第13話 古今無双の蛙
文字数 684文字
荒野の無人の町の酒場でただの垂れ死ぬのを待っていた。
この世に俺を越す奴がいない、それが現実だ。
夢が無くなった俺には何もない。
もう、何も…
「本当にそうか?」
床に倒れていた俺の前に男が立っていた。見慣れない服装だ、右手に何かで繋がった鞄を持っている。
「誰だ…あんた…」
男は不敵な笑みを浮かべていた。
「聞こえねぇのか、さっさと俺の前から消えろ」
「本当に
夢
は消えたのか」夢?何を言っている?
「世界の全てを見てきたと思っているのか?お前が知っている世界はまだほんのパズルの一部でしかない。お前はまるで
井戸の中の蛙
だ。哀れだ」「てめぇさっきから言いやがって!」
とっさに手元にあるぼろぼろの刀を手に取り斬りかかる寸前だった。
男が刀を握った手を優しく両手で包みこんだ。
「私の目を見ろ」
見てしまった、男の目は暗く身体が飲み込まれるかの様に不気味な目をしていた。
その時生まれて初めて恐怖を感じた。
今でも思い出すだけで身の毛が立つ。あの目は人間の目じゃない、
悪魔の目
だ。「私からお前に新しい夢を与えよう」
「夢、だと…」
男が左手で俺の頭を触れた。
「先ず、私の当面の目標を話そう。私の目標は
世界
だ。世界と言ってもお前が見てきたちっぽけな世界とは違う。正真正銘、世界を相手に勝負する。お前もこの戦いに加わるのだ、我々には敗けは許されない。」「世界…具体的に何と戦うんだ?」
「お前だイデス、
自分を越えろ
。昨日の自分を越えるんだ、そしてまた明日の自分を越えろ」次第に刀を構えるのを止めていた。
「あんた…何者なんだ…」
「私の名はヴィンセント。さあ、共に世界を変えよう」