(7) 美人姉妹入浴中
文字数 1,446文字
「ただいまぁ……」
里美は玄関のドアを開き、誰もいないはずの家の奥に向かって呟いた。
靴を脱ごうとして、姉のヒールに気づく。顔をあげると、バスルームから明かりが漏れている。微かにシャワーの音も聞こえた。
靴とコートを脱ぎ捨てるようにして駆け上がった。
「お姉ちゃん、帰ってたの?!」
脱衣所の扉を開けると、浴室のすりガラスに向かって呼びかけた。
「あー、サク、じゃない、サトミ、ただいま。帰って来たばっか」
間違いない。姉の声だった。
里美の姉、小田島花絵はひと仕事済ませてくるとだけ言い残して、三日ほど留守にしていた。
脱衣籠の蓋にはキャミソールとブラジャーが挟まって垂れ下がっており、紐なのか布なのか判別がつかないほどのTバックが浴室の扉の前に落ちている。全部黒だ。
「お姉ちゃん、脱いだものはちゃんと籠に入れなよ」
扉越しに説教しながら、里美も制服を脱ぎ始めた。
「ごめんごめん。お湯が溜まったらすぐに入りたかったのよ。あんたも寒かったでしょ。わたしが出たらすぐに入りな」
「やだ。一緒に入る!」
「はあっ? 冗談でしょ?」
「だって、お姉ちゃん、お風呂長いし」
里美はあっという間に全裸になって手際よく髪をうしろにまとめると、姉の下着も自分のものと一緒に丸めて籠に放り込んだ。
「背中流してあげるからさ」
この部屋を探すとき、花絵がこだわったのが浴槽だった。
『ちゃんと顎 まで浸かっても足が延ばせる広さが無きゃやだ』
そんなこだわりを譲歩せず、不動産屋と妹を困らせたのだ。
里美にしてみればどうでもいいことだった。もともとシャワーさえあればいい派だったし、そんなことよりも少しでも早く部屋を決めてしまうことの方が圧倒的に重要だった。
だが、住んでみればやはり広々とした浴槽は快適だ。
今、姉妹はそれぞれ浴槽の両端に背中を預け、伸ばした足が重ならないように左右に譲り合いながら、仲良く向かい合って湯に浸かっていた。
「ほんとに入って来るとは思わなかったよ。どんだけ子どもなんだよ」
「子どもじゃないし。寒かっただけだし」
花絵が遠慮のない視線を里美の身体に投げる。
「ふうん。まだまだおこちゃまみたいだけどね」
里美は顔を赤くして両腕で胸を隠した。
「うるさい。まだまだこれから大きくなるし」
「ほら。やっぱりまだまだ子どもだ」
笑いながら花絵が立ち上がって湯舟を出る。
花絵の方は同性の里美が見ても惚れ惚れするプロポーションだった。全体的に細身で、グラマーというのではないが、出て欲しいところがいい具合に出ていて、まだ発達途上の里美には羨ましい。
「わたしが洗い終わるまで湯舟でのぼせないようにしてなよ」
「大丈夫」
花絵は里美に背を向けて身体を洗い始めた。
里美はそのうしろ姿をぼうっと眺める。
花絵は身長が170に届く手前で止まったことを喜んでいたくらいには女性としては長身だ。無駄なものが一切ないシャープな身体の線が、同時に女性らしさも損なわない曲線と見事に共存している。
里美と出会った頃には背中まであった髪が、今はショートだ。
「やっぱり、背中流してあげるよ」
里美は湯舟を出ると、ボディ用のスポンジで姉の背中を優しく撫でるように洗い始めた。
瑞々しい肌が引き締まった肉体を覆っている。
かつて醜い火傷のあとがあったとはとても思えない、一点の染みもない白い背中。
その背中を見ると、里美は申し訳なさでいっぱいになる。それは里美にとって、花絵をキキョウとの争いに巻き込んでしまった象徴のようなものだからだ。
里美は玄関のドアを開き、誰もいないはずの家の奥に向かって呟いた。
靴を脱ごうとして、姉のヒールに気づく。顔をあげると、バスルームから明かりが漏れている。微かにシャワーの音も聞こえた。
靴とコートを脱ぎ捨てるようにして駆け上がった。
「お姉ちゃん、帰ってたの?!」
脱衣所の扉を開けると、浴室のすりガラスに向かって呼びかけた。
「あー、サク、じゃない、サトミ、ただいま。帰って来たばっか」
間違いない。姉の声だった。
里美の姉、小田島花絵はひと仕事済ませてくるとだけ言い残して、三日ほど留守にしていた。
脱衣籠の蓋にはキャミソールとブラジャーが挟まって垂れ下がっており、紐なのか布なのか判別がつかないほどのTバックが浴室の扉の前に落ちている。全部黒だ。
「お姉ちゃん、脱いだものはちゃんと籠に入れなよ」
扉越しに説教しながら、里美も制服を脱ぎ始めた。
「ごめんごめん。お湯が溜まったらすぐに入りたかったのよ。あんたも寒かったでしょ。わたしが出たらすぐに入りな」
「やだ。一緒に入る!」
「はあっ? 冗談でしょ?」
「だって、お姉ちゃん、お風呂長いし」
里美はあっという間に全裸になって手際よく髪をうしろにまとめると、姉の下着も自分のものと一緒に丸めて籠に放り込んだ。
「背中流してあげるからさ」
この部屋を探すとき、花絵がこだわったのが浴槽だった。
『ちゃんと
そんなこだわりを譲歩せず、不動産屋と妹を困らせたのだ。
里美にしてみればどうでもいいことだった。もともとシャワーさえあればいい派だったし、そんなことよりも少しでも早く部屋を決めてしまうことの方が圧倒的に重要だった。
だが、住んでみればやはり広々とした浴槽は快適だ。
今、姉妹はそれぞれ浴槽の両端に背中を預け、伸ばした足が重ならないように左右に譲り合いながら、仲良く向かい合って湯に浸かっていた。
「ほんとに入って来るとは思わなかったよ。どんだけ子どもなんだよ」
「子どもじゃないし。寒かっただけだし」
花絵が遠慮のない視線を里美の身体に投げる。
「ふうん。まだまだおこちゃまみたいだけどね」
里美は顔を赤くして両腕で胸を隠した。
「うるさい。まだまだこれから大きくなるし」
「ほら。やっぱりまだまだ子どもだ」
笑いながら花絵が立ち上がって湯舟を出る。
花絵の方は同性の里美が見ても惚れ惚れするプロポーションだった。全体的に細身で、グラマーというのではないが、出て欲しいところがいい具合に出ていて、まだ発達途上の里美には羨ましい。
「わたしが洗い終わるまで湯舟でのぼせないようにしてなよ」
「大丈夫」
花絵は里美に背を向けて身体を洗い始めた。
里美はそのうしろ姿をぼうっと眺める。
花絵は身長が170に届く手前で止まったことを喜んでいたくらいには女性としては長身だ。無駄なものが一切ないシャープな身体の線が、同時に女性らしさも損なわない曲線と見事に共存している。
里美と出会った頃には背中まであった髪が、今はショートだ。
「やっぱり、背中流してあげるよ」
里美は湯舟を出ると、ボディ用のスポンジで姉の背中を優しく撫でるように洗い始めた。
瑞々しい肌が引き締まった肉体を覆っている。
かつて醜い火傷のあとがあったとはとても思えない、一点の染みもない白い背中。
その背中を見ると、里美は申し訳なさでいっぱいになる。それは里美にとって、花絵をキキョウとの争いに巻き込んでしまった象徴のようなものだからだ。