第1話 悪魔
文字数 673文字
男は町の大通りを堂々と中央を歩く。それに気づいた人々が今までしていた会話や作業を止めて男を見つめた。
この辺りでは絶対に見かけない服装、黒いハットとスーツ。それ以前に町人達が凝視したのは男の右手に持つ金属製の鞄らしきもの、しかも取っ手と男の手首に手錠が繋がれている。
男は町人達の目線を気にすること無く歩みを止めず、酒場に入った。酒場の中には十数人の客がいたが男が入るなり会話と動作を止めて男を見つめた。
男は気にすること無くカウンターの席に座った。
「ご注文は?」店主が決まり文句のように聞いた。
男は左手でカウンターをピアノを弾く様に叩いて少し間が空いた後、男は答えた。
「これからクライアントに会う前なんだ、だから酒を飲む訳にはいかないのでね」
クライアント?何だそれ…
店にいた全員が思った。
また男は左手でカウンターを叩いた後、続けて言った。「やはり店に入ったのに注文しないのは失礼だ、ウイスキーシングルを」
店主は手際よくショットグラスを用意してウイスキーを注ぎ男の前に置いた。
男はグラスに手をつけず、また左手でカウンターを叩いた。
「あんた、どっから来たんだ」
男の後ろにいた男性客が聞いてきた。
「見かけねえな、何しに来たんだ」立て続けに聞いてきた。
男はまだピアノを弾いている。
「なあ、あんた聞いてるのか」
男の指が止まった。その場にいる全員が不気味かがった。
男はグラスを手に取った。
「仕事ですよ」
言い終わると一気に飲み干した。