第7話 商人の矜持
文字数 1,176文字
「あんたでしょ、小麦を買い占めて値を上げてるのは、白状しなさい!」
ヴィンセントに対して指を指した。
「小娘、また来たのか。暇なのか?こんな所で油を売ってどうする?そうか、商人だから油も売るのか」
少女の後ろからイデスが四つん這いで追いかけてきた。
「こ、このやろう…すみません旦那、こんな奴を入れさせてしまって」
急所を蹴られた様だ、まだ悶えている。
「気にするな、食力が失せただけだ」
ヴィンセントは指を鳴らした、直ぐにサリーナが現れヴィンセントの前に並ばれた食器を片付けて下がった。
「小娘、今お前に構っている暇はない。帰って自分の仕事をしろ、ここはお前の仕事場じゃない」
ヴィンセントは書類に目を通した。
「そうだ旦那は忙しいんだ、お前に構っている暇何かねぇんだよ」
イデスは何とか立ち直って少女の肩を掴んだ。
「ほら、さっさと帰れ」イデスはおもいっきり引っ張った。
「あんたは黙ってなさい!」思いっきり足でイデスの急所を蹴っ飛ばした。
イデスはその場で膝をつき
「それからあんた、私を少女呼ばわりしないで私にはミレーユって名前があるの」
「そうか小娘、用は済んだか?」
ミレーユの苛立ちが更に高まった。
「そうかじゃないわよ!あんたが小麦を買い占めるからこの町の人たちが困ってるの!みんなから食べ物を奪わないで!」
ヴィンセントは全く気にする事なく書類の山に目を通した。
そんなヴィンセントの態度にミレーユの苛立ちが限界に達した。
ミレーユは机に積まれた書類をなぎ倒した。
「いい加減にして!あんたには人の心がないの!今この時にも飢えて死んでいく人たちもいるのよ!あんたはそうやって見ぬふりをしてるだけなんでしょ!あんたはやっぱり『悪魔』よ!」
散らばった書類を目にしてヴィンセントはようやく口を開いた。
「そう言うお前は何をしている」
「何ってあんたに…」
「俺は今この時も商売をしている。市場を見て必要な物を調達し商品の流通や在庫を計算し、今必要最低限される時にお客に売り出す。お前はここで何を売っている?」
「わ、私は…」
「今飢えで苦しんでいる者に何をしている、見てるだけか?見てるだけで何もしない、それで商人と呼べるのか?」
何も言い返せなかった。
「動け、立ち止まった者には何もできない。貴様は何故ここで立ち止まっている」
「すいません旦那、こんな事は二度と起こしません」
イデスはまだ急所を押さえながらミレーユの後ろ姿を見送った。
「気にするな、多少時間の損失をしたがお前の給料から差し引けばいい事だ」
イデスはまた膝をつき意気消沈した。
「立ち止まっている暇などない。動かなければ我々には明日はない」
我々は…私は…必ずや成し遂げて見せよう