(21) 誘惑の美波
文字数 1,708文字
ドアがゆっくりと開くにつれて、暗かった部室内に淡い光が射しこんだ。
相手は何も言わないままだが、逆光線のシルエットで女子生徒らしいことは分かった。
「誰?」
シルエットは問いかけに応じず、沈黙を守ったまま部室内に入り背後でドアを閉めた。
すぐに目が慣れてシルエットははっきりと人の姿になった。
「みーちゃん……」
そこに立っていたのは霧田美波だった。
樋山は椅子から立ち上がった。
「どうしたの? 今日は部活もないはずだよね」
美波はいつになく寡黙で無表情だった。
そのまま一歩、二歩と近づいて来る。
様子がおかしいことから樋山がまず連想したのは、昼休みの告白がうまくいかなくて彼女が失恋したのではないかということだ。それで落ち込んでいるのではないかと。そして、どこかでその結果を望んでいた自分に少しの嫌悪を感じた。
「どうしたんだよ、みーちゃん?」
瞬き一つせず見つめてくるその瞳に、どこかいつもの美波とは違うものを感じるものの、その違和感の正体を掴みかねていた。
彼女は黙ったまま、さらに数歩分の距離を詰めたところでおもむろに口を開いた。
「……まーくん、わたしのこと、好き?」
「え? な、なに言ってるんだよ」
「ねえ、わたしのこと、好きなんでしょう?」
口元に薄っすらと怪しげな笑みを浮かばせた美波は、樋山をじっと見つめたままセーラー服のスカーフに手をかけた。
海道高校女子の制服は、スカートと襟、袖口がグレーのセーラー服だ。襟と袖には三本の白いラインが入っていて、スカーフは深い緑色だった。
今、そのスカーフが襟からゆっくりと抜き取られ、静かに床に落ちた。
「ちょ、ちょっと、みーちゃん、な、何やってんのっ?!」
慌てる樋山と対照的に、美波は落ち着き払っているように見える。口元からもまた笑みが消えて無表情に戻っている。
「わたしのこと……好きじゃないの?」
まるでロックオンでもされたかのように、美波の視線は樋山から離れない。樋山もその生気のない瞳から目を離せずにいたが、また美波の手が動いたのでそちらへ視線を落とした。
美波は上着のファスナーを開くと、そのまま躊躇なく上着を脱ぎ捨てた。
落ち着いたチョコレート色のキャミソールと白い肌のコントラストが激しい。キャミソールの下には淡いピンクのブラジャーがほんの少しだけ見えていた。
「みーちゃん、やめてよ。どうしたんだよ」
「やめて? 本当にやめて欲しいの? 嘘ばっかり。本当は全部脱いでほしいくせに。男の子って、みんなそうでしょ」
「い、いや。そうじゃないって」
美波がまた一歩踏み出して、樋山に近づいた。
距離を保とうとして後退りした樋山は、そこにあった椅子にぶつかり、そのまま美波の方を向いて腰掛ける格好になった。
「ふふ」
美波の表情が動いたが、それはまるでプログラムされたかのような微笑みだ。
座ったまま動けない樋山との距離を詰めた美波が、今度はスカートのホックに手をかけた。先ほどと同じように何の躊躇いもなくファスナーを下ろし手を離すと、スカートは静かに床に落ちた。
短いキャミソールの裾から伸びる白くて形のいい脚が眩しい。
いよいよ目のやり場に困って赤面し動揺する樋山を尻目に、感情のない笑みを浮かべた美波はスカートを踏み越えてさらに間合いを詰め、樋山のすぐ目の前に立った。
「ね、見たいんでしょう? 触りたいでしょう? いいんだよ、見て。触っても、いいんだよ」
美波は大胆にも座っている樋山を跨ぐようにしてその膝の上に腰を下ろした。両足を大きく開き、両腕は樋山の肩に乗せられている。
「恥ずかしいの? 顔、真っ赤だよ」
樋山の目の前には美波の胸がある。
抵抗しようにも美波のどこにも触れられないばかりか、どこを見ればいいのかすら分からず、あたふたするばかりだ。
「ね、キス、しようか」
美波の手が、樋山の両頬に添えられた。樋山の顔は美波の両手で少し上向きに固定され、顔を背けることもできなくなった。首を捻ろうとしても、びくともしないほどに強い力だった。
静かに顔が近づいて来る。幼い頃からよく見知っているその美しく整った顔が、今はまるで別人のもののように感じられた。
相手は何も言わないままだが、逆光線のシルエットで女子生徒らしいことは分かった。
「誰?」
シルエットは問いかけに応じず、沈黙を守ったまま部室内に入り背後でドアを閉めた。
すぐに目が慣れてシルエットははっきりと人の姿になった。
「みーちゃん……」
そこに立っていたのは霧田美波だった。
樋山は椅子から立ち上がった。
「どうしたの? 今日は部活もないはずだよね」
美波はいつになく寡黙で無表情だった。
そのまま一歩、二歩と近づいて来る。
様子がおかしいことから樋山がまず連想したのは、昼休みの告白がうまくいかなくて彼女が失恋したのではないかということだ。それで落ち込んでいるのではないかと。そして、どこかでその結果を望んでいた自分に少しの嫌悪を感じた。
「どうしたんだよ、みーちゃん?」
瞬き一つせず見つめてくるその瞳に、どこかいつもの美波とは違うものを感じるものの、その違和感の正体を掴みかねていた。
彼女は黙ったまま、さらに数歩分の距離を詰めたところでおもむろに口を開いた。
「……まーくん、わたしのこと、好き?」
「え? な、なに言ってるんだよ」
「ねえ、わたしのこと、好きなんでしょう?」
口元に薄っすらと怪しげな笑みを浮かばせた美波は、樋山をじっと見つめたままセーラー服のスカーフに手をかけた。
海道高校女子の制服は、スカートと襟、袖口がグレーのセーラー服だ。襟と袖には三本の白いラインが入っていて、スカーフは深い緑色だった。
今、そのスカーフが襟からゆっくりと抜き取られ、静かに床に落ちた。
「ちょ、ちょっと、みーちゃん、な、何やってんのっ?!」
慌てる樋山と対照的に、美波は落ち着き払っているように見える。口元からもまた笑みが消えて無表情に戻っている。
「わたしのこと……好きじゃないの?」
まるでロックオンでもされたかのように、美波の視線は樋山から離れない。樋山もその生気のない瞳から目を離せずにいたが、また美波の手が動いたのでそちらへ視線を落とした。
美波は上着のファスナーを開くと、そのまま躊躇なく上着を脱ぎ捨てた。
落ち着いたチョコレート色のキャミソールと白い肌のコントラストが激しい。キャミソールの下には淡いピンクのブラジャーがほんの少しだけ見えていた。
「みーちゃん、やめてよ。どうしたんだよ」
「やめて? 本当にやめて欲しいの? 嘘ばっかり。本当は全部脱いでほしいくせに。男の子って、みんなそうでしょ」
「い、いや。そうじゃないって」
美波がまた一歩踏み出して、樋山に近づいた。
距離を保とうとして後退りした樋山は、そこにあった椅子にぶつかり、そのまま美波の方を向いて腰掛ける格好になった。
「ふふ」
美波の表情が動いたが、それはまるでプログラムされたかのような微笑みだ。
座ったまま動けない樋山との距離を詰めた美波が、今度はスカートのホックに手をかけた。先ほどと同じように何の躊躇いもなくファスナーを下ろし手を離すと、スカートは静かに床に落ちた。
短いキャミソールの裾から伸びる白くて形のいい脚が眩しい。
いよいよ目のやり場に困って赤面し動揺する樋山を尻目に、感情のない笑みを浮かべた美波はスカートを踏み越えてさらに間合いを詰め、樋山のすぐ目の前に立った。
「ね、見たいんでしょう? 触りたいでしょう? いいんだよ、見て。触っても、いいんだよ」
美波は大胆にも座っている樋山を跨ぐようにしてその膝の上に腰を下ろした。両足を大きく開き、両腕は樋山の肩に乗せられている。
「恥ずかしいの? 顔、真っ赤だよ」
樋山の目の前には美波の胸がある。
抵抗しようにも美波のどこにも触れられないばかりか、どこを見ればいいのかすら分からず、あたふたするばかりだ。
「ね、キス、しようか」
美波の手が、樋山の両頬に添えられた。樋山の顔は美波の両手で少し上向きに固定され、顔を背けることもできなくなった。首を捻ろうとしても、びくともしないほどに強い力だった。
静かに顔が近づいて来る。幼い頃からよく見知っているその美しく整った顔が、今はまるで別人のもののように感じられた。