44話 吸い込まれた

文字数 1,169文字

バーに入りカウンターに腰掛け、嬢は生ビールを、僕はジンジャエールを飲んでいた。お互い名も知らぬままバーに来たので、とりあえず自己紹介をした。嬢の名前はえりかで年は25歳だそうだ。僕が高校生ということを聞いて驚いていた。

『若いとは思ってたけど、まさか高校生とは・・』

『いくつ位に見えましたか?』

『20くらいかな』

僕達は休みの日に何をしてるのか?趣味は?恋人は?など、何気ない話をしていた。するとえりかさんは唐突に聞いてきた。

『童貞?』

いきなりの質問に驚いた。

(どう答えるのが正解なんだろう?)

『1人だけです・・えりかさんは?』

『キャー、可愛い。私は・・秘密』

『教えてくださいよ』

『女性にその質問はタブーだよ』

えりかさんは小悪魔のような微笑を浮かべ、まるでシーをするかのよう、僕の口に指をつけた。

『2人目になってあげようか?』

えりかさんは相当酔っている。僕のほっぺにキスをしたり、机の下にある僕の突起物を触ったりしてくる。

『恥ずかしいです・・』

僕は本音と建前でこう答えた。

『ほんとピュアやね。いいじゃん、2人目になってあげる』

えりかさんはそういうと席を立ち、お会計を済ませた。お会計の際、僕もお金を払おうと財布の口を開けたが、えりかさんの手で口は閉められ、カバンに戻された。そして、目の前に広がるラブホテル街に吸い込まれていった。

『僕、こんな所来るの初めてなんです』

『うそー。どこでしてたの?』

『彼女の家でしてました』

『そっかあ。高校生だもんね』

ネオンが光る甲板はよく目立ち、子供の頃はお姫様でも住んでいるのではないかと思っていたラブホテル。思春期を過ぎた頃にはそのような幻想は打ち砕かれ、ただの『それ』のための部屋だということを知った。

『ここにしよ』

『は、はい』

手を握られたまま、半ば強引に引き込まれた。

自動扉が開き中に入るとパネルが貼られており、ランプの付いている部屋と付いていない部屋があった。どうやらランプの付いていない部屋は使用中で、夢中になって『それ』をしているらしい。

『どこでもどうぞ』

『じゃあ・・ここで』

僕は数あるボタンの中から205号室のボタンを押した。ボタンを押すとランプが消え、使用中になった。エレベーターに乗り込み2階に登ると、壁の上には矢印があり、205号室の方向を示す矢印が点滅していた。えりかさんは僕の手を引っ張り扉を開けた。扉を閉めると自動ロックがかかり、どうやら精算するまでは出られないらしい。ここまででスタッフとは1度も会っていない。

初ラブホテルに、ほんの数時間前に知り合った女性と来てしまった。広いベッドに押し倒され、天井の模様が目に入った。

僕は妙なドキドキ感に包まれていた。
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