rain sound-7

文字数 1,127文字

―◆―

 生徒会室の扉に「文化祭実行委員会本部」と明朝体で印刷された紙が貼ってある。
 中から出てきた青ざめた生徒に松下はいるのかと朱夏が訊くと「いる」とだけ答えて走って行ってしまった。
「しっれいしまーす…」
 朱夏が控えめに扉を開くと何人かの生徒がいた。
「だーかーらー、大丈夫だって!」
「こんなのケガのうちに入らないから」
「いやいやいや。ムリでしょ、それ」
「―さんも入院したって聞いてますし」
 朱夏は思わず首をすくめた。
 どうやらトラブルが発生しているらしい。
「代役立てるって言ってるでしょ」
「リーハ、リーハ、リーハ!!」
「ごめん、あか。ちょっともめてて」
 碧子が耳打ちしてきた。
「何部?」
「劇部」
 あぁと朱夏は思う。出演者が出られなくなって講演スケジュールの見直しをしていたのだろう。とはいえ、文化祭は文化部の三年生にとって引退に等しい最後の見せ場だ。そう簡単には譲れない事情がある。
「どうなるの」
 碧子に小さな声で訊く。
「代役が立てられれば予定通り。スケジュールの調整はこっちとしてもやりたくないよ」
「できないと?」
「どっかの部活に時間をやることになる」
「どっかって見つかるの」
「さっき吹部の牛島が来て圧力かけていったよ」
「なるほど」
「それで、あか。こんなトコまでどうしたの?」
「これ」
 アイスの袋を見せる。
「どしたの」
「食べる?」
「くれるなら食べるよ、そりゃあ」
 朱夏はガサガサと袋を開けてパピコを取り出した。パキンと二つに割って片方を碧子に渡す。
「今、ここで食べちゃおうよ」
 碧子は目の前のパイプ椅子を引くと朱夏に促した。
 目の前では男子生徒二人と女子生徒三人の言い争いが続いている。
「たいへんそうだねー」
 そうだよー。委員長やらなくて良かった」
「結構久しぶりだけど、まだ売ってたんだね。コレ」
「小さい頃はよく食べたよ。半分しか食べさせてくれなくって、いつか二つ食べてやるって思った」
「そうそう、二つ食べたときは大人だ! って思った」
 ちゅうとアイスを吸い上げる。
「こういう時ってやっぱり助っ人とかが現れて、劇部以上の演技とかしちゃうものなの?」
「バンドとかメンバー欠けて飛び入りが一日で弾けるようになっちゃうとか」
「奇跡だね」
「奇跡だよ」
 ダンッ!
 靴の底をたたきつける音がした。
「こりゃあ、そろそろ先生呼んでくるよ」
「そろそろ戻るね。ゴミどうしよっか」
「そこのゴミ袋に入れとく」
 碧子はさっと朱夏の手から空になった容器を取り上げると席を立った。

 6月24日 曇時々晴 文化祭前日 見かけた明朝体の文字数は十文字
 【文化祭実行委員会本部】
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登場人物紹介

龍蔵寺 朱夏(りゅうぞうじ しゅか)

図書委員会所属の高校3年生

愛称は【あか】


誕生日は11月18日


松下  碧子(まつした  みどりこ)

文化祭実行委員会所属の高校3年生

朱夏のクラスメート

色々と動じない性格

愛称は【みどり】


誕生日は2月27日

咲(さき)

朱夏のクラスメートで、高校3年生

好きな食べ物はノドグロ

スカートは膝丈!


誕生日は5月8日

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