第12話 古今無双の蛙
文字数 868文字
五つの頃には村の道場の大人でも一振りで倒せた。型とか技とか覚える頭がなかったから適当に振るっていた。それだけで村には俺に勝てる奴はいなかった。
ある日、旅商人の団体が来た時その中に鍛冶屋と名乗る男が俺の手を見てこう言った。
「お前さんの手は面白いね~こんなの後にも前にもいないだろうよ、手に持つ物を極限を越えさせる手だ。棒切れ振るえば名のある刃を持った剣豪でも敵わないだろうよ」
男は笑っていた。
「極限を越えると物は壊れてしまう、どんな物でも一振りしかもたんだろうよ。これはお前さんの生まれ持っての
個性
だ。いつかお前さんの刀を打ってみたいもんだね」終始男は笑い、去る時までも笑っていた。
十の頃、国が主催する大会に出場した。その頃にはあちこちの村や町で強いとされる奴らと一戦交えたが一撃で倒した。勿論、大会も一振りで優勝した。簡単過ぎる。
その頃から
強さ
について考えていた。本当に自分は強いのか、それとも相手が弱いのか。馬鹿なりに考えたが全く分からなかった。
俺を越す、強い奴がいるはずだと。刃を何度も交えてそして倒す。それが俺の
夢
になった。十五の頃、国中を歩き回ったが誰一人、俺の相手をしなくなった。そして俺は国を出た。
軍からの誘いもあったが人の下につくのは性に合わないし、強い奴がこの国にはいない事が分かったからだ。
当時も今も国を出る事は難しいが、海外と取引している輸送船に忍び込んだ。十日ほどで着いた土地で手当たり次第、そこら辺の奴らに喧嘩を売った。
倒しては敗れた相手の武器を取り、その武器でまた違う相手を倒し、それを繰り返した。
いつの間にか戦争に巻き込まれていた時もあった、俺一人で国一つ相手にした事もあった。
だがどれも
一振り
で終わった。古今無双、いつの間にかそう呼ぶ奴らが出てきた。
別になんて呼ばれようが気にしなかった、ただ強い奴と戦いたい。自分を越える強い奴と一戦交えたい。それが夢だった。
地の果てまでたどり着くとまた元の道を戻る、それを繰り返して漸く気づいた。
この世に俺を越す強い奴がいない事に。