第20話 幹部会議
文字数 1,608文字
「時間です。ご着席を」サリーナが進行する。
「誰が着けるかー!」
イデスが椅子を持ち上げて荒らげた。
「どうしたのですイデスさん。何か問題でも」
アルバートが穏やかに語る。
「どうもこうもねーよ!何だよこの面子は!」
イデスは今居る面子を指さした。
「旦那、メガネ、筋肉だけじゃないか!二人いねーじゃねえか!たてがみ女は百歩譲るがひょろ男がいねーじゃないか!」
「イデス様、社長を指差すのはお止めください」
「そうですよ、人を指差すのはマナーがなっていませんよ」
「おい筋肉、テメーもテメーだ。さっきから何ジュース何か飲んてやかがる」
「いいえ、これはジュースではありません。バナナプロテインです」
「テメー喧嘩売ってるんか?おい!」
「イデス、黙れ」
ヴィンセントの一言でこの部屋の重圧が増した。
「サリーナ、ユースに電報は送ったか」
「はい、ですが電報が届いた頃には依頼を終わらせて既に何処かへご出発された模様で」
「そうか、分かった」
「旦那、ユースに甘くないっすか、こんなに好き勝手にやらせていいんですか、俺達と同じ幹部ですよ」
「彼奴は的確に仕事をこなしている。空いた時間に何をしようが勝手だ。イデス、私もユースと同じ様にお前に対応しているつもりだか、何か不満か」
「とんでもねぇ、座ります」
さっきまでの威勢が収まり持っていた椅子に座った。
「サリーナ、今月の収支は」
「先月より15%増です。国内の製薬会社の60%を買収、再来月までには90%を手中に。続きまして街再建計画も着々と進んでおり、地方からのご依頼も二軒ございました。こちらも進めさせていただきます」
「よろしい。アルバート、先日の部隊の状況は」
「問題ありません。四週間でこちらの部隊に合流できます」
「使えない物がでたら直ぐに消せ。我々の部隊を公に知られるのは困る」
「お任せ下さい、一人たりとも落ちこぼれを作らせたりはさせません」
胸に手を当て笑顔で答えた。
「素晴らしい。最後にイデス、何か言っておく事はないか」
「特に何もありませんよ、強いて言えばこないだゴロツキ三人が店を荒らそうとしたんでぶった斬ってやりましたが」
「ほぉ、ゴロツキを…」
「ええ店の敷居を潜る前にぶった斬ってやりました」
「イデス、それは良くやった」
「いやー褒められる程では」
「それで何で
斬った
」「へ?」
「先週仕入れた銀細工の食器のナイフが一本見当たらないとサリーナから報告が上がっている」
「それは…」
「あれは今週にも顧客に納品する予定なのだが」
「え、えーと…」
「イデス、何か言い残す事はないか」
部屋の重圧が更に増した。
「言い残す、事は、ないか」
「すまねぇ旦那!許してくれ!命だけは…」
椅子から降りて土下座をした。
「イデス…」
殺される。それしか頭になかった。
「素直でよろしい、よく言った。これより今後の方針について話そう」
(た、助かった)
「我々イータ商会は今後も飛躍する為に新たな事業に進出する」
ヴィンセントはテーブルにスュツリス帝国の地図を広げた。
「見ての通りこの国は絶海の孤島だ。ほぼ自国のみで自給自足をしている。だがそれもいずれ限界が来る」
ヴィンセントは帝都を指差した。
「帝都はここ、その隣はこの国唯一の海外の通じる港だ。残念な事に国は『アルゼン海運』一社にしか国外に出ることを許していない」
「そうですね。鎖国は解いてもまだ規制が厳しいままです」
アルバートが答えた。
「海運だけではない。陸路の輸送は『パキスター鉄道』が八割占めている」
「旦那、何をしたいんです?」
「我々は物流業界に進出する」
ヴィンセントは宣言した。
「海と陸、何方を攻めるのですか」
「両方手に入れる。だがその前にやるべき事がある」
「それはなんですか旦那」
「イデス、ナイフの件お前の給料から差し引く」
「旦那ー!」
「会議は終わりだ。我々の目的の為に君たちに期待している。解散」
「待ってくれ旦那!いくら減らされるんですか!待って旦那!旦那ー!」