rain sound-8
文字数 1,202文字
―◆―
「……」
朱夏はあきれているのかおどろいているのか感情がないのかよくわからないまま目の前の光景を目に入れていた。
「流しそうめんの再来ね」
「……」
さっき通った時に作っていた看板が大きく掲げられ、電気の無駄遣いもここまで行くといっそすがすがしいと思うくらいに電灯が煌々とこれでもかってついている。
「今回のテーマは『エコロジーLOVE。』じゃないの?」
「エコロジー…」
朱夏はぶんぶんと頭を振った。
『教職員にお知らせします。これより西門前にアーチを設置します。お手すきの方は集合してください』
ブチッ。
「今回はどんなアーチかな」
「三年に一度だから前の文化祭知らないですし」
「図書室にアルバムがあるから後で見たら?」
「時間が合ったら見てみます」
『郡司先生』
入り口にエプロン姿の二人組が立っている。
「なぁに」
「家庭科部です。試作品持ってきました」
タタタッと郡司先生は駈け寄るとパックを受け取り、レジ代わりの机に置くとそのまま黒板を眺めている。
「どうしました?」
「これ遠野さんが書いてくれたんだけど」
黒板には大きく「古本市」と結構な達筆で書かれている。
「なにか足りないものが?」
「わからぬ。なにも分からずに生きていくのが我々生き物の定めだ」
「李徴ですか…」
朱夏は二年生の時にやった『山月記』を思い出していた。
「遠傪でしたっけ?」
「何事かを成すにはあまりにも短く、何事をも成さぬにはあまりにも長い」
「あの…?」
「人生は一度きり、だからね」
「……」
「そこで、これをもう少しなんというかこう、まあ変えて欲しいんだけど、誰かいる?」
朱夏は天井を見上げた。今日も安っぽいパネルが広がっている。
「思いつきません」
下から悲鳴が聞こえた。朱夏は好奇心でベランダに駈け寄りのぞき込んだ。
ブロックの一部が崩れ、水の重さでブルーシートが傾いて中に溜めていた水が流れ出している。決壊が始まっていた。一瞬で黒い部分が広がっていく。
「大丈夫?」
朱夏は大きな声で叫ぶ。
咲がキョロキョロと見回して上に朱夏の姿を認めると手を振った。
「あはは、大丈夫」
「朱夏もくるー」
「助けに行こうか?」
困った口調で言い返す。
隣のクラスから南埜先生が飛び出してきて『実行委員と藤崎先生はどこ行った!?』などとわめいている。
水浸しになった庭にふわりと波紋が広がる。
「降ってきた」
「ヤバいよ」
「片付けー!」
大声を上げながらあわただしく片付けが始まっている。明日適当に直すのだろう。
見上げると覆い被さる雲から伸びた白い筋がスッスッと増えていく。
6月24日 にわか雨 文化祭前日 流れた水247リットル超
損失は藤崎先生へ請求
「……」
朱夏はあきれているのかおどろいているのか感情がないのかよくわからないまま目の前の光景を目に入れていた。
「流しそうめんの再来ね」
「……」
さっき通った時に作っていた看板が大きく掲げられ、電気の無駄遣いもここまで行くといっそすがすがしいと思うくらいに電灯が煌々とこれでもかってついている。
「今回のテーマは『エコロジーLOVE。』じゃないの?」
「エコロジー…」
朱夏はぶんぶんと頭を振った。
『教職員にお知らせします。これより西門前にアーチを設置します。お手すきの方は集合してください』
ブチッ。
「今回はどんなアーチかな」
「三年に一度だから前の文化祭知らないですし」
「図書室にアルバムがあるから後で見たら?」
「時間が合ったら見てみます」
『郡司先生』
入り口にエプロン姿の二人組が立っている。
「なぁに」
「家庭科部です。試作品持ってきました」
タタタッと郡司先生は駈け寄るとパックを受け取り、レジ代わりの机に置くとそのまま黒板を眺めている。
「どうしました?」
「これ遠野さんが書いてくれたんだけど」
黒板には大きく「古本市」と結構な達筆で書かれている。
「なにか足りないものが?」
「わからぬ。なにも分からずに生きていくのが我々生き物の定めだ」
「李徴ですか…」
朱夏は二年生の時にやった『山月記』を思い出していた。
「遠傪でしたっけ?」
「何事かを成すにはあまりにも短く、何事をも成さぬにはあまりにも長い」
「あの…?」
「人生は一度きり、だからね」
「……」
「そこで、これをもう少しなんというかこう、まあ変えて欲しいんだけど、誰かいる?」
朱夏は天井を見上げた。今日も安っぽいパネルが広がっている。
「思いつきません」
下から悲鳴が聞こえた。朱夏は好奇心でベランダに駈け寄りのぞき込んだ。
ブロックの一部が崩れ、水の重さでブルーシートが傾いて中に溜めていた水が流れ出している。決壊が始まっていた。一瞬で黒い部分が広がっていく。
「大丈夫?」
朱夏は大きな声で叫ぶ。
咲がキョロキョロと見回して上に朱夏の姿を認めると手を振った。
「あはは、大丈夫」
「朱夏もくるー」
「助けに行こうか?」
困った口調で言い返す。
隣のクラスから南埜先生が飛び出してきて『実行委員と藤崎先生はどこ行った!?』などとわめいている。
水浸しになった庭にふわりと波紋が広がる。
「降ってきた」
「ヤバいよ」
「片付けー!」
大声を上げながらあわただしく片付けが始まっている。明日適当に直すのだろう。
見上げると覆い被さる雲から伸びた白い筋がスッスッと増えていく。
6月24日 にわか雨 文化祭前日 流れた水247リットル超
損失は藤崎先生へ請求