rain sound-12
文字数 987文字
―◆―
「あんた何組だっけ」
「七組。そろそろ本当にやめて」
朱夏はぶすっとした声で言う。払いのけてもムダなことはコレまでの年月で知っている。
「つれてって」
「なんで?忙しいんだけど」
「誰もいないじゃん」
「……」
「あ、そうだ。これ」
玄が手に持っていた紙袋を持ち上げる。なんとなく朱夏は受け取る。
「ヤバトンのTシャツ。欲しいでしょ」
朱夏は紙袋をのぞき込んでビニールに入ったものを取り出す。紺色の布がある。
「中見ないの?」
「いい。後で家で見る」
「何で」
「ネーミング的に、ここでは開けない方が良さそうだから」
「どうして」
「玄ちゃんが意気揚々と買ってきたものにはロクなものがなかったから」
「毎年クリスマス・プレゼントあげるじゃない」
「そうだね。ありがとう」
「心がこもってない」
「クマのぬいぐるみは殺人的に怖かったし、バッグは鉄板が入ってるんじゃないかってくらい重いし、防弾チョッキを喜ぶ高一がどこにいるの?」
「命より大切なものはない」
「だからって防弾チョッキはない」
「防刃の方が良かった?」
「大差ない」
「ベレッタとか」
「つかまりたくない」
「陸奥守とか」
「廃刀令違反」
「それってまだ有効なの?」
「廃止されたとは聞いてない」
「ところでここは何をしているの?」
「何も…って、古本市」
「古本ってあれ売り物なの」
「売り物です」
「さっき一冊取っちゃった」
「返して」
「タダって書いてあったけど?」
「除籍したのか。あれ創立当時からあるヤツもあるから相当に古い本だよ」
「転売する」
「は?」
「転売。これなんか多分いくらか値段つくから」
バッグからハードカバーの文庫本を取り出してみせる。朱夏には確かに珍しいもののようにも思えた。
「はやくつれてって」
「どこに」
「あんたのクラス」
「そこの階段降りて左に行って真ん中あたり」
「つれてって」
「忙しい」
「誰もいないのに?」
「店番はいないと」
「つれてって」
「み・せ・ば・ん」
玄はちぇと言って本当に残念そうな顔をした。心なしかてるてる坊主に似ている。
6月24日 雨のち晴 文化祭前日 古本市残り951冊
閑話休題と閑古鳥って似ている。
「あんた何組だっけ」
「七組。そろそろ本当にやめて」
朱夏はぶすっとした声で言う。払いのけてもムダなことはコレまでの年月で知っている。
「つれてって」
「なんで?忙しいんだけど」
「誰もいないじゃん」
「……」
「あ、そうだ。これ」
玄が手に持っていた紙袋を持ち上げる。なんとなく朱夏は受け取る。
「ヤバトンのTシャツ。欲しいでしょ」
朱夏は紙袋をのぞき込んでビニールに入ったものを取り出す。紺色の布がある。
「中見ないの?」
「いい。後で家で見る」
「何で」
「ネーミング的に、ここでは開けない方が良さそうだから」
「どうして」
「玄ちゃんが意気揚々と買ってきたものにはロクなものがなかったから」
「毎年クリスマス・プレゼントあげるじゃない」
「そうだね。ありがとう」
「心がこもってない」
「クマのぬいぐるみは殺人的に怖かったし、バッグは鉄板が入ってるんじゃないかってくらい重いし、防弾チョッキを喜ぶ高一がどこにいるの?」
「命より大切なものはない」
「だからって防弾チョッキはない」
「防刃の方が良かった?」
「大差ない」
「ベレッタとか」
「つかまりたくない」
「陸奥守とか」
「廃刀令違反」
「それってまだ有効なの?」
「廃止されたとは聞いてない」
「ところでここは何をしているの?」
「何も…って、古本市」
「古本ってあれ売り物なの」
「売り物です」
「さっき一冊取っちゃった」
「返して」
「タダって書いてあったけど?」
「除籍したのか。あれ創立当時からあるヤツもあるから相当に古い本だよ」
「転売する」
「は?」
「転売。これなんか多分いくらか値段つくから」
バッグからハードカバーの文庫本を取り出してみせる。朱夏には確かに珍しいもののようにも思えた。
「はやくつれてって」
「どこに」
「あんたのクラス」
「そこの階段降りて左に行って真ん中あたり」
「つれてって」
「忙しい」
「誰もいないのに?」
「店番はいないと」
「つれてって」
「み・せ・ば・ん」
玄はちぇと言って本当に残念そうな顔をした。心なしかてるてる坊主に似ている。
6月24日 雨のち晴 文化祭前日 古本市残り951冊
閑話休題と閑古鳥って似ている。