25話  虜

文字数 867文字

ランニングの翌日は疲労感から家を出る気はおきなかった。僕は昼過ぎに起きて何をするか考えてみたが何も思いつかない。ただ時間だけが過ぎていった。

なんとなくゲームを始めてみたがすぐに消した。無気力感が僕を支配していたが、昨日読んだあの本のせいで僕は本の虜になりつつあった。本屋に行くのは面倒だったので電子書籍をダウンロードしようと思いパソコンの電源をつけた。古いパソコンのためか起動するまで時間がかかり焦らされている気持ちになった。

キーワードを恋愛にして検索すると膨大な量の書籍があり様々な形の恋愛がそこにはあった。

(純愛ものはまた心が痛むだろう・・
僕の価値観に近いものを探そう)

目を凝らして探してみるがなかなか見つからない。1時間ほど経った時ある本が僕の目に飛び込んできた。

『男の欲望〜性に溺れた男の物語〜』

僕はあらすじすら読まずにダウンロードした。そして宝物を見つけた冒険家のように胸が高ぶり瞳孔は開きモニターに釘付けになった。

本の内容を簡単に紹介すると、主人公はあることがきっかけで性に溺れはじめた。愛し合っていた彼女と付き合いながらも数々の女性と関係をもち彼の生きがいはいつしか性に支配される。しかし、そんなある日彼女に遊んでいることがバレた彼は開き直ってこう言った。

『俺は性のために生きてる。もうお前とは別れる』

性に奔走した彼の人生物語だ。

僕は3時間程度で読破した。主人公と自分を重ね合わせて読んでいたからだろうか、まるで自分が経験したかのような気持ちになった。このままでは自分も主人公と同じ運命をたどるだろう。

しかしこうも考えていた。

(その人生も悪くないのではないか?
どこかで主人公と違う選択をすれば彼みたいな人生を辿ることはないだろう)

またしても僕は本に影響されていた。本の影響力、強いては小説の偉大さに気づいた僕はまたしても電子書籍をダウンロードしていた。

この日を境に僕は読書家になった。そして、いつしか自分も他者に影響力を与えれるほどの小説家になりたいと思った。
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