第11話 古今無双の蛙
文字数 1,692文字
今日は
サリーナが言うには今日は来客の予定が無いのともし来ても今いる従業員で対応できると…
ある程度店先のゴミが集まってイデスは空を見た。
空は雲ひとつ無い澄み渡る快晴だった。
広い、果てしなく広い。本当に広い。
暫く空を眺めていたが先程から横から視線を感じる。
「てめぇさっきからなに見てやがる」
「あんたでしょう、こないだ私の得意先の町を滅茶苦茶にしたのは!」
ミレーユが籠を片手にしかめっ面で睨み付けていた。
「は?何の事だ」
「とぼけないでよ、町を
真っ二つ
に出きるのはあんたぐらいしかいないんだから!」「なんだ、そんなことかよ」
「なんだじゃないわよ、お陰でこっちは商談が破綻になったわ!」
「それで、文句言いに来たのか。暇なのか?」
「暇じゃないわよ!別の商談のついでに立ち寄っただけよ。あんたと違って店先で空を眺めている馬鹿とは違うわ」
「今、馬鹿と言ったかてめぇ」
イデスはミレーユに近づき目の前にたった。
「てめぇそういえばこないだ旦那の前で俺をこけにしやがったな、今日という今日は…」
何処から途もなく腹の虫がなった。
「あーもう昼時か」イデスが腹を擦った。
「ん、おめぇそれ」
イデスがミレーユの籠の中を覗いた。
「うまそうな物があるじゃねえか、おい寄越せ」
「ちょっと!」
イデスは籠の中身を素早く奪った。
「リンゴか?随分青いな」
「それね、今取引している農家さんが作った新種なの見た目は悪いけど味は…」
ミレーユが話している最中にイデスがリンゴに勢いよく丸かじりした。
「うめーなこれ!」イデスが大声をあげた。
「人の話し聞いてる?」
イデスは夢中にリンゴをかぶりき、リンゴの芯まで跡形もなく食べ終えた。
「あーうめぇ、これだけじゃ足りねぇもっと寄越せ」
「何であんたに…まあいいわ、どうせ売り物じゃないし」
その時、また何処からか腹の虫がなった。
「なんだ、おめぇも腹減ってるのか?」
「しっ仕方ないじゃない!お昼まだだったし…」
ミレーユは顔を赤らめた。
「仕方ないな、おめぇも食え」
「元々私のだし、それにあんたみたいに丸かじりなんて」
「なんだよどこぞのお嬢さん気取りかよ…そこ座ってろ」
イデスは店先の横に置いてある木製のベンチを指差した。
「どっかに適当な皿があったな」イデスは店の中に入っていった。
ミレーユは言われた通りにベンチに座った。
「今日はあんた一人なの?」
「旦那とサリーナは町の復興事業で出かけちまった、町を再開発の商談とか言ってたな。他の奴らも別件で今は俺と数人だけだ」
「そうなの、やっぱりあんた暇じゃないの」
「何言ってるだ、俺がいなきゃ誰が店を守るんだ」
「確かにここはあまり治安は悪いけどあんた達の店を襲おうとする馬鹿な奴らなんてそうそういないでしょ」
「また馬鹿と言いやがったな!」
「あんたじゃないわよ!」(やっぱ馬鹿だ)
暫くしてイデスは店から小皿を一枚持ってきてミレーユの横に置いた。その後枯れ葉の山を漁った。
「こんぐらいだろ」
イデスはミレーユの隣に座り皿にリンゴを置いた。左手には四枚の枯れ葉を持っていた。それを一枚右手で持ち、枯れ葉でリンゴを一直線になぞった。
それを三回、向きを変えてなぞり最後にリンゴのへたを中心に小さく円を書くようになぞった。
イデスはリンゴのへたをつまみ上げると芯の部分だけが抜けた。抜け終わるとリンゴは六等分に分かれて皿に広がった。そして皿も六等分に割れた
「あ、やり過ぎた。まあいいやほら食え」
その光景を見せられたミレーユはため息をついた。
「あんたって器用なのか不器用なのか分からないわ」
リンゴを食べながらミレーユはふと疑問に思った。
「ねえ、あんた昔
古今無双
って言われるぐらい凄腕の剣士だったんでしょう、何で商売してるの?しかもあんな奴の下で」「決まってるだろ、俺は
世界一の番頭
になるんだ。その為に旦那の元で世話になってんだ」「まるで忠犬ね」
「いや、俺は
蛙
だ」「カエル?何それ」
「旦那は俺に新しい夢をくれたのさ、この恩はぜってぇに忘れねぇ」
イデスはまたリンゴを丸かじりした。