第14話 古今無双の蛙
文字数 756文字
割れた皿の上には何もなくなっていた。
「殆どあんたが食べちゃったじゃない」
ミレーユは呆れていた。
「で、何で剣客止めて商人になったの?」
「まだ聞くのかよ、俺は今自分がやりてぇ事をやってるだけさ」
「本当、お気楽ね。じゃあ私そろそろ帰るわ、こんな所で油を売ってる暇じゃないから」
ミレーユはベンチから立ち上がった。
「リンゴごち…違った元は私のだし、そうね切ってくれてありがとう。また町を真っ二つにしたら蹴り倒すから覚悟しててね」
ミレーユはそう言って立ち去った。
また暫く空を見上げた。
あの時の空に似ている。
旦那に手を握られて酒場から外に出た時の空と一緒だ。
本当、世界は広い
「店先で座って空を見ていろと私は頼んだか?」
突然の声に驚き跳び跳ねた。
ヴィンセントとサリーナが立っていた。全く気づかなかった。
「私は掃除をしろと頼んだはずだが何をしている?」
またあの目で見られている。
「だっ旦那!お帰りなさいませ。掃除は全て順調です、散り一つ残しはしませんよ!」
「そうか、ならいい」
イデスはふっと胸を撫で下ろした。
「それはそうと、そこの破片は何だ?」
「へ?」
サリーナがベンチに散乱した破片を手に取った。
「二百年前の皇族が使っていたソーサーです。間違えなく我が商会の商品です」
サリーナが淡々と話した。
「旦那!あのっ、それには訳が!」
「イデス」
ヴィンセントはイデスの肩を掴み、耳元に囁いた。
「何か言い残す事はないか」
声は冷たく重く恐怖そのものだった。
「旦那…すっすまねぇ…許して…」
するとヴィンセントはイデスの耳元から離れ鼻で笑った後、店の入り口に足を進めた。
「気にすることはない、どうせそれは金持ちの道楽しか買わない物だ」
「だっ旦那!」(助かった)
「お前の給料から減らせばいいことだ」
「旦那ー!」
イデスは崩れ去った。