第22話 高山ラーメン

文字数 1,679文字

 金曜日のランチタイム。高山へ行かなくても高山ラーメンが食べられるという店の前にいた。入り口の引き戸を開けようとしても開かない。戸惑う僕の目に映る『扉が重いです』と書かれた紙。

 両手で取っ手を引っ張って開ける。動き始めた引き戸はスルスルとレールの上を移動していく。初動だけ重いみたいだ。中へ入るとお客さんがひとりだけ。待たなくても良さそうで、今日はゆったりゆっくり食べようと決意する。当たり前だが、熱いものを素早く胃に詰め込むのは体に良くない。

 入り口左のタッチパネル式券売機で「ランチセット」なるものを選択。ラーメンプラスご飯で、麺が大盛りになるらしい。トッピングは無しにした。発券して、壁に飾られているサイン色紙を眺める。誰が書いたのか分からないが、きっとアナウンサーとか旅番組で訪れた芸能人なのだろうと推察。旅している時も色んな店でこういったサイン色紙を見たけど、名前が読み取れないので「××さんも来たことあるらしい」と書けなくて困る。ぜひ写真を貼り付けておいて欲しいものだ。

「こちらへどうぞ〜」

 指定された席に座り、スマホでnoteのサイトを開く。朝の電車内にてイイネにあたる「スキ」を付けた他のユーザーが「スキ返し」をしてくれていた。まだnoteに記事のアップを始めて1週間で、わけも分からず色々試している。「スキ」だけして廻るのを「スキ爆撃」というそうだが、僕はちゃんと読んで、面白かったり興味を引く内容の時に「スキ」を付けている。僕の記事はPVと「スキ」の比率がおかしい。おそらく読まずに「スキ返し」されているのだろう。そう思うとなんだか寂しい気分になる。

 どんな趣味でも最初の試行期間が一番楽しい。この期間が過ぎて飽きがきた時に、推進のための燃料を得られるかどうかが、趣味を継続させるために必要な事だと思う。僕はベースもレザークラフトもビーズアクセサリー作りも、継続のための燃料を得られずにやめてきた。

 って日記に書こうかなって考えていると、ラーメンとご飯が提供された。



 素朴な醤油ラーメンで、細めの縮れ麺がスープの中で輝いている。めんま、チャーシュー、ネギというシンプル構成。飛騨高山のご当地グルメである中華そば。鶏ガラをベースに煮干しや鰹節、その他椎茸や野菜など店ごとに工夫して濃くまろやかなスープを作っているそうな。

 レンゲでラーメンスープを啜る。……おお、まさに「こういうのでいいんだよ」的な味わい。醤油の香り強く、喉ごしがさっぱりしている。この味を纏った縮れ麺はどうだろうか。
 箸で麺を持ち上げて、ズズッと吸い込む。うんまぁっ! スープの味を取り込んだ麺は、噛むほど口の中で素材の味を広げてくれる。わざわざレンゲでスープを飲む必要なんてなさそうだ。

 麺をおかずにして白飯を食べると米の甘さが引き立って美味い。だから何も乗せていない単なる白飯がセットなのかと勝手に納得してしまう。これがシンプルかつ最強の構成なのだ。米が美味いならビールもきっと良く合うことでしょう。

 めんまもチャーシューも醤油味のスープをよく吸い込んでいて、これも白飯の良いおかずになる。だから序盤でご飯が無くなってしまった。仕方ない、あとは麺を主食に切り替えていこう。

 大盛りの麺は、めんまとチャーシューが途切れてもかなりの量が残った。しかしその麺がいつまでも美味しくて、汗をかきながら啜り続ける。テーブルの上のティッシュを額の汗拭き用に使ってしまう。申し訳ない。

 麺をすべて食べ終えた時、スープが大量に残った。飲み切れない量だ。レンゲで掬ってちびちび飲んでいたが、お腹が張ってきたのでそこで飲むのを止めた。

 まだ休憩時間は30分残っている。
 外へ出て、街を散策しながら戻る。

 来週こそ喫茶店巡りをしたいなと、幾つかの店先から中の様子を覗く。どこも満席に近い。ラーメン屋よりも回転が遅い喫茶店でのランチは、もしかすると厳しいものになるかもしれない。時間がね。

 いやはや、僕は一体全体何と戦っているのだろう。

【本日の出費】

 高山ラーメン+白いご飯セット
 1,200円
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