
ビリヤニ……パエリア、松茸ご飯に並ぶ世界三大炊き込みご飯の一つ。インドの高級米であるバスマティライスと肉、スパイスを合わせて炊いたもの。調理にはかなり手間がかかるようだ。
ダルバートマス……ダルは豆のスープ、バートは炊いた米、マスはチキンとかマトンなんかを使った肉カレーのことらしい。
「お待たセしましタぁ」
カレーとバターナンを乗せた丸い銀色の皿がカウンターに置かれた。
ナンがデカい。チキンカレー、ベジタブルカレー、ほうれんそうカレーと並ぶ。ちぎったナンを入れてそれぞれの味を楽しめるセットだ。しかし未だナンもカレーも熱くて僕の手に負えない。いったんアイスコーヒーを飲んで待機。そういや左手は不浄の手とかいって使わないんだっけ。右手だけでナンをちぎるほど器用じゃないから両手を使うしかないのだけれど。
ひとまずチキンカレーに浸したナンの欠片を頬張る。辛い。からいけど、まぁそこそこの辛さで美味しい。カレーの辛さとバターナンの甘味が口の中で溶け合って、異国情緖溢れるハーモニーを作り出す。すぐに体の奥がインドっぽくなった。←?
スプーンでチキンカレーのチキンを取り出して食べるウッマ。ほろほろのチキンをザクザクと分け広げ、ちぎったナンに乗せて口まで運べばホラ美味しい。ベジタブルカレーはにんじん、いも、豆などを惜しげもなく投入したほんのり健康的なやつ。ほうれんそうカレーは間違いなくほうれんそうの緑色に染まっている。
それぞれ特徴のあるカレーに、ちぎっては入れ、ちぎっては入れ、ナンを削っていく。ご飯ものだと胃へ流し入れるように光速で食べてしまうのだけど、この料理は食べ終わるのにそこそこ時間がかかった。だからナンが失われる頃には満腹中枢を十分に刺激してくれたわけで、もう食べられないよぉ。となった。
満足して食べ終わり、アイスコーヒーをストローで啜っていると、個性強めのお客さんが入ってきた。やたら声のデカい男性2人組。僕と同じく初めての来店らしい。おすすめランチについて店員さんに訊き、辛さをやたら詳しく知ろうとする。ちょうど良い辛さを会話だけで掴もうとしているのか。
店員さんはのらりくらり。「激辛じゃないのな? 大丈夫だな?」と言われても「ダイジョブ、ダイジョブ」と言っている。まぁ普通の辛さが大したことなかったので、多少辛くしても酷いことにはならないだろう。多分。
支払いをして、店を出る。
仕事場に帰りがてら、明日は何にしようかって考える。
でも満腹の時に次の飯の事なんて考えられないんだよなぁ。
【本日の出費】
インドカレー3種セット(ナン、アイスコーヒー、サラダ)
1,300円
店の前に置かれた立看板をじぃっと見つめ、少し視線を上げたら店内にて外を眺める店員さんと目が合ってしまった。なんだかばつが悪くてついつい逃げ出しそうになる。違う、僕はカレーを食べに来た客だぞ。堂々としていればいいはず。
堂々とドアの前に仁王立ち。自動ドアが一向に開かない。
……引き戸だったぁ!
ずっとこちらを見つめている店員さんの視線がザクザク突き刺さる。溜息を吐いて、引き戸をカラカラ開けて店内へ入った。
通路の左側にカウンター6席、その真ん中2席が空いているという状況。この空き方はとっても苦手だ。どちらに座るにせよなんだか申し訳ない気持ちになり落ち着かない。やっぱり席は一番フチに限る。もしくは2人掛けのテーブルにひとりで座りたい。
空いている席に座り、カウンターの奥からメニューを取る。ランチセットの種類は幾つかあるものの、パッと見で違いがよく分からない。斜め後ろにずっと店員さんの気配。ジッと注文を待っている様子だ。
ちょ、ちょっと待ってくださいな。えーっと、一番安い900円のランチセットは1種類のカレーのみ。1,100円のセットでは2種類、1,300円出すと3種類のカレーがつくと。ほうほう。なぜか1,100円セットのソフトドリンク画像が明らかにビールなの、ちょっと笑ってしまう。
あとは1,200円でマトンカレーセット、まかないセットなんてのもある。おすすめランチ1,500円はカレー1種類のみだけど、その量がかなり多いみたい。
「この、Cセット……これね。これでお願いします」
「シィね。ナンでイイ?」
「あ、はい」
「辛さは?
「ふ、普通?」
「ドリンクは?」
「えっと、コーヒーで」
「アイス? ホット?」
「うーん、……アイスで」
店員さんは頷くと、厨房へ引っ込んだ。随分とあっさりな接客が嬉しい。かしこまった接客はあまり好きでなくて、このくらいが僕にはちょうど良い。
爆速でアイスコーヒーが出てきた。コーヒーを飲みつつ店内を見廻す。
壁一面にメニューや料理の写真。飲み放題の値段を記したポップ等々が貼られている。インドっぽいポスターやタベストリ的なものは無くて、店内におけるインドらしさといえばカレーの匂いが充満していることくらい。あと、ちょいポップ気味なインドの歌謡曲っぽいサウンドが流れている。店員同士の会話はちょっと訛った英語、いやヒンディー語なのかな。会話に耳を傾けてみたけど上手く聴き取りできなかった。
1,600円でネパール薬膳定食なんてのがある。ビリヤニ、って何だ。1,300円のダルバートマス、って何なんだ。
ビリヤニ……パエリア、松茸ご飯に並ぶ世界三大炊き込みご飯の一つ。インドの高級米であるバスマティライスと肉、スパイスを合わせて炊いたもの。調理にはかなり手間がかかるようだ。
ダルバートマス……ダルは豆のスープ、バートは炊いた米、マスはチキンとかマトンなんかを使った肉カレーのことらしい。
「お待たセしましタぁ」
カレーとバターナンを乗せた丸い銀色の皿がカウンターに置かれた。
ナンがデカい。チキンカレー、ベジタブルカレー、ほうれんそうカレーと並ぶ。ちぎったナンを入れてそれぞれの味を楽しめるセットだ。しかし未だナンもカレーも熱くて僕の手に負えない。いったんアイスコーヒーを飲んで待機。そういや左手は不浄の手とかいって使わないんだっけ。右手だけでナンをちぎるほど器用じゃないから両手を使うしかないのだけれど。
ひとまずチキンカレーに浸したナンの欠片を頬張る。辛い。からいけど、まぁそこそこの辛さで美味しい。カレーの辛さとバターナンの甘味が口の中で溶け合って、異国情緖溢れるハーモニーを作り出す。すぐに体の奥がインドっぽくなった。←?
スプーンでチキンカレーのチキンを取り出して食べるウッマ。ほろほろのチキンをザクザクと分け広げ、ちぎったナンに乗せて口まで運べばホラ美味しい。ベジタブルカレーはにんじん、いも、豆などを惜しげもなく投入したほんのり健康的なやつ。ほうれんそうカレーは間違いなくほうれんそうの緑色に染まっている。
それぞれ特徴のあるカレーに、ちぎっては入れ、ちぎっては入れ、ナンを削っていく。ご飯ものだと胃へ流し入れるように光速で食べてしまうのだけど、この料理は食べ終わるのにそこそこ時間がかかった。だからナンが失われる頃には満腹中枢を十分に刺激してくれたわけで、もう食べられないよぉ。となった。
満足して食べ終わり、アイスコーヒーをストローで啜っていると、個性強めのお客さんが入ってきた。やたら声のデカい男性2人組。僕と同じく初めての来店らしい。おすすめランチについて店員さんに訊き、辛さをやたら詳しく知ろうとする。ちょうど良い辛さを会話だけで掴もうとしているのか。
店員さんはのらりくらり。「激辛じゃないのな? 大丈夫だな?」と言われても「ダイジョブ、ダイジョブ」と言っている。まぁ普通の辛さが大したことなかったので、多少辛くしても酷いことにはならないだろう。多分。
支払いをして、店を出る。
仕事場に帰りがてら、明日は何にしようかって考える。
でも満腹の時に次の飯の事なんて考えられないんだよなぁ。
【本日の出費】
インドカレー3種セット(ナン、アイスコーヒー、サラダ)
1,300円