rain sound-5

文字数 1,051文字

―◆―

 朱夏は手すりで組んだ腕にあごを乗せてベランダのから下を覗いていた。
 中庭の中で一段たかくブロックが積まれたステージ状になっているところに吹奏楽部が陣取っている。
 視線を右にずらせば大量のコンクリートブロックを組み上げている生徒達の姿がある。朱夏のクラスだった。
「龍蔵寺さん、あれはなに?」
「さあ、なんなんでしょう…入場券は作りました」
「藤崎クラスは前もとんでもないことしてたから」
「?」
「流しそうめん」
「よく許可出ましたね」
「タダだから大丈夫ってことで」
「食品だめって聞きました」
「藤崎クラスは謎ルート持ってるから。それより本当に大丈夫なの? 当番とか」
「碧子には大丈夫って言われてますし、そもそもシフトに入ってません」
「それならいいけど」
 郡司先生に続いて朱夏も中に入る。 古本市の準備はすべて終わっている。
 教室の真ん中に机を寄せて四つの島を作り、それぞれに本が山積みになっている。 ほとんどが生徒から集めたものだけれど、図書館で古くなって除籍された本もある。これはタダで持って行ってもらう。
 出口に簡単に設けられたレジのところに座る。
 廊下側の窓から見える景色は文化祭そのもの。
 ポスターを貼っては次の場所に走って行く背中が見えた。
 朱夏は雑音を耳に入れながら、なにかトラブルが起こらないかなぁとぼんやりと不謹慎なことを考えていた。
 ドラマや本や漫画で描かれる文化祭は不思議の国そのもので、前泊したりすると幽霊が現れたり、異世界に飛ばされたりするのだ。
 ほうっとため息をつく。
 積まれた本を見て朱夏はもう少しなにかないものかなぁと思う。
 教室には朱夏の他に郡司先生と二年生が二人いてキャッキャッと楽しそうにしている。
「郡司先生、売り上げってどうなるんですか」
「全額返金」
「私たちに還元とかは…」
「家庭科部が出す屋台の食券500円分」
「はぁ」
「龍蔵寺さんも一生に一回なんだからまわってきたら。準備が見られるの貴重だし」
「……」
 郡司先生の方を見るとあからさまに『行ってらっしゃい』オーラが漂っている。
 朱夏は重々しく立ち上がった。
「そこらへんぶらついてきます」
 廊下に出ると雑音が圧になって襲ってきた。
「こういうやる気オーラは苦手だな」ぽつりと朱夏はつぶやく。

 6月24日 曇 文化祭前日 古本市で用意した古本952冊

 売れ残りは必至
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登場人物紹介

龍蔵寺 朱夏(りゅうぞうじ しゅか)

図書委員会所属の高校3年生

愛称は【あか】


誕生日は11月18日


松下  碧子(まつした  みどりこ)

文化祭実行委員会所属の高校3年生

朱夏のクラスメート

色々と動じない性格

愛称は【みどり】


誕生日は2月27日

咲(さき)

朱夏のクラスメートで、高校3年生

好きな食べ物はノドグロ

スカートは膝丈!


誕生日は5月8日

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