rain sound-4
文字数 1,347文字
―◆―
朱夏は黒板を写している。
今は朱夏の苦手科目、英語の時間だった。
去年の修学旅行で京都に行った時、外国人に話しかけられてかろうじてtimeの単語で時間を尋ねているのは分かったから時計をみせてごまかした。
一応は進学希望だからとりあえず英語は必要だと認識はしている。でも認識する事と出来る事とは意味が違う。
あっと口を開いてから朱夏は消しゴムを取り上げてさっき書いた単語を消す。
ピーターラビットとナショナルトラストについての文章のようだけれど、正直関心が持てない。英語が出来れば分かるのかと言われれば、それさえも覚束ない。どちらが先で、後なのか朱夏にはよく分からない。
「松下、ここ訳してみろ」
碧子がすらすらと訳すのを聞く。かっこいいなぁ…と思う。
「先生」
男子が手を上げた。
「文化祭の準備して良いですか?」
「なんだ、終わりそうにないのか」
「はい」
「まぁ良いか。静かにやれよ」
「やった」
叫ぶ声がして教室中がざわつく。
朱夏は立ち上がらず頬杖をついて窓の外に視線を向けた。大きなケヤキの樹とその周りにベンチが据えつけられている。
朱夏の目が見開かれ、瞬きをしてもう一度見る。
「どうしたの」
目の前に碧子がいた。
「さっきあそこに白いセーラー服着た女の子が…」
「いないよ」
「だよねぇ」
これはやっぱりあれか? 文化祭の前に現れるとかいうやつなのか? などとくだらない妄想に引きずられていく。
「あか」
ポコンと碧子が朱夏の頭をノートではたく。
「碧子」顔が近い。
「少しは手伝うそぶりくらいしてよ。さすがにさ」
「と言っても何をすれば良いのか」
「これ切って」
碧子から黄色と水色の色紙を渡された。格子状の線が印刷されている。
「カッターで良い?」
「良いよ。全部だよ」
「了解」
カッターをペンケースから取り出して短冊状に切り分けていく。
前の席に座ってハサミで同じ作業をしている碧子に尋ねる。
「これってなに?」
「入場券」
「こんなに来るの?」
「さぁ? 男どもが用意しろって言ったから用意しただけ」
つまらなそうにチョキチョキと切っている。
「結局なにをするの?」
「よく分かんない」
「碧子が分かんないんじゃ誰も分からないんじゃ…」
「これが買い出しリスト」
朱夏がのぞき込むと
コンクリートブロック-○個
ブルーシート-○枚
ベニヤ板-○枚
あゆ-○匹
…
「あゆ…? って魚の? 塩焼き?」
「いや、模擬店は禁止だよ」
「よく分かんないけど、藤崎先生よく許可したね」
「あの人、当日は招待試合でいないんだよ。どうでも良いって思ったんじゃない」
「招待試合?」
「この間配られたしおりくらい読んでよ。実行委で作ったんだから。野球、サッカー、あとはバスケかな。他校を呼んで試合する予定」
みどりーと遠くから呼ばれて「いまいく」と返してから、つつつと舞うように碧子は行ってしまった。
朱夏は手を休めると再び外に目を向けた。
空を見上げると少し雲がかっている。明日から雨の予報だった。
文化祭は明後日から二日間開催の予定である。
6月23日 曇 作った入場券300枚
当日の出し物は謎。
朱夏は黒板を写している。
今は朱夏の苦手科目、英語の時間だった。
去年の修学旅行で京都に行った時、外国人に話しかけられてかろうじてtimeの単語で時間を尋ねているのは分かったから時計をみせてごまかした。
一応は進学希望だからとりあえず英語は必要だと認識はしている。でも認識する事と出来る事とは意味が違う。
あっと口を開いてから朱夏は消しゴムを取り上げてさっき書いた単語を消す。
ピーターラビットとナショナルトラストについての文章のようだけれど、正直関心が持てない。英語が出来れば分かるのかと言われれば、それさえも覚束ない。どちらが先で、後なのか朱夏にはよく分からない。
「松下、ここ訳してみろ」
碧子がすらすらと訳すのを聞く。かっこいいなぁ…と思う。
「先生」
男子が手を上げた。
「文化祭の準備して良いですか?」
「なんだ、終わりそうにないのか」
「はい」
「まぁ良いか。静かにやれよ」
「やった」
叫ぶ声がして教室中がざわつく。
朱夏は立ち上がらず頬杖をついて窓の外に視線を向けた。大きなケヤキの樹とその周りにベンチが据えつけられている。
朱夏の目が見開かれ、瞬きをしてもう一度見る。
「どうしたの」
目の前に碧子がいた。
「さっきあそこに白いセーラー服着た女の子が…」
「いないよ」
「だよねぇ」
これはやっぱりあれか? 文化祭の前に現れるとかいうやつなのか? などとくだらない妄想に引きずられていく。
「あか」
ポコンと碧子が朱夏の頭をノートではたく。
「碧子」顔が近い。
「少しは手伝うそぶりくらいしてよ。さすがにさ」
「と言っても何をすれば良いのか」
「これ切って」
碧子から黄色と水色の色紙を渡された。格子状の線が印刷されている。
「カッターで良い?」
「良いよ。全部だよ」
「了解」
カッターをペンケースから取り出して短冊状に切り分けていく。
前の席に座ってハサミで同じ作業をしている碧子に尋ねる。
「これってなに?」
「入場券」
「こんなに来るの?」
「さぁ? 男どもが用意しろって言ったから用意しただけ」
つまらなそうにチョキチョキと切っている。
「結局なにをするの?」
「よく分かんない」
「碧子が分かんないんじゃ誰も分からないんじゃ…」
「これが買い出しリスト」
朱夏がのぞき込むと
コンクリートブロック-○個
ブルーシート-○枚
ベニヤ板-○枚
あゆ-○匹
…
「あゆ…? って魚の? 塩焼き?」
「いや、模擬店は禁止だよ」
「よく分かんないけど、藤崎先生よく許可したね」
「あの人、当日は招待試合でいないんだよ。どうでも良いって思ったんじゃない」
「招待試合?」
「この間配られたしおりくらい読んでよ。実行委で作ったんだから。野球、サッカー、あとはバスケかな。他校を呼んで試合する予定」
みどりーと遠くから呼ばれて「いまいく」と返してから、つつつと舞うように碧子は行ってしまった。
朱夏は手を休めると再び外に目を向けた。
空を見上げると少し雲がかっている。明日から雨の予報だった。
文化祭は明後日から二日間開催の予定である。
6月23日 曇 作った入場券300枚
当日の出し物は謎。