rain sound-20
文字数 726文字
―◆―
「失われた時を求めて」はマルセル=プルーストが書いた傑作だ。
400字詰めの原稿用紙にすると10000枚を超える長編である。日本語版は全7巻。
喫茶店で漂った一杯のコーヒーの香りから、人生の回想の旅にでる壮大な物語である。
と、こんなことはさておき。
先ほどの男の子が持ってきたのはそのうちの5巻であったことに朱夏は焼きそばを食べながら引っかかっていた。
家庭科部がもやしで量を増やしていた。しかも半生が混じってる。
「劇部はどうだった?」
郡司先生が訊いてきた。
「ひゅじゅひかったでふ」
――ゴクン。
「涼しかったです」
「公演ができないところじゃなかったの?」
「キセキですね」
「キセキねぇ……フィナーレで演じるのはどうなりそうなの?」
「期待しない方が良いとは思います」
「そのときになれば分かるか。茶道部には行った?」
「茶道部?」
「和泉ちゃんが券買ってくれたのに来てないって探しにきたから」
「どこでやってるんでしたっけ?」
「合宿所でとか言ってたけど。ここはもういいから行って来たら?」
「はぁ…」
朱夏はあまり動きたくなかった。
こんなことを思っていると多分この後碧子が来るんだろうな、とか思っていると
「あか」と声がかかる。
「碧子」と顔を上げると玄ちゃんが立っている。
「さっき入り口で茶道部に券買わされちゃってさ!」
「行く。行けばいいんでしょ」
「行ってらっしゃい」本日二度目のお見送りの言葉をいただいて朱夏は玄を引きずるようにして教室を出た。
6月26日 文化祭二日目 雨 「失われた時を求めて」残り4冊 一冊は最初から行方不明。
「失われた時を求めて」はマルセル=プルーストが書いた傑作だ。
400字詰めの原稿用紙にすると10000枚を超える長編である。日本語版は全7巻。
喫茶店で漂った一杯のコーヒーの香りから、人生の回想の旅にでる壮大な物語である。
と、こんなことはさておき。
先ほどの男の子が持ってきたのはそのうちの5巻であったことに朱夏は焼きそばを食べながら引っかかっていた。
家庭科部がもやしで量を増やしていた。しかも半生が混じってる。
「劇部はどうだった?」
郡司先生が訊いてきた。
「ひゅじゅひかったでふ」
――ゴクン。
「涼しかったです」
「公演ができないところじゃなかったの?」
「キセキですね」
「キセキねぇ……フィナーレで演じるのはどうなりそうなの?」
「期待しない方が良いとは思います」
「そのときになれば分かるか。茶道部には行った?」
「茶道部?」
「和泉ちゃんが券買ってくれたのに来てないって探しにきたから」
「どこでやってるんでしたっけ?」
「合宿所でとか言ってたけど。ここはもういいから行って来たら?」
「はぁ…」
朱夏はあまり動きたくなかった。
こんなことを思っていると多分この後碧子が来るんだろうな、とか思っていると
「あか」と声がかかる。
「碧子」と顔を上げると玄ちゃんが立っている。
「さっき入り口で茶道部に券買わされちゃってさ!」
「行く。行けばいいんでしょ」
「行ってらっしゃい」本日二度目のお見送りの言葉をいただいて朱夏は玄を引きずるようにして教室を出た。
6月26日 文化祭二日目 雨 「失われた時を求めて」残り4冊 一冊は最初から行方不明。