第2話 臭い

文字数 902文字

 こんばんは。
今日は朝から雨、雨、雨。
やむ気配なし。

 ビルゲイツ夫妻の離婚話、新聞の三面記事に載っていた。世界規模の資産家ともなればニュースになるのですね。そう言えば社宅にいた頃、隣のご主人がビルゲイツに似てたなぁ。生粋の日本人だったけど。

 コロナ禍になる少し前から、定年離婚なるものがよく言われるようになった。アラ還の私も「定年までの我慢だ! 子どもが成人するまでは〜!」なんて息巻いたこともあったっけ。その感情、忘れたわけじゃないけど。

 私よりも少し年上夫の加齢臭を感じ始めて数年。その臭いは、とうとう私が我慢ならぬレベルになった。しかしストレートに「臭い」と言えない私。臭いなんて言われれば誰だって恥ずかしい。だからこそずっと耐えてきた。でもこれ以上は体調を崩しかねないと思った。「なんて言おう」

 注意することを決めてから数日が経った。考えあぐね伝えた言葉は

「最近、ちょっと体臭が気になるんだよね」

いかが?このセリフ。臭いと言わず、前からなんだよとも言わない。
夫は「わかった」とひとこと。
数日経ったら気にならなくなった。頑張って消臭?してくれたようだ。長く連れ添った夫婦でも、相手にわかってもらえないことは、まだまだある。言わないこともあるし、言えないこともある。

 数ヶ月は気にならない日々を過ごすことができた私。しかしそれは長続きしなかった。またも加齢臭。「一度言ったし、夫の性格上、不機嫌になるのは確実だ。どうしよう」

 頭を抱えていると…… ラジオから「加齢臭は首の上辺りの後頭部を洗うと効果的なんですよ〜」 との情報。まさに天の助けとはこのことだ。さっそく夫に

「後頭部から臭いが出るらしいよ」 

と前回の追加分として伝えたところ、言葉足らずだったのか「なんで、わかるの?嗅いでもいないのに」 と不機嫌になった。失敗。言い方違った? でも、まあ、伝わった。ああ、本当に気を使う。

 言わなければ伝わらない。些細ないざこざは空気の濁りのようなものだ。淀み過ぎれば息が出来ない。ビルゲイツ夫妻の離婚理由もそんな単純なことであってほしい。それなら仕方ないわね、と親しみを込めて、わかってあげられるから。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み