第10話 仇討ち稼業

文字数 2,453文字

「まさかあんたが一緒に居るとは驚きだよ」
ヴィンセントと兄妹、そして町の入り口の前に長身で背中に太刀を背負った男が立ち塞がっていた。

「俺を追いかけている奴がいると聞いていたがまさかあの時のガキどもだったとは。しかしヴィンセント、あんたがこのガキどもと一緒に居るってことは手を組んだのか?俺と仕事した仲じゃねえか」
「ゼン、あんたの仕事は雑過ぎてコストパフォーマンスが悪すぎる。したがって私の経営方針とは異なる、よって今お前との契約を切る、悪いがここで死んでくれ、これもビジネスだ」
ゼンは腹を抑えながら笑った。
「あんた顔に似合わず冗談が上手いんだな、あんたの話す言葉はさっぱり分からないがこの俺を殺す?このガキどもか、それともあんたが俺を殺すのか。止めとけ、あんたはともかくガキどもを見殺しにさせるつもりなのか?笑わせるなその首飛ばすぞ」
ゼンは気配を豹変させた。
ヴィンセントは鼻で笑った。
「まさか、そこまで私も鬼ではない。見ての通りこのお二人では勝つ見込みがない、なので

が相手をする」
ヴィンセントは街道の先を指差した。
地平線から誰かが土埃をたてながら走って来た。
数分経ってようやく姿が見えてきた。
ホコリまみれの服に右手にはホウキを持った男が駆け寄ってきた。
「旦那…すいません…お待たせ…しました…」
息を切らして来たのは番頭のイデスだった。
「で、どいつをぶっ殺すですか?」
「イデス、そのホウキは何だ?」
「すまねえ旦那、旦那がお呼びだとサリーナに言われて掃除をすっぽかして急ぎで来たんですが、遅くなってすまねえ旦那」
ゼンは頭を抱えた。
「マジかよこの俺の相手がこんな奴なのか、そのホウキで俺をぶっ殺すと?舐めているのか本当、笑えない」
「てめえが相手か、いいぜ手加減してやる。ほら抜けよ」
イデスは煽った。
「これ以上笑わせるな!俺を侮辱する奴は生きて…」
ゼンは目にも留まらぬ速さで太刀手にかけた途端、凄まじい突風がゼンの真横を駆け抜けた。
突風の吹いた方向を見たゼンは驚愕した。
ゼンの真横の地面に大きな亀裂が町の中まで走っていた。
(一体何が…)
ゼンは何があったか分からなかった、ただ自分の頬から血が流れていた。
「やっベ外した」
声のする方を見た。
「イデス、ホウキを壊したな。給料から減らす」
イデスが持っていたホウキは粉々に壊れていた。
「すまねえ旦那、何せあいつが

だったんでつい…」
(ノロマ…この俺が…奴がやったのか、これを)
動揺が隠しきれない。
その間にイデスは道端に落ちている小枝を拾った。
「おいてめえ、次は当てるぞ」
イデスの気配が変わった。
「あり得ない…あり得ない!こんなのは絶対に…」
言い切る前にイデスはゼンの懐に飛び込んでいた。
(ありえ…)
ゼンの体が街中まで軽々と吹き飛んだ。
イデスが持っていた小枝はこれまた粉々に砕けた。
兄妹は自分たちが何を見せられているのか理解できなかった。

ホウキで地面に亀裂を…あんな細い枝で一撃で…

「よっしゃー終わった、旦那これでいいっすか?」
イデスはヴィンセントたちに駆け寄った。
兄妹たちは口を開けて震えていた。だがヴィンセントは凍りきった目でイデスを見つめていた。
「だ、旦那…」
(そんな目で見ないでくれ、怖すぎる…)
イデスは冷や汗が流れた。
「兄さん…」妹が口を開いた。
その声にイデスは正気に戻った。
「嘘…まだやる気なのか」兄が震えていた。
イデスは振り返った先にゼンは町の中心で血まみれの姿でふらつきながら立ち上がった。
「…あり得ない…この…俺が…刀を抜く前にやられるなんて…あり得ない…絶対にあり得ない!俺は最強だ!」
完全に頭に血が上っているようだ。
「あいつ以外に頑丈だな、旦那どうします?」
「決まっている。

、それが依頼だ」
ヴィンセントは身の凍る様な声でに答えた。
「俺は…この国一の剣豪だ!貴様ごときに負けるはずはない!」
イデスはため息をついた。
「まるで昔の俺を見ている様だ。イライラする、お前は何も分かっちゃいねえ」
イデスは辺りを見渡した。
「おいお前」イデスは兄を指差した。
「わ、私ですか?」
「それ刀だろう、貸せ」
「あ、でも…」
イデスは兄から無理やり奪った。
「大層なお飾りが着いてるじゃねえか」
ヴィンセントは頭を抱えた。
(また費用が…)
「俺は…俺は…俺こそ…最強だ!」太刀を構えた。


イデスは一歩も動かずその場で刀を一振りした。
振った刀の鞘が砕け、いぶし銀に輝く刀身が現れた。
「へ…やっぱりまぐれだ…俺こそがさいきょ…」
ゼンの背後の街灯の頭が倒れてた、切られたかの様に斜めに倒れた。それだけじゃなかった。
町の建物がイデスが振った角度に倒れていった。
「あんたは俺と同じ


ゼンの上半身が斜めに傾き倒れた。

これは現実なのか、兄妹たちは自分たちの目を信じられなかった。 


「ほら返す」イデスは兄に刀を放り投げた。
兄は慌てて受け取った、刀身の根元に兄妹(私たち)名が刻まれていた
(お父さん…お母さん…)
途端に刀身がバラバラに折れると共に兄妹は涙を流した。

ヴィンセントとイデスは馬車に乗って帰り道、ヴィンセントはイデスを罵声を浴びせていた。
「す、すまねえ旦那。本当に悪かった、許してくれ」イデスは泣きべそをかいていた。
「やってしまったのは仕方ない、今回は減給で許そう」ヴィンセントはイデスを睨んだ。
(その目は駄目だ、おっかねえ)
「今回の判断は私の落ち度もある、お前に剣を振るわせた私に責任がある」
「旦那、そんなにご自分を責めないで下さい

で剣を振ったんです。だからこれ以上責めないで下さい」
イデスは深々と頭を下げた。
その様子を見たヴィンセントはイデスに質問した。
「イデス、お前の

は何だ?」
イデスは頭を上げた。
「俺は…旦那みたいな商人になる事が夢です。俺は不器用で覚えも悪いがいつか絶対に旦那と肩を並べる商人になってみせます。もう俺は昔みたいな

じゃねぇ」
その話しを聞きヴィンセントは昔のイデスを思い出した。
「いや、まだお前は井の中の蛙だよ」

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登場人物紹介

ヴィンセント

黒のハットとスーツを着こなし右手に手錠で繋がった金属製の鞄をを常に持つイーター商会の代表取締役社長

目的の為なら手段をいとわない

彼の出生、過去、目的は不明

ミレーユ

世界一の商人を目指す少女

勝ち気で負けず嫌い、商売で困っている人たちを助けてあげる事を目標にしている

非情な商いをするヴィンセントを敵視している

一人で店を切り盛りしているマリーンを尊敬している

イデス イーター商会番頭 幹部

がさつで粗暴の荒いが義理人情に厚い

一度仲間だと認めた相手には優しいが、初対面の相手にはガンを飛ばすなど怒ると手がつけられない狂犬

常に店番をしている

ヴィンセントの命令には絶対服従

アルバート イーター商会傭兵 幹部

イーター商会専属の傭兵部隊「ガーコ」の隊長

屈強な体格と顔の傷を隠す様にサングラスを掛け、見た目は近寄りがたいが誰にたいしても優しく心優しいジェントルマン

己の肉体と隊員たちに愛のムチと言って日々、肉体と戦闘技術を鍛えた後甘い物を食べるのが日課

ヴィンセントに対して絶対的な信頼をよせている

ユース イーター商会霊媒師 幹部

中性的な容姿と顔立ちで初対面で会った相手は男か女かわからないほどの美青年

華奢な身体のわりに自分の背丈ある木片で作られた張りぼての棺を背負っている

誰にたいしても物腰が柔らかく、礼儀正しい

ヴィンセントには絶対的な忠誠を誓う

コレッティア イーター商会技術開発 幹部

海外から来た科学者兼技術者

極度の対人恐怖症で常に自分の研究室にひきこもっている

滅多に顔を出さないので商会内でも彼女の存在を知るものは少ない

彼女の知識・技術は今の帝国を遥かに凌駕する程

ヴィンセントには絶対的な信用を寄せている

サリーナ イーター商会社長秘書

ヴィンセントと社員のスケジュール管理、資料作成管理、時にはヴィンセントの留守の間社長代理を勤める

仕事意外の会話は一切せず、機械の様に仕事をこなす

社長のヴィンセントの指示には必ず従う

パム イーター商会運転手

いつも笑顔が絶えないイーター商会の専属運転手

十代ながら天才的な運転技術を持ち、目的地まで最速、安全に飛ばす。

マリーン コレリア雑貨店店主

老舗雑貨店を切り盛りしている魔女

主に薬草や医薬品、日用雑貨を中心に取り扱う

ヴィンセントとは長い付き合い

ユベール・ロッシュ・Jr.  探偵

ヴィンセントの義理の叔父

帝都の郊外で名前のない探偵事務所を運営している

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