第16話 ツーリング③

文字数 868文字

満足のいくまで釣りをした僕は帰路に着いた。ツーリングの帰路はなぜだかいつも寂しさに付きまとわれる。冷たい風に打たれながら孤独にアクセルを捻り家を目指す。

しかし、今日はいつもの実体のない寂しさではなく実体のある寂しさを感じていた。それは、今日のツーリングで目に入ったあのカップル達だ。そこには純愛があり、僕の汚れかけた心では決してたどり着けない愛があった。

1時間ほど経った頃パーキングエリアに着いた。トイレを済ませ冷えた体を温めるためにホットコーヒーを買った。ホットコーヒーを飲むと心の冷たさとは対照的に、身体は温まったような気がした。スマホを見るとまなみからメールが来ていた。

「こんばんは。今日は何してたの?」

別になんでもいいじゃないか、
めんどくさいな

僕はメールを見たがすぐには返信しなかった。15分ほど休憩した後パーキングエリアを出た。外の風はとても冷たく先程貰った身体の温もりはすぐに奪われてしまい、心と身体両方が冷たくなった。

家に着き真っ先に風呂に入った。冬ツーリングの後の風呂は格別で芯まで冷えた身体をすぐに温めてくれる。普段はすぐに出るのだが、今日は長風呂をした。風呂を出てようやくまなみにメールの返信をした。

「こんばんは!今日はツーリング行ってた」

「そうなんだ。
楽しかった?どこまで行ってたの?」

「楽しかったけど寒かった!
和歌山の方まで行ってたよ」

「今日寒かったもんね。
和歌山のどこ行ってたの?」

「うん!断崖絶壁の観光名所と海鮮市場行ってから漁港で釣りしてたよ」

「へー楽しそう。今度連れて行ってね!
魚いっぱい釣れた?」

僕はここでメールの返信をやめた。正直このメールの何が楽しいのかわからない。カップルになると毎日メールするのが当たり前と周りの友達は言うが、僕には苦痛でしかないと感じた。

「毎日メールしてるのが幸せ」

「繋がってる感じがする」

「相手のことが気になる」

などと友達は言うが僕には理解出来ない。

疲れからか布団に入るとすぐに眠り落ちた。
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