(9) 不適切な関係
文字数 1,380文字
「おい、もっとケツ上げろ」
立花絵里子 は四つん這いの姿勢から、さらに腰を強引に上げられ、膝と胸で身体を支えるような格好にさせられた。
「それにしても醜い傷だな。何回見ても萎えるんだよ。その傷痕さえなければ非の打ち所の無い良い身体なんだがな」
背中の傷を隠すようにバスタオルが投げつけられた。
父親を早くに亡くし、母一人子一人の家庭だったが、中学生のとき自宅が全焼し母親までもが死亡。絵里子は命に別状はなかったものの、背中に大きな火傷を負った。
「よし、いい眺めになった。じっとしてろ。撮影タイムだ」
背後でスマホのシャッター音が響く。
男、石本貴仁 はうしろからの行為を好むが、火傷の痕が見えると気分が悪いと言ってシーツやタオルで隠そうとする。今ではそんなことにもすっかり慣れっこになってしまった絵里子だが、愛情に疑念を抱き始めたきっかけではあったのかもしれない。
そのまま貫かれ、さらに背を反らしながら呻き声をあげた。
もはや嫌悪感しか抱かない相手だが、身体だけはすっかり馴染んでしまっている。嫌なのに、どんどんと昇り詰めていく。
「ほら、逝くときは逝くって言えよ」
嫌いな男に逝かされる屈辱。石本はそれを知っていて喜んでいるようだった。
彼は絵里子の職場の上司で、部長の地位にある。妻子もある。さらに今はまだ勤務時間中でもある。二人はいろんな意味で不適切が過ぎる関係だった。
「じゃあ、俺は行くから、少ししてから出ろ」
ことが終わればいつも石本が先に一人でホテルを出る。
石本は部長の立場を利用し、取引先へのおつかいに託 けて絵里子をホテルへ誘い出す。もうやめてくれ、別れて欲しいと何度頼んでも聞き入れてはもらえなかった。
「おまえの代わりになる女を連れてくれば別れてやるよ。強引に別れるっていうなら、おまえの恥ずかしい画像をネットにばら撒いてやる」
そうやって石本は絵里子を縛り付けていた。
「そもそも誘って来たのはお前の方じゃないか。冷たいこと言わずに、これからも仲良くやろうぜ」
これも石本がよく言う台詞であるが、あながち間違いではないから絵里子にも弱い部分がある。
今の会社に新卒で入り、部長の石本と出会った。環境に慣れ始めた頃、石本に惹かれる自分を意識した。石本はバリバリと仕事をこなすタイプだ。道無きところにも自分で道を造ってしまうブルドーザのような仕事ぶり。強引なのだが根回しが巧みで、要所要所で軋轢 を残さない。最初はそんなところも魅力に感じていたが、今ではただ身勝手で狡猾 な男にしか見えない。
好きになってはいけない。そう思うのは簡単だけれど、実際に好きにならずにいるのは難しい。部長の役に立ちたい、良い子だと思ってもらいたい。最初はその程度の感情だったものが、徐々に大きく重くなってしまう。
年齢の離れた男性に惹かれるようになったのは、父親を早くに亡くしてからだ。それが原因なのかどうか、自分ではよく分からない。ただ高校に入ってから教師ばかりを好きになる自分を自覚するようになった。初体験の相手も高校の教師だ。絵里子の方は本気だったものの卒業と同時に捨てられて、身体だけが目当てだったのだと悟った。
普通の恋をしよう。普通とは何かも分からないままそう決めて、同年代の男性とつき合ったこともあるけれど長続きはしなかった。
彼——神堂慧太朗と出会うまでは。
「それにしても醜い傷だな。何回見ても萎えるんだよ。その傷痕さえなければ非の打ち所の無い良い身体なんだがな」
背中の傷を隠すようにバスタオルが投げつけられた。
父親を早くに亡くし、母一人子一人の家庭だったが、中学生のとき自宅が全焼し母親までもが死亡。絵里子は命に別状はなかったものの、背中に大きな火傷を負った。
「よし、いい眺めになった。じっとしてろ。撮影タイムだ」
背後でスマホのシャッター音が響く。
男、
そのまま貫かれ、さらに背を反らしながら呻き声をあげた。
もはや嫌悪感しか抱かない相手だが、身体だけはすっかり馴染んでしまっている。嫌なのに、どんどんと昇り詰めていく。
「ほら、逝くときは逝くって言えよ」
嫌いな男に逝かされる屈辱。石本はそれを知っていて喜んでいるようだった。
彼は絵里子の職場の上司で、部長の地位にある。妻子もある。さらに今はまだ勤務時間中でもある。二人はいろんな意味で不適切が過ぎる関係だった。
「じゃあ、俺は行くから、少ししてから出ろ」
ことが終わればいつも石本が先に一人でホテルを出る。
石本は部長の立場を利用し、取引先へのおつかいに
「おまえの代わりになる女を連れてくれば別れてやるよ。強引に別れるっていうなら、おまえの恥ずかしい画像をネットにばら撒いてやる」
そうやって石本は絵里子を縛り付けていた。
「そもそも誘って来たのはお前の方じゃないか。冷たいこと言わずに、これからも仲良くやろうぜ」
これも石本がよく言う台詞であるが、あながち間違いではないから絵里子にも弱い部分がある。
今の会社に新卒で入り、部長の石本と出会った。環境に慣れ始めた頃、石本に惹かれる自分を意識した。石本はバリバリと仕事をこなすタイプだ。道無きところにも自分で道を造ってしまうブルドーザのような仕事ぶり。強引なのだが根回しが巧みで、要所要所で
好きになってはいけない。そう思うのは簡単だけれど、実際に好きにならずにいるのは難しい。部長の役に立ちたい、良い子だと思ってもらいたい。最初はその程度の感情だったものが、徐々に大きく重くなってしまう。
年齢の離れた男性に惹かれるようになったのは、父親を早くに亡くしてからだ。それが原因なのかどうか、自分ではよく分からない。ただ高校に入ってから教師ばかりを好きになる自分を自覚するようになった。初体験の相手も高校の教師だ。絵里子の方は本気だったものの卒業と同時に捨てられて、身体だけが目当てだったのだと悟った。
普通の恋をしよう。普通とは何かも分からないままそう決めて、同年代の男性とつき合ったこともあるけれど長続きはしなかった。
彼——神堂慧太朗と出会うまでは。