(3) 天文部の攻防3
文字数 1,459文字
気づいた里美が指先から液体を飛ばして防ごうとしたが、間一髪遅かった。床から跳ねた液体の一部——ほんの一滴だけが、美波の捲れ上がったスカートから覗く白い太腿 に張り付いた。
「きゃあっ!!」
美波は慌てて払おうとしたが、それはすぐに消えて無くなってしまったように見えた。
「よかった、消えたわ。すぐ乾いたみたい。何ともなさそう」
「違う。中に浸入 られた」
「え?」
「その程度の量なら、すぐには取り込まれないから大丈夫。でも急がなきゃ」
里美が阻止した方の液体は、床の上でのたうち回るような動きを見せていたが、先ほどと同じように暫くすると動かなくなった。
「とりあえず仕掛けるしかないか。お願いですから、ここでじっとしててくださいね」
美波は何度も頷きながら、スカートが捲れ上がるのも気にせず、先ほど液体が付着したあたりの腿 を懸命に手でこすっていた。
「おい、どうせわたしが目的なんだろう。この人には手を出すな。わたしが出て行く」
里美が机の陰から言葉を投げると、咲桜は不敵に笑った。
「どうせその女もこっちのものだ。でも大人しく言うことを聞くと言うのなら、助けてやってもいい」
——そんなつもりないくせに。
そう思いながらも口には出さず、里美はゆっくりと立ち上がった。
ここに瓜二つの容姿を持つセーラー服の美少女二人が対峙した。
「鏡を見てるみたいだね、中和泉咲桜さん」
「相変わらずの減らず口を」
そのとき、咲桜の背後の出入口に人影が動いた。先ほどの美波の悲鳴を聞いてタイミングをうかがっていた樋山が、咲桜に背後から飛び掛かったのだ。
「なにっ」
気づいた咲桜が樋山に振り向き、また手を振り上げた。
里美はその隙を逃さず、咲桜に向かって両手全ての指先を向けた。
樋山の顔には、咲桜が飛ばした液体がまともに付着した。
「うわっ、なんだ、これ」
だが、直後に里美が飛ばした大量の液体が、まるで液体のカーテンのごとく咲桜を覆うようにして捕らえていた。
「うぐっ!!」
咲桜は液体を振り解こうと懸命に身体を動かしているが逃れられそうもない。
その様子を見ながら、里美は樋山に駆け寄った。
「馬鹿っ。帰れって言ったのに」
「だって……、あれ? なんだ? あんなに濡れたと思ったのに」
樋山は自分の顔や頭を両手で撫で回すようにして確認するが、すでに咲桜に掛けられた液体の痕跡はどこにもなかった。
「よかった。何ともなさそうだ」
「ちっともよくない!」
里美がそう叫んだとき、ようやく樋山は異変を感じ始めた。
何かが頭の中に入り込んで来る。痛みなどはない。ただ違和感としかいいようのない不気味な感覚。脳みそを何者かにこねくり回されているような、あるいは脳に直接何かを注入されているかのような不快感。そんなものが徐々に表面から中心に向かって浸透していくようだった。
「な、なんなんだ……いったい……」
——すぐ楽になる。
両手で抱えた頭の中でそんな女性の声が聞こえたような気がしたとき、樋山は全身から力が抜けるのを感じた。
崩れ落ちるその身体を受け止めたのは里美だ。里美は膝の上に樋山の頭を載せて、しばし観察をしたが、樋山は目を見開いたまま反応を見せなくなった。
「まずいな。ちょっと多かったからしようがない。我慢してよ。わたしも我慢するから」
里美は自分の顔を樋山の顔に近づけた。
同じ頃、机の陰に隠れていた美波がそっと顔を出した。そこで美波が見たのは、床の上に横たわったまま動かなくなっている中和泉咲桜と、その向こうで膝に抱えた樋山に口づけをしている里美の姿だった。
「きゃあっ!!」
美波は慌てて払おうとしたが、それはすぐに消えて無くなってしまったように見えた。
「よかった、消えたわ。すぐ乾いたみたい。何ともなさそう」
「違う。中に
「え?」
「その程度の量なら、すぐには取り込まれないから大丈夫。でも急がなきゃ」
里美が阻止した方の液体は、床の上でのたうち回るような動きを見せていたが、先ほどと同じように暫くすると動かなくなった。
「とりあえず仕掛けるしかないか。お願いですから、ここでじっとしててくださいね」
美波は何度も頷きながら、スカートが捲れ上がるのも気にせず、先ほど液体が付着したあたりの
「おい、どうせわたしが目的なんだろう。この人には手を出すな。わたしが出て行く」
里美が机の陰から言葉を投げると、咲桜は不敵に笑った。
「どうせその女もこっちのものだ。でも大人しく言うことを聞くと言うのなら、助けてやってもいい」
——そんなつもりないくせに。
そう思いながらも口には出さず、里美はゆっくりと立ち上がった。
ここに瓜二つの容姿を持つセーラー服の美少女二人が対峙した。
「鏡を見てるみたいだね、中和泉咲桜さん」
「相変わらずの減らず口を」
そのとき、咲桜の背後の出入口に人影が動いた。先ほどの美波の悲鳴を聞いてタイミングをうかがっていた樋山が、咲桜に背後から飛び掛かったのだ。
「なにっ」
気づいた咲桜が樋山に振り向き、また手を振り上げた。
里美はその隙を逃さず、咲桜に向かって両手全ての指先を向けた。
樋山の顔には、咲桜が飛ばした液体がまともに付着した。
「うわっ、なんだ、これ」
だが、直後に里美が飛ばした大量の液体が、まるで液体のカーテンのごとく咲桜を覆うようにして捕らえていた。
「うぐっ!!」
咲桜は液体を振り解こうと懸命に身体を動かしているが逃れられそうもない。
その様子を見ながら、里美は樋山に駆け寄った。
「馬鹿っ。帰れって言ったのに」
「だって……、あれ? なんだ? あんなに濡れたと思ったのに」
樋山は自分の顔や頭を両手で撫で回すようにして確認するが、すでに咲桜に掛けられた液体の痕跡はどこにもなかった。
「よかった。何ともなさそうだ」
「ちっともよくない!」
里美がそう叫んだとき、ようやく樋山は異変を感じ始めた。
何かが頭の中に入り込んで来る。痛みなどはない。ただ違和感としかいいようのない不気味な感覚。脳みそを何者かにこねくり回されているような、あるいは脳に直接何かを注入されているかのような不快感。そんなものが徐々に表面から中心に向かって浸透していくようだった。
「な、なんなんだ……いったい……」
——すぐ楽になる。
両手で抱えた頭の中でそんな女性の声が聞こえたような気がしたとき、樋山は全身から力が抜けるのを感じた。
崩れ落ちるその身体を受け止めたのは里美だ。里美は膝の上に樋山の頭を載せて、しばし観察をしたが、樋山は目を見開いたまま反応を見せなくなった。
「まずいな。ちょっと多かったからしようがない。我慢してよ。わたしも我慢するから」
里美は自分の顔を樋山の顔に近づけた。
同じ頃、机の陰に隠れていた美波がそっと顔を出した。そこで美波が見たのは、床の上に横たわったまま動かなくなっている中和泉咲桜と、その向こうで膝に抱えた樋山に口づけをしている里美の姿だった。