rain sound-9

文字数 1,148文字

―◆―

「あめあめふれふれかあさんがー♪」
 どどどと音を立てて降る水を見ながら歌う
「じゃのめでおむかえうれしいなー♪」
 じゃのめって? と朱夏は思う。
 窓の桟にはてるてる坊主がぶら下がっている。
「てるてるぼうずてるぼうすあしたてんきにしておくれー♪」
 雨音がさざ波のように聞こえてくる。
 童謡というのは残酷だ。雨を止められなかったてるてる坊主がどうなるか。
 てててっと窓辺を離れて本の山に向かう。
 朱夏は少し嫌そうに顔をゆがめて、目についた一冊を手に取る。
 パララ…とめくっていくとページが途中で止まった。葉書が一枚はさんである。
 右手で引き抜いて左手に残った本を机に置く。
『西園寺鶫様』と宛名がある。
 ピラッと裏返す。
「あか、まいったよ」
 振り返ると入り口にさっき実行委員会に連行されていった碧子がいる。
「なに、ハガキ?」
 スタスタと近づいてくる。
「あ、うん」
「これってやっぱり?」
 朱夏は葉書の裏を碧子に見せる。
 大きく『入道雲』がかかれている。
「にゅうどうぐもだよ」
「にゅうどうぐもだね」
「夏だよ」
「夏だね」
「暑中お見舞い申し上げます」
「残暑お見舞い申し上げます」
 朱夏が言い直す。
「八月だよ?」
「立秋だね」
「スイカ食べたい。ヘチマ、朝顔、夏休み」
「スイカ、向日葵、蝉時雨」
「そういえばヒグラシの声って聞いたことない」
 外では雨がどどどと降っている。
 碧子も気まぐれに一冊取った。
「死に至る病」
「しにいたるやまい」
 朱夏は繰り返す。
「キルケゴール」
「きるけごぉる?」
「こっちにも紙がある」
 ピラと音がする。
「かたたたきけん」
つたない字を朱夏が読み上げる。
「つかおうか」
「つかえるの?」
 碧子が教壇の前にある椅子に背中をむけて座った。
 朱夏は肩甲骨の下に肘を思いっきり押し込んだ。
 声にならない声がした。
 ぐりぐりとねじ込んでいく。
 碧子が体を前に逃がした。朱夏の肘が肩から離れる。
「劇部はどうなったの」
 碧子は顔をしかめて必死に腕をうしろに回してさすっている。
「代役が間に合ったよ」
「それでどうにかなるの?」
「どうにもならないよ」
「どうにかしようね」
「あかが颯爽と」
「それはない」
「確か中学校の時って」
「手芸部だった」
「あのてるてる坊主はもしかして…」
「郡司先生が楽しそうに、そなたの首を~♪って歌いながら作ってた」
「まさか」
「まさかね」

6月24日 にわか雨 文化祭前日 てるてる坊主3つ
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登場人物紹介

龍蔵寺 朱夏(りゅうぞうじ しゅか)

図書委員会所属の高校3年生

愛称は【あか】


誕生日は11月18日


松下  碧子(まつした  みどりこ)

文化祭実行委員会所属の高校3年生

朱夏のクラスメート

色々と動じない性格

愛称は【みどり】


誕生日は2月27日

咲(さき)

朱夏のクラスメートで、高校3年生

好きな食べ物はノドグロ

スカートは膝丈!


誕生日は5月8日

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