第5話 商人の矜持

文字数 1,175文字

帝都から西へ車で二日、名前のないスラム街の一角にイーター商会は店を構えている。他の建物は木材を使っているが、我が店はレンガと漆喰でそれなりの佇まいだ。
「旦那のお帰りだ!」
番頭のイデスが怒鳴り声をあげた。
店の中にいた者たちが手を止め店の入り口に体を向けた。

ヴィンセントはゆっくりと店を見渡しながら入った。店の者は頭を下げた。
店内はところせましと商品が並ぶ。日用品、石鹸やランプ、衣服に食器等々。訳の分からない大きな壺や絵画も飾られている。全て売り物だ。
「諸君、滞りなくなく職務にあたっているか」
ヴィンセントは店の奥に進みながらイデスの話を聞いた。
「旦那お帰りなさいませ。店の方は問題ねえです、全て旦那の言いつけ通りに、だろう!オメーら!」
店の者はまた頭を下げた。
「サリーナは?」
「事務所で電話対応中です」
「他の者は?」
「アルバートは今日も仲間を連れて反乱軍に指導を、昨日電報で戦局はまちまちだと。ユースは帝都近くの村で依頼料の件でひと悶着があったと連絡が、コレッティアはいつもどうりで」イデスは一通り話した。

「そうか、お前はどうだ」ヴィンセントは言い返した。
「いや、なんも問題ありませんよ。全て順調ですよ」鼻を擦りながら台に置かれた巨大な壺に手で寄りかかった。
「ほんと完璧、全て問題解決、俺に掛かれば全て順調…」イデスがすらすらと自慢気に話しているとヴィンセントはイデスに近づき顔を近づけた。
「…す、全て、順調…」イデスは目を反らそうとしたがヴィンセントの目を反らす事ができなかった。吸い込まれる。

「イデス、何もなかった」
身の毛もよだつ、全てを見通せられている。
「…その…あの…」
目に飲み込まれた。
「…わ、割りました」
「なにを」恐怖しか感じない
「こ、こないだ取り寄せた外国の大皿を手が滑り割りました」
「イデス」身も心も凍る様な声
「旦那!」
イデスは素早く土下座をした。
「すみません旦那!俺が不器用もんで、すみません旦那、許してくれ!」
イデスは頭を床に擦り付けた。ヴィンセントはゆっくりとイデスの肩に手をかけこう言った。
「イデス、誰にも間違えがある。大事なのはそこから何を学ぶかだ。お前は何を学んだ、さあ何を学んだ」
「旦那…俺は」イデスは泣きべそをかいた。
ヴィンセントはイデスの両肩を掴み立たせた。
「今すぐ答えを言わなくてもいい。時間をかけてもいい、自分の答えを見つけろ」
少し笑みを浮かべているが目が笑ってない。
「旦那…すみません」
ヴィンセントは事務所に向かった。
「気にするな、皿はお前の給料から差し引く」
「旦那ー!」イデスは泣き叫んだ。
「それからその壺代も差し引く」
イデスが寄りかかっていた壺が台から倒れ粉々に砕けた。
「旦那ー!」イデスは崩れ去った。







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登場人物紹介

ヴィンセント

黒のハットとスーツを着こなし右手に手錠で繋がった金属製の鞄をを常に持つイーター商会の代表取締役社長

目的の為なら手段をいとわない

彼の出生、過去、目的は不明

ミレーユ

世界一の商人を目指す少女

勝ち気で負けず嫌い、商売で困っている人たちを助けてあげる事を目標にしている

非情な商いをするヴィンセントを敵視している

一人で店を切り盛りしているマリーンを尊敬している

イデス イーター商会番頭 幹部

がさつで粗暴の荒いが義理人情に厚い

一度仲間だと認めた相手には優しいが、初対面の相手にはガンを飛ばすなど怒ると手がつけられない狂犬

常に店番をしている

ヴィンセントの命令には絶対服従

アルバート イーター商会傭兵 幹部

イーター商会専属の傭兵部隊「ガーコ」の隊長

屈強な体格と顔の傷を隠す様にサングラスを掛け、見た目は近寄りがたいが誰にたいしても優しく心優しいジェントルマン

己の肉体と隊員たちに愛のムチと言って日々、肉体と戦闘技術を鍛えた後甘い物を食べるのが日課

ヴィンセントに対して絶対的な信頼をよせている

ユース イーター商会霊媒師 幹部

中性的な容姿と顔立ちで初対面で会った相手は男か女かわからないほどの美青年

華奢な身体のわりに自分の背丈ある木片で作られた張りぼての棺を背負っている

誰にたいしても物腰が柔らかく、礼儀正しい

ヴィンセントには絶対的な忠誠を誓う

コレッティア イーター商会技術開発 幹部

海外から来た科学者兼技術者

極度の対人恐怖症で常に自分の研究室にひきこもっている

滅多に顔を出さないので商会内でも彼女の存在を知るものは少ない

彼女の知識・技術は今の帝国を遥かに凌駕する程

ヴィンセントには絶対的な信用を寄せている

サリーナ イーター商会社長秘書

ヴィンセントと社員のスケジュール管理、資料作成管理、時にはヴィンセントの留守の間社長代理を勤める

仕事意外の会話は一切せず、機械の様に仕事をこなす

社長のヴィンセントの指示には必ず従う

パム イーター商会運転手

いつも笑顔が絶えないイーター商会の専属運転手

十代ながら天才的な運転技術を持ち、目的地まで最速、安全に飛ばす。

マリーン コレリア雑貨店店主

老舗雑貨店を切り盛りしている魔女

主に薬草や医薬品、日用雑貨を中心に取り扱う

ヴィンセントとは長い付き合い

ユベール・ロッシュ・Jr.  探偵

ヴィンセントの義理の叔父

帝都の郊外で名前のない探偵事務所を運営している

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