rain sound-2
文字数 1,805文字
―◆―
「あか、帰ろ」
碧子が声をかけてきた。
朱夏は書きかけの学級日誌を指さした。
「今日、遅刻っていたっけ」
「たしか前田が遅刻だったよ」
まえだーと碧子は話しかけ、あぁの返事がした。
「ってさ、あか」
朱夏は遅刻欄に前田1名と記入する。
「おわり?」
かけられた声にうなずいて机の脇からリュックを取り上げた。
「あか、いつも重そうにしてるよね。置勉すればいいのに」
「毎日持って帰っていると慣れるというか、最高六科目だからそんなにはね」
「ふぅん」
碧子は気のない返事をして
「職員室寄るでしょ」
まわりを見ると机が下げられてスペースを確保されだしている。掃除が始まっている。
「ホラ!」
碧子がうしろの入り口のドアで大きな声を出してうながした。
「あかは大学決めた?」
職員室まで並んで歩きながら碧子に訊かれた。
「碧子は決めたの?」
「あたしは明学。白金台ってトコで過ごしてみたいから」
「白金って、東京の真ん中かぁ…。私にはムリかな」
「あかなら入れるよ」
「ムリムリ」
「そーなの? じゃアレはなに?」
碧子は共有スペースに貼ってある紙を示した。
第3回模擬試験結果とある。
「日本史85だよ。全国8位って」
「まぁ、日本史はね」
「他は?」
「国語が53、英語は38かな」
朱夏はその紙をちらりと見てリュックを背負いなおした。
「3教科だと、いくつ?」
「58かな…」
「58!?」
「いつもは51くらいだし、たまたまだよ。今回は文化史が中心だったから他の人が出来なかったんじゃないかな」
朱夏と碧子は教室に近い東側階段を上がる。
県立東雲高校の校舎は三つの棟から成り立っている。北から職員室や事務室、生徒会室などが入っているA棟。普通教室があるB棟。そして特別教室があるC棟がある。AからC棟をつらぬくように渡り廊下がつながっていて、上から見れば漢字の五の文字のようになっている。
三年生の教室はB棟一階で職員室はA棟二階にある。
上からだだだだっと脇を男子が駆け下りてくる。学校内がさわがしい。
「この時期にやらなくても良いのに」
「なにを?」
「文化祭。六月ってありえないよ」
碧子が大げさに頭をふってみせた。
「そう? 香風女子も同じ日だって聞いたけど」
「南高もらしいよ」
「人が来なくていい。人ごみ嫌いだから」
「模擬店禁止って時点でない」
「私はやらなくても良いと思ってる」
階段を上がりきると二年生のフロアになっている。
三年生のフロアに比べると華やかな感じだ。
A棟への渡り廊下を歩く。上に卒業生の進学先と名前が書かれた短い木の札が並んでいる。
「立命館がいたんだって思うよ」
碧子がつぶやく。国立文系コースにあって碧子はそうそうに私立に絞っている。
朱夏もつられて見上げる。けれど、見た先は山形大学人文学部の合格者だった。
職員室の前にはテーブルが置かれていて、荷物を置けるようになっている。
碧子がバッグをそこに置いたのを見て
「日誌置いたらすぐに出てくるね」
「私もちょっとだけ」
ドアをノックしてから一緒に入る。
担任の藤崎先生は席にいなかった。
「どうしたの?」
立ち尽くしていると隣の八木先生が聞いてきた。
「日誌出しに来ました」
「置いといて」
朱夏は日誌を置いた。
職員室の奥――反対の方を見ると碧子が誰かに話しかけている。
朱夏もそちらに歩いていき頭を下げた。
「龍蔵寺も用?」
「いえ…。日誌出しに来ました」
「用は終わり?」
「はい」
「七組は文化祭なにするの?」
「先生、それはないですよ」
碧子が楽しそうに言う。
「男子が何か言ってるけど、よくわからない感じです」
「碧子、ちゃんと司会でHRにいたよね。実行委がそれ?」
朱夏はあきれた。
「男子が口だしするなって言ってるんだから良いんだよ」
「碧子、長くなるなら帰っちゃうけど」
「別に特にってことはないから。先生これから補習でしょ」
そんな時間かな…と言いながら羽場先生はPCでの作業に戻った。
「帰ろっか」
碧子が歩き出す。朱夏もうしろをついてゆく。
6月23日 晴 欠席なし、遅刻前田、早退なし 特記事項文化祭四日前
「あか、帰ろ」
碧子が声をかけてきた。
朱夏は書きかけの学級日誌を指さした。
「今日、遅刻っていたっけ」
「たしか前田が遅刻だったよ」
まえだーと碧子は話しかけ、あぁの返事がした。
「ってさ、あか」
朱夏は遅刻欄に前田1名と記入する。
「おわり?」
かけられた声にうなずいて机の脇からリュックを取り上げた。
「あか、いつも重そうにしてるよね。置勉すればいいのに」
「毎日持って帰っていると慣れるというか、最高六科目だからそんなにはね」
「ふぅん」
碧子は気のない返事をして
「職員室寄るでしょ」
まわりを見ると机が下げられてスペースを確保されだしている。掃除が始まっている。
「ホラ!」
碧子がうしろの入り口のドアで大きな声を出してうながした。
「あかは大学決めた?」
職員室まで並んで歩きながら碧子に訊かれた。
「碧子は決めたの?」
「あたしは明学。白金台ってトコで過ごしてみたいから」
「白金って、東京の真ん中かぁ…。私にはムリかな」
「あかなら入れるよ」
「ムリムリ」
「そーなの? じゃアレはなに?」
碧子は共有スペースに貼ってある紙を示した。
第3回模擬試験結果とある。
「日本史85だよ。全国8位って」
「まぁ、日本史はね」
「他は?」
「国語が53、英語は38かな」
朱夏はその紙をちらりと見てリュックを背負いなおした。
「3教科だと、いくつ?」
「58かな…」
「58!?」
「いつもは51くらいだし、たまたまだよ。今回は文化史が中心だったから他の人が出来なかったんじゃないかな」
朱夏と碧子は教室に近い東側階段を上がる。
県立東雲高校の校舎は三つの棟から成り立っている。北から職員室や事務室、生徒会室などが入っているA棟。普通教室があるB棟。そして特別教室があるC棟がある。AからC棟をつらぬくように渡り廊下がつながっていて、上から見れば漢字の五の文字のようになっている。
三年生の教室はB棟一階で職員室はA棟二階にある。
上からだだだだっと脇を男子が駆け下りてくる。学校内がさわがしい。
「この時期にやらなくても良いのに」
「なにを?」
「文化祭。六月ってありえないよ」
碧子が大げさに頭をふってみせた。
「そう? 香風女子も同じ日だって聞いたけど」
「南高もらしいよ」
「人が来なくていい。人ごみ嫌いだから」
「模擬店禁止って時点でない」
「私はやらなくても良いと思ってる」
階段を上がりきると二年生のフロアになっている。
三年生のフロアに比べると華やかな感じだ。
A棟への渡り廊下を歩く。上に卒業生の進学先と名前が書かれた短い木の札が並んでいる。
「立命館がいたんだって思うよ」
碧子がつぶやく。国立文系コースにあって碧子はそうそうに私立に絞っている。
朱夏もつられて見上げる。けれど、見た先は山形大学人文学部の合格者だった。
職員室の前にはテーブルが置かれていて、荷物を置けるようになっている。
碧子がバッグをそこに置いたのを見て
「日誌置いたらすぐに出てくるね」
「私もちょっとだけ」
ドアをノックしてから一緒に入る。
担任の藤崎先生は席にいなかった。
「どうしたの?」
立ち尽くしていると隣の八木先生が聞いてきた。
「日誌出しに来ました」
「置いといて」
朱夏は日誌を置いた。
職員室の奥――反対の方を見ると碧子が誰かに話しかけている。
朱夏もそちらに歩いていき頭を下げた。
「龍蔵寺も用?」
「いえ…。日誌出しに来ました」
「用は終わり?」
「はい」
「七組は文化祭なにするの?」
「先生、それはないですよ」
碧子が楽しそうに言う。
「男子が何か言ってるけど、よくわからない感じです」
「碧子、ちゃんと司会でHRにいたよね。実行委がそれ?」
朱夏はあきれた。
「男子が口だしするなって言ってるんだから良いんだよ」
「碧子、長くなるなら帰っちゃうけど」
「別に特にってことはないから。先生これから補習でしょ」
そんな時間かな…と言いながら羽場先生はPCでの作業に戻った。
「帰ろっか」
碧子が歩き出す。朱夏もうしろをついてゆく。
6月23日 晴 欠席なし、遅刻前田、早退なし 特記事項文化祭四日前