rain sound-11
文字数 896文字
―◆―
物語が行き詰まってくると登場人物が増えるような気がする。
一人芝居というジャンルがある以上、登場人物は一人いれば充分だ。
『小説にならない人生などない。 』芦田はそう言っていた。
朱夏の人生は至って平凡なものだと思う。発電関係の機械製造会社に勤務する父と原子力関係の技術者の母、二つ年上で名古屋の大学に通っている姉がいる。 公立の小中学校を出て、ちょっとだけ勉強して市内で三番手の進学校らしい高校に入った。総合学科と言われる学科だったけれど、特に他の学校と変わらない。 と、ここまで考えて朱夏はやっぱり小説になどなりそうにないなと思う。
「あか」
うううう…と朱夏は顔を曇らせる。やっぱりこうくるのかとも思う。
「玄ちゃん! 帰ってきてたの?」
「姉に向かってその言い方はないなぁ」
「なにしにきたの?」
「暇だったから様子見に来た」
そう言って玄は自動車のキーをちゃらりと鳴らす。
「ウチもそうだったけどイマイチ盛り上がりにかけるね」
「香風は他にいろいろあるでしょ」
「この時期はメイポールダンスやって疲れ切ってる」
「香風も明日からだって聞いたけど」
「ふぅん」
玄は朱夏に近寄るとふいに頭をなでた。
「子ども扱いしないで」
「子どもだから」
「じゃない」
「子どもじゃない。アレ」
てるてる坊主を指さす。
「あれは郡司先生が作ったの!」
「そうなの」
「それよりなにしに来たの?」
「いや、私が来たらと事件が起きるかなぁって。で、どう?」
「事件なんかそうそう起こる訳ないじゃない」
「いやいや。こういうイレギュラーが登場したら起こるのがお決まりで」
「イレギュラー?」
「あかの人生におけるイレギュラーは私だから」
「そんなイレギュラーはいらない」
玄は頭に乗せた手をガシガシと少しだけ強くなで回す。
「もうっ、玄ちゃんっ!」
朱夏が怒るのも気にせず玄はなでまわし続ける。
6月24日 雨のち晴 文化祭前日 抜けた髪の本数(目視できただけで)57本。
髪は長い友達。
物語が行き詰まってくると登場人物が増えるような気がする。
一人芝居というジャンルがある以上、登場人物は一人いれば充分だ。
『小説にならない人生などない。 』芦田はそう言っていた。
朱夏の人生は至って平凡なものだと思う。発電関係の機械製造会社に勤務する父と原子力関係の技術者の母、二つ年上で名古屋の大学に通っている姉がいる。 公立の小中学校を出て、ちょっとだけ勉強して市内で三番手の進学校らしい高校に入った。総合学科と言われる学科だったけれど、特に他の学校と変わらない。 と、ここまで考えて朱夏はやっぱり小説になどなりそうにないなと思う。
「あか」
うううう…と朱夏は顔を曇らせる。やっぱりこうくるのかとも思う。
「玄ちゃん! 帰ってきてたの?」
「姉に向かってその言い方はないなぁ」
「なにしにきたの?」
「暇だったから様子見に来た」
そう言って玄は自動車のキーをちゃらりと鳴らす。
「ウチもそうだったけどイマイチ盛り上がりにかけるね」
「香風は他にいろいろあるでしょ」
「この時期はメイポールダンスやって疲れ切ってる」
「香風も明日からだって聞いたけど」
「ふぅん」
玄は朱夏に近寄るとふいに頭をなでた。
「子ども扱いしないで」
「子どもだから」
「じゃない」
「子どもじゃない。アレ」
てるてる坊主を指さす。
「あれは郡司先生が作ったの!」
「そうなの」
「それよりなにしに来たの?」
「いや、私が来たらと事件が起きるかなぁって。で、どう?」
「事件なんかそうそう起こる訳ないじゃない」
「いやいや。こういうイレギュラーが登場したら起こるのがお決まりで」
「イレギュラー?」
「あかの人生におけるイレギュラーは私だから」
「そんなイレギュラーはいらない」
玄は頭に乗せた手をガシガシと少しだけ強くなで回す。
「もうっ、玄ちゃんっ!」
朱夏が怒るのも気にせず玄はなでまわし続ける。
6月24日 雨のち晴 文化祭前日 抜けた髪の本数(目視できただけで)57本。
髪は長い友達。