rain sound-18

文字数 1,362文字

―◆―

 一昨日の事件についてそろそろ話そう。
 端的に言えばアレは事件とも言えたし、事故とも言えたし、事後処理が大変だったとも言えた。簡単に言おう。二年生が落ちたのだ。いや、落とされた、の方が正しいかもしれない。
 文化祭の準備の日はやはり校内が浮つく。ざわつくし、気分が高揚するから気持ちも大きくなってしまう。
 そんな中で事件は起こった。
 実を言うと朱夏は事件の終わりを見ていた。
 事件の後で碧子は事後処理と事情聴取で結構な時間拘束されていた。
 ここまでを語ればおわかりかと思う。

「あか」
「碧子、実行委は良いの?」
「なんとか」
「劇部の公演って今日だったよね」
「これからだよ。一応フィナーレだからね」
「何時から?」
「11時と16時だよ」
「そうなんだ。結局、碧子出るんだって?」
「は? どこからそんな話が?」
「言ってみただけ」
「あか。そういうこと言ってると、これやらないよ」
 碧子は手に持ったビニール袋を持ち上げる。茶色が透けて見えた。
「それは困る」
「咲から預かってきた。私にもちょうだい」
 ガサッと碧子は朱夏にビニール袋を渡す。まだ温かい。中をのぞくと焼きまんじゅうが二本と焼きそばが一パック入っていた。
「それから、消しゴム」 朱夏の手の中に落としてくる。
「焼きまんじゅうでいい?」
「いただこう」
 碧子は休憩用に黒板の前に置かれた椅子に座った。朱夏も隣に座り、中から焼きまんじゅうのパックを取りだした。輪ゴムを外してパカッと開くと良い香りがする。
「碧子、どっちにする?」
「こっちで良いよ」
 無造作に自分から近い方の串を持ち上げる。
 焼きまんじゅうは口のまわりじゅうをタレだらけにして大口で食べないとおいしくない。昔祖母がそう言っていた。 朱夏はこの歳になってもその食べ方でないとおいしくない気がする。年ごろの女の子としてはいかがなものかと思うけれど。
 バクッと噛みつく。やわらかい生地にタレの焦げた香りが香ばしく広がる。
「あか。はしたない」
 碧子はちびちびと食べている。
「やっぱりこうやって食べないと」
「中身は変わらないでしょうよ」
「それで碧子。一昨日の問題はどうなったの?」
「バカだよ。釣り堀に落ちるなんて」
「まさかね」
「あのあと大変だったよー。藤崎ちゃん来ないし、南埜はカンカンだし、私は事情知らないのに缶づめにされるし」
「救急車が来てたけど?」
「あれは近所を通っただけ」
「なんだ。つまんないの」
「つまんなくて良い。平凡な人生が最も生きにくい人生。中庸が肝要なんだよ」
「にしても、落としたんだって?」
「んー、聞いた感じだと投げ込んだって感じだけど」
「盛岡、大喜びじゃない。柔道部に勧誘しないと。一本背負い?」
「背負い投げ、かな」
「にしても。そんな騒ぎ止められなかったウチのクラスって…」
「二人がふざけて走ってきて、そのままもつれ合うようにって感じらしいから、止める暇もなかったってさ」
「言い訳だね」
「言い訳だよ」

 6月26日 雨 文化祭二日目 午前9:36 釣り堀の入場者累計243人。
 意外と盛況だな。
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登場人物紹介

龍蔵寺 朱夏(りゅうぞうじ しゅか)

図書委員会所属の高校3年生

愛称は【あか】


誕生日は11月18日


松下  碧子(まつした  みどりこ)

文化祭実行委員会所属の高校3年生

朱夏のクラスメート

色々と動じない性格

愛称は【みどり】


誕生日は2月27日

咲(さき)

朱夏のクラスメートで、高校3年生

好きな食べ物はノドグロ

スカートは膝丈!


誕生日は5月8日

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