第0話 僕

文字数 1,080文字

僕は『それ』のための人生に嫌気をさしたのだろうか。

ふと、海に来た。季節は10月、大阪湾では太刀魚釣りが賑わう季節である。この時期の太刀魚は夏場ほど数は釣れないが、かといって冬場ほど釣れないわけでもない。そこそこのサイズがそこそこ釣れる時期なのである。

今日はいつもの沖向きポイントに入れず、内向きの静かなポイントで竿を出した。辺りには常連であろうおじいさんが数名、雑談をしながら水面の電気浮きとにらめっこをしている。僕は少し離れた所で竿を出し、スーパーで買ったキビナゴを針につけ、電気浮きを眺めている。なぜ、スーパーで買うかというと、単純に釣具屋で買うと高いからである。

釣りを始めるも、今日は全くといって電気浮きに反応がない。餌をキビナゴからサンマの切り身に変えたり、狙う層を変えたりと試行錯誤をしたが全くである。回遊していないのではないかと頭によぎった。それというのも、太刀魚は回遊魚のため、回遊していないと釣れるはずもなく、早々に帰る釣り人も多い。

だが、僕は暇人。そのようなことにはお構いなく朝まで粘るのが常である。僕は人生の中で釣りをしている時間は特別なものだと感じている。釣りをしながらあれこれと考えるのが好きだ。また、新聞を読むこと、政治について話すこと、経済思想史を学ぶこと、車やバイクに乗ること全てが好きだ。

このような人間のため、よくおじさん呼ばわりされる。しかしまだ22歳の大学生である。身長175cm、体重75kgのスポーツマン体型で、顔は最近流行りのイケメン俳優に似ているとよく言われる。そのため、そこそこモテると自負している。

女遊びには大学2回生の頃に目覚めた。純愛など遠の昔に捨てたつもりだが、純愛を夢見ている自分もいる。そもそも純愛など経験したことがあるのだろうか……
付き合っている彼女はいるが、心から愛しているのかと言われるとそうではない気がする。

もし、人間に『それ』という行為が無かったのなら、付き合うことなど興味がなかっただろう。ひたすら趣味に没頭していたに違いない。

つまり、僕は『それ』のために付き合っており、『それ』に打ち勝つことができていないのだろう。いや、『それ』に打ち勝てる人などいるものか。人間は皆、『それ』の奴隷だ。偉そうな事を言うコメンテーターも、国のトップも、爽やかなスポーツ選手も、隣の家の上品な奥様も、僕の家族ですらきっと……

そうなのである

この物語では僕のこれまでの人生を振り返り、性や恋、愛についての答えを見つけていく。さっそく、僕の人生を高校時代から振り返ろう。
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