第8話 仇討ち稼業
文字数 1,255文字
町の片隅の喫茶店でヴィンセントは一組の男女と相席して話をしていた。
たまたま製薬会社を買収した帰りに立ち寄った町で道端で倒れこんだ男性とそれを介護する女性の姿を見かけて話しかけた所何やら訳ありな様だったのでこの喫茶店で商談を持ち掛けてみたのがきっかけだった。
「ごふっ、はい、どうか私たちの代わりに奴を殺して欲しいのです」男性が咳き込みながら話した。
咳の見方から肺を患っているようだ、食事も睡眠もろくにとれてないのだろう、身体は痩せ細り目にはくまが出来ている。
「お願いします、両親の仇を討ちたいのです」
男性は激しく咳き込んだ。女性が男性の背中を擦った。暫く男性は話せそうにない。
「私たち兄妹は両親と四人で暮らしていました。両親は貿易会社を経営していたのですが幼い頃両親を殺されたのです」
「それはそれはさぞかし大変でしたでしょう」
「はい、ずっと私たち兄妹だけで犯人を探してきました。そしてようやく私たちの両親を目の敵にしていた商人が剣客を雇って殺した事が分かりました」
「なるほど、では標的は雇った者とその剣客ですか?」
「…はぁ…はぁ…いいえ雇い主は見つけたのですが十年以上前に事故で亡くなっていました、殺して欲しいのは剣客の方です。奴は私たちの目の前で無抵抗の父と母の首を切り落としたのです…今でも思い出します」兄は呼吸を整えながら話した。
「心中お察し致します」おきまりのセリフを言った。
「その剣客ですか、今何処にいるか分かりますか?」
「ええ、二十年かけて妹と一緒に国中を探し回りました。奴は隣町にいるそうです。ですが…」
「どうしましたか?」
兄はまた激しく咳き込み始めた、持っているハンカチを口に当てて咳き込んだ、ハンカチには血が付いていた。
かなり重度の様だ。
「私がこの有り様で…、かなりの凄腕の持ち主らしく私たちでは相手にならないと思います」
「剣客の名前は分かりますか?」
「ゼンと言う者です。剣客では名の知れたものだと聞きます」
(ゼン…血まみれのゼンか、それは相手が悪い。並みの相手じゃ歯が立たない)
「分かりました、ではご予算の方はいかほどご用意できますか?」
兄妹たちは二人顔を合わせた。
人を殺す金額を分かっていないようだった。
「もしよろしければ私どもの料金プランを幾つかご提示致しますが」
兄か革袋を差し出した。
「二千ガリオン。今はこれしか、後はこの刀しか」兄は布でくるんでいた刀を出した。
「唯一の両親の形見です。残念ながら錆びて抜く事が出来ない物ですが」
「拝見させて頂きます」ヴィンセントは刀を手にした。
確かに抜く事が出来ない、だが鞘の金細工や埋め込まれたエメラルドの品質やカットも素晴らしい、柄の装飾も申し分もない、装飾品としては価値があるだろう。
「そうですね、もしこの刀を五千ガリオンで買わせていただければ合わせて七千ガリオン、それでお引き受け致しますがいかがでしょうか?」
兄妹たちは互いの目を見て心に決めた様だ。
「お願いします、どうか仇をとって下さい」
商談成立だ
ヴィンセントは笑みを浮かべた