rain sound-15
文字数 1,367文字
―◆―
古本市が行われる学習室①に行くとてるてる坊主の首が切られていた。
「先生、怖いです。子どももくるので取ってください」
「私は約束通りにしただけ」
とりつく島もない。
「龍蔵寺さんのクラスは何だったの?」
「つりぼり、だそうです」
「キャッチアンドリリース、ね」
「そういわれるとエコロジーですがけれど…結局昨日の決壊で鮎は4分の1亡くなりました。今日買ってくるとか」
という訳で、朱夏は臨時に300円の出費を余儀なくされた。断る手もあったけれど、当番を文化祭の間中フケる身としてはいたしかたない。
「そろそろ体育館に行きなさい。点呼始まっちゃうから」
出欠席は朝の体育館で取ることになっている。お化け屋敷などで教室が使えないクラスがあるからだ。
朱夏が体育館に入ろうとすると脱いだ上靴で体育館の隅はあふれかえっていた。少しばかりは踏みつけられる覚悟はしていると勝手に判断して、上靴を脱いで両手に持ち、ほっほっほっと靴の間を飛び石の上を渡るように飛んでいく。
―あか…
クラスの列の一番後ろに碧子が立っていて、出席簿を持っている。
―遅いよ。
「ごめんね。私が最後?」
「何人か来てないのもいるけど、サボりだよ」
「そう」
朱夏は腰を下ろした碧子の後ろに、すとんとしゃがみ込む。
オープニングセレモニー!みたいな派手なものはなく、淡々と事が進んでいく。
前の碧子の背中をつつく。
「藤崎先生は?」
「私にコレ預けてグラウンドに行ったよ」
碧子は出席簿を持ち上げる。
「なんてアバウトな…」
「いいんだよ、アバウトで。隣見てみなよ」
朱夏は隣の列を見る。南埜先生のクラスだ。四角四面。カチコチに固まっている。怯えさえも感じさせる。
「人は自由を主張しないと。不断の努力で自由は維持できるんだよ」
「この状態は放置とも言うよね」
「まぁ、自由すぎても自由から逃亡するっていうよ」
「人はどうしたいのかね」
「さぁ? まずはこの蒸し暑い空間からの解放を望もう」
「とはいえ、この天気じゃ試合になんないよね」
「藤崎はやる気だったよ」
「うわぁ…」
泥にまみれた選手を想像して、お腹のあたりがジャリジャリするような気がした。
――開会宣言。
いつの間にかプログラムは進んでいる。壇上のマイクの前に昨日劇部に圧倒されていた男子らしき人が出てきた。実行委員長は彼なのだろう。
それからが長かった。彼は10分以上文化祭の歴史と名前の由来、今回のテーマについて一通りコンコンと話したのだ。三つの話題を話した事を考えるとむしろコンパクトだったかもしれない。けれども、それにしたって10分以上という時間は、この六月の、この雨の体育館で、この全校生徒の前で、話をし続けるというだけで悪夢であった。
――ここに開会を宣言します。
あとは流れ解散。
ステージの上に並べられた椅子はこの後行われる、吹部の午前の部用らしく、セレモニーでは演奏しなかった。
「じゃあ、学①に行くね」
「あとで様子を見に行くよ」
碧子と別れた。
6月25日 文化祭1日目 雨 開会宣言の時間14分56秒
自分で自分を褒めてあげたい。
古本市が行われる学習室①に行くとてるてる坊主の首が切られていた。
「先生、怖いです。子どももくるので取ってください」
「私は約束通りにしただけ」
とりつく島もない。
「龍蔵寺さんのクラスは何だったの?」
「つりぼり、だそうです」
「キャッチアンドリリース、ね」
「そういわれるとエコロジーですがけれど…結局昨日の決壊で鮎は4分の1亡くなりました。今日買ってくるとか」
という訳で、朱夏は臨時に300円の出費を余儀なくされた。断る手もあったけれど、当番を文化祭の間中フケる身としてはいたしかたない。
「そろそろ体育館に行きなさい。点呼始まっちゃうから」
出欠席は朝の体育館で取ることになっている。お化け屋敷などで教室が使えないクラスがあるからだ。
朱夏が体育館に入ろうとすると脱いだ上靴で体育館の隅はあふれかえっていた。少しばかりは踏みつけられる覚悟はしていると勝手に判断して、上靴を脱いで両手に持ち、ほっほっほっと靴の間を飛び石の上を渡るように飛んでいく。
―あか…
クラスの列の一番後ろに碧子が立っていて、出席簿を持っている。
―遅いよ。
「ごめんね。私が最後?」
「何人か来てないのもいるけど、サボりだよ」
「そう」
朱夏は腰を下ろした碧子の後ろに、すとんとしゃがみ込む。
オープニングセレモニー!みたいな派手なものはなく、淡々と事が進んでいく。
前の碧子の背中をつつく。
「藤崎先生は?」
「私にコレ預けてグラウンドに行ったよ」
碧子は出席簿を持ち上げる。
「なんてアバウトな…」
「いいんだよ、アバウトで。隣見てみなよ」
朱夏は隣の列を見る。南埜先生のクラスだ。四角四面。カチコチに固まっている。怯えさえも感じさせる。
「人は自由を主張しないと。不断の努力で自由は維持できるんだよ」
「この状態は放置とも言うよね」
「まぁ、自由すぎても自由から逃亡するっていうよ」
「人はどうしたいのかね」
「さぁ? まずはこの蒸し暑い空間からの解放を望もう」
「とはいえ、この天気じゃ試合になんないよね」
「藤崎はやる気だったよ」
「うわぁ…」
泥にまみれた選手を想像して、お腹のあたりがジャリジャリするような気がした。
――開会宣言。
いつの間にかプログラムは進んでいる。壇上のマイクの前に昨日劇部に圧倒されていた男子らしき人が出てきた。実行委員長は彼なのだろう。
それからが長かった。彼は10分以上文化祭の歴史と名前の由来、今回のテーマについて一通りコンコンと話したのだ。三つの話題を話した事を考えるとむしろコンパクトだったかもしれない。けれども、それにしたって10分以上という時間は、この六月の、この雨の体育館で、この全校生徒の前で、話をし続けるというだけで悪夢であった。
――ここに開会を宣言します。
あとは流れ解散。
ステージの上に並べられた椅子はこの後行われる、吹部の午前の部用らしく、セレモニーでは演奏しなかった。
「じゃあ、学①に行くね」
「あとで様子を見に行くよ」
碧子と別れた。
6月25日 文化祭1日目 雨 開会宣言の時間14分56秒
自分で自分を褒めてあげたい。