38話 結局は

文字数 1,254文字

『だって好きだもん・・』

(まさか・・)

まなみのその言葉に僕は動揺した。好きの対象が何なのか薄々気づいていたが、確認のため何が好きなのか、もう1度聞いた。

『だから・・『それ』が好きなの』

『そっかあ・・』

僕はさっきまで感じていた意地悪してやろうという気持ちは今や、無気力感に変わった。僕がまなみの身体を利用していたように、まなみも僕の身体を利用していたのだ。そして、僕が主導権を握っているようで、実は握られていたのかもしれない。

(日々のまなみの態度全てが『それ』のためだったのか?)

(水族館で手をつなげただけで夢が叶ったと言っていたあの瞳、好きと言ったあの瞳、全てが『それ』のためだったのか?それなら演技上手すぎじゃないか・・)

僕はまなみにすっかり騙されていた。

(恋愛経験がなかったから、嘘を見破れなかったのだろうか?)

いや、そうではないと思う。女の嘘を見抜く、女の本音を知ることは、どれだけ恋愛を経験しても無理だろう。まなみは相当な熟練者で、こんな男を騙すなんて朝飯前だったに違いない。

『私『それ』への欲が強いのだと思う・・』

『そっかあ』

『でも、恋人として本当に好きだよ』

『違うやろ?結局は『それ』のためやろ?』

『今回は違うもん。今までの人はそうだったけど・・』

まなみは今回は今までとは違うと言うが、僕は素直にその言葉を信用できない。なぜなら、他の男にもそのように言っている気がしてならないからだ。まなみは涙目になっていた。

(これも作戦だろう・・)

涙を見せられると男は弱い。特に恋愛経験のない男など女の涙に対する免疫は皆無に等しい。僕は自分の心にこれはまなみの作戦だと言い聞かせ、心が揺れるのを抑えようとした。

(この気持ち、いつしか感じたあの気持ちと似ている)

それは以前、好きでもない人になぜこれほど胸が熱くなるのか?と感じたことがあった。その気持ちをまたもや感じている。これは思春期特有のものなのかもしれない。一応まなみは、初めての彼女だからこのように感じているのかもしれない。

『僕らはどうなるん?』

僕は相変わらずまなみに対しては悲劇のヒロインを演じている。

『別れたくない・・』

まなみは涙に混じった声でそう言い、僕を抱きしめた。

『僕も別れたくないけど・・他の男おるのは嫌やわ』

『みんなと関係切る』

まなみの返事は早かった。しかし、その言葉を僕は信用ない。きっとその場しのぎの言葉に違いないからだ。僕はまなみを試した。

『皆んなのメアド消してや?』

『・・・・』

まなみは声を発さなかった。

『ほら、結局無理やん』

『ごめん・・』

試さなくても答えはわかっていた。『それ』の奴隷が宝物のようなメールアドレスを消せるはずもないくらい。

ピコーン、、

まなみのスマホにメールが来た。その時、僕とまなみは一瞬目が合った。僕は机の上にあるスマホをとり、まなみのスマホを見た。

『今晩やろや?』
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