rain sound-13
文字数 1,003文字
―◆―
学習室①にいると予想外に目立つ。
盗まれて困るようなものもないので勝手に出て行く。
東雲高は何が面白いのか死角がほとんどない。学校の周囲1キロは田んぼと畑だし、それを隔てる壁もすべてフェンスになっている。北と西は門があるから人目がある。東はグラウンドで、こんなときにのこのこ出て行ったら余計に怪しまれる。と、なれば残るは南側だ。
朱夏はB棟からC棟をつらぬく渡り廊下をC棟に向かって歩き始めた。
突き当たりに階段がある。左手は地学室を改装したPC室、右手には図書室がある。
なんとなく階段を登ってみる。11段上ったら踊り場でそこからさらに11段。全部で22段。
静かな空間があるのかと思ったら左手の美術室から怒号が響いた。
「あーっ!」
「なにやってんだよ!!!」
「どうすんの!?」
思わずのぞき込む。
裏側の木材をむき出しにしてカンバスが床に突っ伏している
やっちゃったんだ…と朱夏も同情する。
そろそろと持ち上げると油絵のコピーが床にくっきりと残っている。
美術部はぎりぎりまで絵を描いていたのだろう。完成を見ようとしたのか、運び出すところだったのかは分からないけれど、表の面を下にして床に倒れたと言うわけだ。
朱夏はそっと立ち去った。
渡り廊下は二階をつないでいるので行き止まり。向かいのLL教室からは英語部が英語劇の練習をしている雰囲気を読めば、下に降りるしかない。登ってきた22段を降りる。さらに22段。
一階に降りるとガラス越しに見える中庭で生徒が騒がしくしている姿は見えても、校舎の中は対象的に静かだった。上履きをキッと鳴らして後ろに向きなおると、ドアの向こうにはテニスコートがある。
朱夏はそのまま進むとガラス戸を押した。ガチと金属音がするだけで開かない。下のカギのノブを回して解錠する。
むっとした六月の空気が襲いかかってくる。
一歩踏み出すと雨上がりの葉っぱがキラキラと輝いている。
化学室の外壁に背を預けると、ベストがコンクリートにすりつけられる感触がした。
足を引き寄せ膝の上にあごを乗せて、テニスコートを眺める。穏やかな六月の午後だった。
この時間が永遠ならいいのにと、朱夏は願った。
6月24日 文化祭前日 化学室の前に干してあった雑巾の数18枚
美術部には同情
学習室①にいると予想外に目立つ。
盗まれて困るようなものもないので勝手に出て行く。
東雲高は何が面白いのか死角がほとんどない。学校の周囲1キロは田んぼと畑だし、それを隔てる壁もすべてフェンスになっている。北と西は門があるから人目がある。東はグラウンドで、こんなときにのこのこ出て行ったら余計に怪しまれる。と、なれば残るは南側だ。
朱夏はB棟からC棟をつらぬく渡り廊下をC棟に向かって歩き始めた。
突き当たりに階段がある。左手は地学室を改装したPC室、右手には図書室がある。
なんとなく階段を登ってみる。11段上ったら踊り場でそこからさらに11段。全部で22段。
静かな空間があるのかと思ったら左手の美術室から怒号が響いた。
「あーっ!」
「なにやってんだよ!!!」
「どうすんの!?」
思わずのぞき込む。
裏側の木材をむき出しにしてカンバスが床に突っ伏している
やっちゃったんだ…と朱夏も同情する。
そろそろと持ち上げると油絵のコピーが床にくっきりと残っている。
美術部はぎりぎりまで絵を描いていたのだろう。完成を見ようとしたのか、運び出すところだったのかは分からないけれど、表の面を下にして床に倒れたと言うわけだ。
朱夏はそっと立ち去った。
渡り廊下は二階をつないでいるので行き止まり。向かいのLL教室からは英語部が英語劇の練習をしている雰囲気を読めば、下に降りるしかない。登ってきた22段を降りる。さらに22段。
一階に降りるとガラス越しに見える中庭で生徒が騒がしくしている姿は見えても、校舎の中は対象的に静かだった。上履きをキッと鳴らして後ろに向きなおると、ドアの向こうにはテニスコートがある。
朱夏はそのまま進むとガラス戸を押した。ガチと金属音がするだけで開かない。下のカギのノブを回して解錠する。
むっとした六月の空気が襲いかかってくる。
一歩踏み出すと雨上がりの葉っぱがキラキラと輝いている。
化学室の外壁に背を預けると、ベストがコンクリートにすりつけられる感触がした。
足を引き寄せ膝の上にあごを乗せて、テニスコートを眺める。穏やかな六月の午後だった。
この時間が永遠ならいいのにと、朱夏は願った。
6月24日 文化祭前日 化学室の前に干してあった雑巾の数18枚
美術部には同情