第4話 牛たんローストビーフ丼

文字数 1,969文字

 昨日から降り続いていた雨が何処かへ過ぎ去っていたお昼時。
 腹を空かし、僕は足早に目的の店へ向かっている。

 最近、ベルトがキツくなった気がする。気がするのではない、間違いなくベルトがキツくなった。原因は明らかだ。先週は、背脂こってりラーメンやらステーキやらココイチやら、毎日ランチで腹をパンパンに膨らませていた。週末だって焼きそばUFOの麺2倍「爆盛バーレル」なるインスタントを食べたり、中華レストランで油淋鶏定食に小籠包を付けたりしていた。食い過ぎなんだよなぁ。

 いやぁ、もうそろそろ何とかしないと……もぅ……、モゥ?

 というわけで、牛たん屋さんの前に立つ。ザザッ。
 2週間前にも来たし、なんなら隔週で訪れているお店だ。最初は牛たんカレー、次は牛たんのつくね丼、その次は牛たんローストビーフ丼を食べた。仙台に行かなくても、ここで美味い牛たんを頂ける。特に牛たんローストビーフ丼は涙が出そうになるほど美味かった。

 本日はそのローストビーフ丼に、とんたんセットを付ける。このお店はモバイルオーダーでの注文となり、席毎に割り振られたQRコードを読み取ってサイトへアクセスし、注文の品を選択する方式である。
 僕の持つ縄文時代発売の古代スマホは標準カメラでQRコードを読み取れない。だからこのお店に来るたび、QRコード読み取りアプリをインストールしている。余計なアプリは入れておかない主義なので、用事が済んだらさっさとアンインストールする。店員さんに直接注文してもいいみたいだけど、牛に入っては牛に従えということで。

 さて、注文が終わって、カウンターから見える肉の炭火焼き風景を眺めて過ごす。そういえばローストビーフって、自分で作ったことないや。このお店のローストビーフはすでに調理済みのものを切り分けて提供してるんだろうけど。実際どうやって作るものなのかササッと調べてみた。

 ローストビーフはイギリスの伝統料理で、大雑把にいえば牛肉のかたまりを蒸し焼きにしたもの。表面はしっかり焼いて、中はたんぱく質の変性が起きない程度の低温加熱で火を通す。柔らかい食感を出すために薄く切る。調理の過程でニンニクや野菜と一緒に密封したり蒸したりするため、それらの風味も味付けとして加わり、単純に焼くのとはひと味もふた味も違う。ふむふむ。

 調べ物が終わったタイミングで、牛たんローストビーフ丼、とんたんセット、テールスープがポン、ポン、ポンとカウンターに置かれた。



 麦飯がローストビーフのカーテンに包まれている。黄身がちょこんと乗っており、これを切り崩す。黄身と牛たんローストビーフふた切れと麦飯を箸に乗せて、同時に口の中へイン。

 ……あぅぅ。美味いでやんす。

 柔らかい肉から溢れ出る旨みを黄身が増大させる。そこに麦飯の甘さが加わって爆ウマ。うぬぅ、いきなりガツンとやられちまったぜ。体勢を立て直すために白菜、ニンジン、キュウリなどの浅漬けをパクリ。お、爽やかだ。

 しゃり、シャリ音を立てて漬物の味を口の中で広げつつ、次の獲物を探す。テールスープか、とんたんか。

 テールスープ……牛の尾っぽをぶつ切りして煮込んだもの。
 とんたん……豚の舌を焼いたもの。炭火で焼いてるようだ。

 スープは、テールと野菜をよく煮込み、塩やら何やらで味付けしているのだと思われる。比較的あっさりしていて箸休めにピッタリ。テールはほろほろ、舌の上でとろける。

 とんたんは3切れ。それぞれ細かく切り込みされていて、そのおかげかしっかり火が通っている。表面は香ばしく中は柔らか。噛めば噛むほど旨み成分が染み出してくる。お供のご飯は大盛りにすべきだったと後悔しても、もう遅い。

 とんたんの皿に、ちょいピリ辛の何かがちょこんと鎮座しているのだが……、これは何だっけ。名前は分からんがご飯が超ススム。やっぱり大盛り(以下略)。

 ローストビーフ、浅漬け、テールスープ、とんたん、謎のピリ辛、ローストビーフ、浅漬け……。これを繰り返す。ちょこちょこ、ちょこちょこ繰り返す。最高だ。永遠にこのループの中にいたくなる。

 しかし時は残酷。僕の目の前からそれらを消滅させてしまった。
 一体どこへ? ……腹の中。そう僕のお腹は今、幸せ一杯だ。

 なんか毎回ついてくる謎のレンゲで、残ったご飯を皿から掬い上げてフィニッシュ。ああ、美味しかったでやんす。ごちそうさまでござりんした。

 明日はあっさりしたもの、もしくはたこ焼きでも良いかな。なんて思いながらたこ焼き屋さんの前を通ると、長蛇の列が形成されていた。どうやら半額期間中らしい。では、たこ焼きはパスか。

 ふぅむ……ま、明日のことは明日考えるとすっかな。
 やばいやばい、モゥ眠くなってきたぞ。

【本日の出費】

 牛たんローストビーフ丼・とんたんセット付き
 1,298円
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み