rain sound-21
文字数 708文字
―◆―
にがい。そして熱い。
猫舌なのを意識させられるのはこういう時だ。
「先輩…」しかめた顔をしていると和泉ちゃんが「お菓子から食べるんですよ」と笑って言う。
なるほど。にがさを打ち消すために甘いものを食べるのではなく、先に口の中を甘くしておくのか。
となりで玄ちゃんがすましている。お茶菓子はもうない。
「どう? 青春の苦さが分かった?」などと言ってくる。
できればほろ苦いくらいで終わりにしてほしい。
「青春とはうら淋しく、陰鬱なものである」
「なによ、それ」
「どくとるマンボウ」
「航海記?」
「青春記。松本平をうすい霧が覆っていく。そういう風景である」
「朝霧か」
「夜霧かも」
「狭霧か」
「霧雨かも」
「それは霧じゃない」
そんな会話をしているうちにお茶が下げられていた。
「朱夏、あんたこれからどうするの?」
「そろそろ古本市の片づけを始める時間だから教室に戻る」
「そう。あたしはどうしよっかな」
「後夜祭は部外者立ち入り禁止」
「つまんないの。あんた制服貸しな」
「は?」
「それであんたがこれ着て帰る」
自分の服の胸元をつまんでバカなことを言い出す。
「んな!…んなバカな事言ってる暇があるなら香風の文化祭行けばいいでしょ!あそこはOGなら参加できるって」
「十分参加したから、もういいかなって」
「さっさとどっか行けっ!」
朱夏は足がしびれて動けなくなった玄を置いて立ち上がると、出口に向かってスタスタと歩き出した。
6月26日 雨 文化祭二日目 和泉ちゃんの浴衣の朝顔の数は8つ 大きな柄が鮮やかだった
にがい。そして熱い。
猫舌なのを意識させられるのはこういう時だ。
「先輩…」しかめた顔をしていると和泉ちゃんが「お菓子から食べるんですよ」と笑って言う。
なるほど。にがさを打ち消すために甘いものを食べるのではなく、先に口の中を甘くしておくのか。
となりで玄ちゃんがすましている。お茶菓子はもうない。
「どう? 青春の苦さが分かった?」などと言ってくる。
できればほろ苦いくらいで終わりにしてほしい。
「青春とはうら淋しく、陰鬱なものである」
「なによ、それ」
「どくとるマンボウ」
「航海記?」
「青春記。松本平をうすい霧が覆っていく。そういう風景である」
「朝霧か」
「夜霧かも」
「狭霧か」
「霧雨かも」
「それは霧じゃない」
そんな会話をしているうちにお茶が下げられていた。
「朱夏、あんたこれからどうするの?」
「そろそろ古本市の片づけを始める時間だから教室に戻る」
「そう。あたしはどうしよっかな」
「後夜祭は部外者立ち入り禁止」
「つまんないの。あんた制服貸しな」
「は?」
「それであんたがこれ着て帰る」
自分の服の胸元をつまんでバカなことを言い出す。
「んな!…んなバカな事言ってる暇があるなら香風の文化祭行けばいいでしょ!あそこはOGなら参加できるって」
「十分参加したから、もういいかなって」
「さっさとどっか行けっ!」
朱夏は足がしびれて動けなくなった玄を置いて立ち上がると、出口に向かってスタスタと歩き出した。
6月26日 雨 文化祭二日目 和泉ちゃんの浴衣の朝顔の数は8つ 大きな柄が鮮やかだった